07 24時間営業は最悪
エルフの森。
そこには50メートルはありそうな壮大な樹が中枢に立ち、その周囲に街並みが広がっている。
街には鉄筋コンクリートでできたような四角の建物が立ち並び、それに寄生するようにして、木々が天に手を伸ばしていた。
景色に目を奪われていると、黄色い髪と尖った耳をした若者たちがこちらに向けて歩みよってこようとしているのを眼の端が捕らえた。
「おい、あそこに旅の方々がいるぜ、案内して差し上げよう」
こいつらは、にっちもさっちもわからない俺たちを善意で助けてくれようとする若者。
――ではない。
こいつらは獲物を見つけて近寄って来たハイエナどもだ……。
「シッシ!あっちにおいき!人でなしども!」
「そのきたねえ面を俺に近づけるんじゃねえ!」
「ぶん殴って、奥歯ガタガタ言わされてえか!もやし野郎!」
俺たちは三者三様にがなりたてる。
奴らは近づく途中でUターンして進路を変えた。
目を丸くして驚いたな顔をしていた。
だが俺らは奴らに騙されない。
「あいつら何なんだよ!」
エルフどもはそんなことを口走って、街の中に戻っていく。
そのしぐさに怪しいところはなく、自然に見える。
だが騙されてはいけない。
それは奴ら―狡猾なエルフどもの罠だ。
ここまでの道中に何度奴らに騙されそうになったことか。
「くっ……!」
少し安心して、気を抜いたせいで、地面に膝をついてしまった。
「リード、死ぬのは屋敷に戻ってからにしてください」
「リーさん、大丈夫!」
奴らの罵倒にも似た心配の声を聞き、立ち上がろうとしたが、情けないことにそのまま気力が切れて道のド真ん中に突っ伏してしまった。
地面が硬くて眠れねえ……。
やわらかいベッドに潜りたい。
俺はほぼ眠っていないのだ、ここ一週間。
眠れなかった理由の一つはあのエルフどもが悪徳商法で襲い掛かって来たせいだ。
買うまで帰らねえと言って、延々と馬鹿高い商品を押し売りしてきた。
二十四時間つききりで。
しつこすぎるにもほどがある……。
まあ奴らのせいだけではなく、追い返すに至らなかった俺にも今回の原因は在ると思うが。
しかし、それもしょうがないと言えばしょうがない。
アルテマイヤが夜になると狂暴化して、俺とトリシュに襲い掛かって来るのだから。
魔法をぶっ放すわ、飛び蹴りして来るわ、寝込みに首を絞めてくるわ。
アルテマイヤを二人がかりで抑え込み、エルフの押し売りに対応する。
これでどうやって寝ろというのだ。
毎夜モンスターに襲われ、眠れない狂戦士の気持ちが今の俺にはわかる。
「俺は……限界だ。アルテ、トリシュ……どっか近くの宿に連れて、てくれ……」
「しっかりしなさい。行き倒れなんか引きずてったら、またエルフに付け込まれるでしょうが」
「ちょ、リーさん。エルフの前だよ。マジでやばいよ!」
俺の体を二人がかりで揺さぶったり、叩いたりして来る。
エルフに弱みを見せるとえげつないことになるのを知ってるからな。
必死になるのもしょうがない。
だが、そんな同僚たちの様子を見ても、俺は立ち上がれる気がしなかった。
疲れによる眠気の誘惑が強すぎるのだ。
「早く立ち上がりなさい!エルフが私たちに狙いを定めています!?」
言われなくとも危険な状況だとわかっている。
エルフどもには今の俺たちは格好のカモだ。
眠いが、最後の力をひねり出して立つくらいはしよう。
眠気の誘惑を跳ね、疲れた体に鞭を打ち、大地に立つ。
だが、身体が動かない。
一度切れたスイッチは、入りにくい。
もう完全に睡眠に体が移行している。
立てただけでも奇跡だったのだろう。
「直立不動てなんですか、あなた!?」
「しっかりしてよ!エルフに囲まれるんだから!」
二人の必死な声が遠くから聞えて……。
あー、ダメだこれ。
俺はエルフの森の真ん中で眠りに落ちた。