89 人形と焦燥
五話まで改稿終了。5話は暗かったので少し明るくするつもりで改稿しました。よろしければどうぞ。
大量の人形。それに抗う兵士たち。駆けていく英雄。
スクロールを使って転移した先ではそんな光景が見えた。
すぐに兵士たちが窮地であることを理解する。
ふっと、レッド達はこれよりひどい状態になっているんではないかと不安がよぎったが、考えないようにする。
不安で何もしないより、一度忘れて今に徹する方がいいだろう。
兵士たちを起点にして、放射状に土の槍を展開した。
全てではないが、とりあえず兵士たちの周りの人形たちは粉砕することができた。
後は兵士たちに人形が近くづく前に、ホットが掃討してくれるだろう。
そんなことを考えているうちにも、ホットは過たずこちらの想像を実現した。
奴が駆けたあとに残ったのは人形の残骸だけ。それ以外のものは何もない。
破壊という概念を形にしたような奴だ。
「恰好が違う人形を見なかったか?」
ホットは大立ち回りを繰り広げたというのに休みもせず、兵士たちにそう尋ねた。
「……あっちにいけばすぐに会える」
兵士たちは人形を相手にした疲れか、ホットの立ち回りを見た驚きからか、放心したような様子で行くべき方向を指さす。
ホットと俺は兵士が指した方向に行くと、先ほどの怪物を連れた人形と村人のような服装の6体の人形が現れた。
「身分制と奴隷制を廃止する」
「おお、理想の国の誕生だ」
怪物を連れた人形がそう宣言すると、6人の村人人形がそれを賞賛するような言葉を贈る。
奴らは俺らに気づいたのか、同じセリフを繰り返しながら、こちらに顔を向けた。
人形たちをひどく滑稽だと思う一方で、こいつらにレッド達が襲われていると思うと心臓をつくような恐怖に襲われる。
その視線に耐えきれなくなった俺は反射で、『ストリーム』をそいつらに向けては放った。
そうすると人形は砕け散り、先ほどと同じように怪物の人形からスクロールがドロップする。
俺はすぐにスクロールを拾って、魔力を通す。
人形たちを見るごとに焦燥が募っていき、先ほどの不気味な人形たちで限界に達していた。
兵士たちが追い込まれていた様子がフラッシュバックする。
今レッド達は時間経過で考えればあれよりもひどい状態に追い込まれていることが考えられる。
急がなければ、手遅れになりかねない。
使用可能になったスクロールを地面に叩きつけ、その上に乗った。
新しい場所にまた出る。まだ魔王の間ではない。
その場で近くの建物に八つ当たりたくなるが、抑える。
そんな事をしても時間の無駄だ。それよりも早くスクロールを確保して移動しなければならない.
『リード。あなた焦りすぎですよ。焦ったところでくだらないミスをするだけでしょうに』
一瞬、スリートの言葉を聞いて、怒鳴りつけそうになったが抑える。
こいつの助言はいつも正しい。指摘してきたということは今の俺は間違っているということだ。
一度深呼吸して、落ち着く。
熱くなった頭が冷えて、自分が平静を失っていたことに思い至る。
危ないところだった。
このままいけば、敵を早く処理するために魔法を連発した挙句、仲間まで巻き込んでいたこともあり得ただろう。
スリートの言葉がなかった時の事を考えるとぞっとする。
きっと、精神的にボロボロになっていたことだろう。
スリートに礼を言わなければならない。
『私に礼を言うよりもスクロールを探す方が先でしょう。焦るなと言いましたけど、急ぐなとはいっていませんからね』
すまん。
言われて、どうしてそんな簡単なこともわかっていなかったのか不思議になってくる。
焦らず、急がねば。
俺は急ぐあまり、走っていたようで、それをまず止める。
飛んだ方が早いのになんで俺は走っているんだ……。
先ほどまでの自分の行動に困惑しながら、風魔法で移動を再開することにする。
宙に浮いた時には、前方に光るスクロールがあることが確認できた。
下にいるホットも風魔法で持ち上げて、そこまで飛んでいく。
「えらく、効率がいいな。できるなら早くやってくれ」
ホットは苛立ちながら、小言を吐く。
「仕方ないだろ。状況が状況だから」と言い返したくなるが抑える。
言い争っている暇はない。
スクロールに乗る。
「王が求める平等などどこにあるのです? そんなものはありませぬ。ないものは実現できんのです。王よ、わかってくだされ」
転送される最中に人形の声が聞えた。
この声は無機質だというのに、ひどく嫌な響きを持っていた。
―|―|―
転移した先には怪物を連れた魔王と満身創痍の仲間たちがいた。
レッドは腹から血を噴き出し、ドムズは足をひきずり、ひどい状態であるがみんな無事だ。
やっと魔王の間にたどり着けた……。
奴らはまだ転移してきた俺に気づいてないようなので、仲間たちに向けて神聖術を行使する。
魔王は、回復した仲間を見るとこちらにニヤケ顔を向けてきた。
さすがに神聖術の光でバレたようだ。顎に土魔法を食らわせて不意うちを決めたがったが、それは欲張り過ぎか。
魔王がけしかけてきたのか、そばにいたカエル頭の竜のような怪物がこちらに突っこんでくる。
魔法で迎撃しようと思うと、そいつは真っ二つに分かれた。
気づくとそいつの前にはホットが立っている。奴がやったのだろう。
レッドとドムズが追い詰められる相手を一太刀で仕留める。
相変らず、おぞましい奴だ。
「ボルフ……。茶番はもう終わりだ」
ホットはニヤケ面の魔王に向けて、引導を渡すようにそういった。
形成逆転だ。




