80 国民の選択
自らが王であるという簒奪者はこちらに嘲るような笑みを投げかけてくる。
「貴様、よくも自分が王などという世迷言を」
レッドはそれを冷めた声で、すかさず否定する。だが魔王の顔に張り付いた笑みは消えることはない。
むしろ奴は先ほどよりもさらに笑みを深めた。
「世迷言ではない。俺は国民から支持を得て、認められた。これを王といわずになんという」
滅茶苦茶だこの男の言っていることは。
国民に恐怖を植え付けた状態で得た支持など、王たる理由にはならない。
国民は恐怖に従っただけでこいつを本当に王になってほしいとなどと思っていたわけではないのだから。
「事実、下でお前らを止めた国民共は俺を崇拝していたはずだ?」
魔王ボルフレディはそう同意を促すうように、言葉をなげかけくる。
「ふざけるな! 国民を恐怖で屈服させて、逆らえないようにしていたというのに崇拝も支持もあったものか!」
レッドがボルフレディに向けて吠える。
怒号を聞いても、奴は表情をまったく変えない。相変わらず喜色満面といった面持ちだ。
奴はニヤついた口を開いた。
「恐怖で屈服などさせてはないだろう。俺がやったことはただ、国王を殺害して国民に悪人を殺すよう促しただけだ。たかだかそれだけで人が恐怖に打ち震えるわけがないだろうが。奴らは自分の意思ですべて行っただけだ。俺は促しただけに過ぎない」
その言葉を聞くと、レッドは眼光を鋭くし、顔が更に険しくなった。
「虐殺を国民が自らの意思で行っただと……。貴様は国民の肉体だけでなく魂まで蹂躙するつもりか」
レッドは手に持った槍を魔王に向けて構えた。それに伴い、まわりのリザードマン、餓鬼族も戦う構えを取る。
「蹂躙したのは俺ではなく国民自身だ。悪人を殺せと言った時に俺に刃をむけなかった時点で奴らは俺を殺す必要性を捨てて、自分たちの中の気に入らないものを排除するという願望を選んだ。必要性を取って、みなで俺に刃をむければそれで虐殺は起きなかったはずだ。それくらい考えらればすぐ分かったはずだ。奴らはわかった上で、俺ではなく自らの隣人に刃を向けたのだ。これを奴らの意思と呼ばずに何という。奴らは自らの正義を否定して、俺という悪を受け入れたのだ」
魔王は笑みを消して、眉間にしわを寄せた。喜色満面の表情から一転、憎悪に染まった表情になる。
「もう一度言おう。この国の王は魔王である俺だ。それがこの国にはふさわしい」
そういうと、魔王が座る玉座の後ろからうつろな目をした人間たちが出てきた。その人間たちは多種多様な武器を持っている。
奴らはこちらに向けて進み出てくる。
これが魔王の戦闘態勢ということだろう。
開戦の火ぶたが切って落とされた。
俺も『フォース』をかけて戦闘態勢に入る。




