82 英雄は仕事が早い
「なんでだ? そいつを倒さなければこれは終わらないだろ」
魔王の前に立つコールドを見て、困惑に襲われる。あと少しでこの国を奪還できたというのに、どうしてお前は邪魔をしたんだ。
「こいつを倒したら、この国は奪還不可能になるからだ。この魔王は国民から慕われている。ここで殺せば、国民たちの反感を買って、兵士たちを受け入れることはなくなる……。そうなってしまえば、国民の殺しあいは止められず、この国は滅びの道をたどる。それでは魔王をそのまま放置しておいた結末と同じだ。兵士たちの戦いの意味はどうなる」
ホットはこちらに背を向けて、魔王の元に向かっていく。魔王はホットの様子を見てた立ち上がった。
立ち上がった時に練気が消えていることに気づいたのだろう。一瞬驚いたような顔をするとすぐに先ほどのにやけ面に戻った。
「お前は俺を殺さないと言ったがどうするつもりだ?」
魔王は迫る英雄に向けて、言葉を投げかける。それは質問というより、嘲りを多分に含んだ言葉だった。
「こうするんだ」
ホットは魔王の腹を柄の先で殴った。魔王が前方に倒れるところをすかさず、支える。
「今からこいつを連れて城から脱出する。リード。俺らを運んでくれるか。おまえならできるだろ」
ホットは俺にそれとなくそんな言葉を投げかけてきた。こいつが言っているのは、特一級風魔法で全員を運ぶということだろう。
なぜおれが魔法使いだとこいつは知っているのだろうか?
ホットには他の奴らと同じように、素性は聖職者だと答えていたはずだ。
「なんで俺が魔法使いだと、わかった?」
「見ればわかる。それよりも早く、魔法を使って、運んでくれ。せっかく吹っ飛ばした魔王の娘がここに戻ってくる」
シェーンとホットの闘い。どうなるか懸念していたが、その言葉を聞いて少し安心した。シェーンは無事らしい。
奴の実力は知らないが、英雄を相手どれる程の実力を持っていたようだ。
新人の時の俺はとんでもない人間と接していたのかもしれない。
「わかった。複数人で飛ぶのは試したことはないが、やってみよう」
「待て……」
俺がホットに承諾の意を伝えると、レッドがそういった。
「まだバルザックが下にいる。奴をおいてはいけない。馬鹿な事を言っていることはわかるが、もう少しまってくれないか」
続けて、レッドは祈るようにホットにそう告げた。
ホットは無表情の顔でレッドを見つめて、口を開いた。
「そいつなら、死んだよ」
レッドはその言葉を聞くと、歯を食いしばった。
「すまない。厭な事を言わせた」
レッドは自分が応えているというのに、慰めるような声をホットにかける。
それから、レッドは王城のテラスまでこちらを案内した。
ここにこれ以上長くいることはリザードマンたちには酷だと思ったので、すぐに『エアパレス』を発動して、城から脱出した。
複数人を飛ばすのは初めてだったが、マナが操れるようになっているせいか、あまり一人で飛んでいるときと難易度は変わらなかった。
運ぶ人数がもう一人増えても、何も問題はなかっただろう。
少し後悔の念がこみあげてくる。




