ポッキーの日
なんだこれ
頭おかしなるで
「あーくそ!」
俺の名前はウェード。道を歩くだけで女の子を虜にしてしまうナイスガイだ。いつものように朝起きて高校に向かおうとしていた。何か歌詞をつまみながらと思ってポッキーを取ったのが悪かった。
今日は11/11、ポッキーの日。
そらを知らずにポッキーを、持ってきてしまったのだ。イケメンモテモテパーフェクト男子の俺がポッキーなんて咥えてみろ。女の子に取り囲まれてしまうのは自明の理だった。
そして俺の身体能力もフルに活用して女子の大半は諦めて引き下がっていく。が、残りの数人がしつこい。
しかも今にもこちらに襲いかかろうとしている。一本ずつ分け合おうと提案しても、この勢いなら聞いてくれないだろう。みんな独り占めする気満々だ。
「wait !!」
手を上げて待てと声を上げる。
「何で今日がポッキーの日なのか知ってるか?」
その問いに少しクエスチョンマークをと浮かべる女子陣。
「まあ俺も知らないわけだけど、11/11がプリッツの日でもよくないか?ポッキーってチョコ少ないし。その点トッポは最強だな。最後までチョコたっぷりだもんな」
「ポッキー!」
「うお!?」
突進してきたので慌てて左に避けて足を引っ掛ける。ポッキー信者か?民度が低いなぁ。突進してきた女子はそのまま自滅した。これで一人減ったな、有難い。
「あいにくだけど、ポッキーはちょうど12本しかないんだ。みんなで分け合ってくれ」
──let's share pocky.──
まず手始めにいちばん手前にある女子の方に向けて、一本ずつポッキーを投げた。
「12」「あぅ……」
「11」「はぅ……」
さすが俺、見事に目標を達成した。
ポッキーを咥えた女子は昇天するかのように倒れた。当然だ。俺があげたポッキーなのだから。俺のものというだけでそれぐらいの付加価値がある。何せ俺はイケメンモテモテパーフェクト男子なのだ。
「「「うおおおお!!!」」」
ハルクのように筋肉ごりっごりの、初見では女子とは見分けのつかない体を筆頭に複数の女子が同時に迫ってくる。
当前逃げる。先ほどの二人の女子のように清楚系のメンヘラ気質のやつならポッキー一本で事足りるだろうが、先頭にいる結果盛んなこいつらは多分二、三本使うだろう。
そんなに無駄にはできない。弾にはかぎりがある。
逃げるが勝ちだ。しかし、撒くまでにポッキーを5本も消費してしまっていた。残り5本。
「わっ!?」
なんとか撒けたと思ったて後ろを振り返っていたら、だれかにぶつかってしまった。
「あらあら」
「あ、すみま……oh shit」
「うふふ、いいのよぉ」
最悪だ。
彼氏いない歴史=年齢のもうすぐ三十路の先生と出会ってしまった。
この人はとにかく酷い。俺のことになると見境がなくなるのだ。いないなと思ったらこんなところで待ち伏せていたとは。このままでは喰われてしまう。
しかし、俺はここで捕まるわけにはいかない!
「食らえ!」
「うむっ!!?」
いきなりポッキーを口に詰め込められてびっくりしたのか目が白黒する先生。
駄目押しの二本目で先生はゆっくりと倒れていった。
「はあー……」
心臓に悪い。ここで終わるかと思った。
「3!2!stupid!」
イライラしてもう追加で二本も口に押し込む。
「あ?そういやあと何人だ?」
「いたぞ!!」
「おいおい嘘だろ……」
清楚的な見た目の女子が三人も追いかけてきた。あと残り一本でどうしろというのだ。
これだけはやりたくなかったが……
俺は最後のポッキーを粘り回し、三等分した。
「おらあ!」
三人の口の中に命中。俺の唾液がついたポッキーを口に含んだ彼女らは即座に倒れた。
ポケットのスマホが震える。
「ジャーニー?」
「僕だよ、ウェード」
「あぁ、ピーターか」
「こっちはうまく教室に逃げ込めたけど。君がまだいなかったからね。調子はどう?」
「順調。俺もそっちに行くから。どこからでも入れるように窓とかドアとか全開にしといてくれ」
「on it.」
プツッと切れる。
ウェードはおもむろにポケットを探ると丁寧に包装された何かが出てきた。
ポッキーの日を知らなかったなんて、嘘だ。知っていたさ。こうやって女子が襲いかかってきやすい状況をわざと作ったのだ。この包装した菓子だって彼女のためのものだ。バレンタインとかはあからさますぎる。こういう日なら……。
「フラ〜ンシ〜ス♪」
一人の女性の名前を呟きながら、俺は一人寂しく教室へ向かった。
let's count them down
と
let's share pocky
をかけたかっただけ
なんだこれ