57 相克する魔法
勝利宣言が聞こえるとともに、倒れるような音が聞えた。
どうやら魔王も倒れたようだ。もう限界だったのだろう。
あれだけ出血して立っている方が、おかしかったのだ。
魔王は倒れたというのに、まだここは火で覆われている。
俺を確実に殺すためにまだ術だけは、維持しているのだろう。
出血で瀕死の魔王が最後にできることといえば、それしかない。
魔王と心中か……ろくでもない最後だな。
そんな事を思っていると、突然光が視界を覆いつくした。
光と共にかすむ視界が急に晴れた。
晴れた視界の中には神聖術の光に覆われた少女と困惑した顔で地面に這いつくばっている魔王がいた。
その少女はよく知っている。この過去の世界で始めてあった少女。
師匠だ。
「なんでこんなところにいるんだ?」
疑問が生じ、師匠に問いかける。
「なんで? こっちが聞きたいです。どうして、こんなことになっているんですか?」
師匠は炎に包まれているせいか、苦しそうな声で聞き返してきた。
炎の中の真っただ中にいるが、上級神聖術『リジェネーション』で師匠の体は回復している。
だが回復しているといっても、火にあぶられ火傷を負っていく、その姿はとても痛々しい。
「リード、あなたは一度シェイムを助けたはずなのになんでこんなことを……。シェイムは助けられたのになぜ許せなかったんです?」
師匠はスリートがやったことを察していたようだ。魔王と違い、傍観できる位置に居たからだろう。
スリートが手をかざした瞬間、ショットが弱体化した。逆にこれを見ても何も関係がないと思える人間はそうはいない。
だから、学園に退却するとき、悲しそうな顔をしていたのか。
「助けた? リーデンベルグが僕を? どうしたらそんなことになるんだ。彼は僕らの邪魔をしたり、攻め入ることしかしていないじゃないか。それなのに助けた? 荒唐無稽すぎる。君はどうして彼の肩を持つんだ?」
俺が応えられずにいると、魔王が師匠に対して疑念の声を上げた。
その声には責めるような高圧さがあった。
「事実を言っているまでです。ではあなたはあの魔王があなたを殺しそこなったことをどう説明をつけるのです」
師匠は魔王の高圧な態度にもひるまずに、毅然とした声でそう言った。
魔王の表情はそれを聞くと困惑したような顔から見ているものを凍てつかせるような無表情に変わった。
「ただあの魔王がしくじっただけでしょう」
「なっ!?」
「こんな茶番は終わりにしよう。僕には君達が二人で共謀して学園を追い詰めようとしたようにしか思えない。そうやってリーデンベルグの肩を持っているのがその証拠だ。神聖術で僕を回復させてまで騙しにかかるなんて悪趣味なくらい手が込んでる。二人もろとも消えて下さい」
奴が冷めた声でそう云い放つと火の威力が強くなった。『リジェネーション』で相殺されていた師匠の体が燃え始めた。
回復速度を燃焼が上回ている。
師匠は苦悶をこらえるように身を屈め始めた。
師匠は俺と魔王を助けて、ただ争いの仲裁をしようとしただけなのに。
この仕打ちはあんまりだ。
師匠を覆う炎を何としてもでも消さなければならない。
上級水魔法『ウォーターロック』で師匠を覆うとするが構成した瞬間に蒸発した。
水魔法は蒸発させられる。俺の力ではどうにもできない。
ダメもとで奴に頼むしかない。
「スリート! 奴の魔法を相克する方法を教えてくれ! 頼む」
俺は叫んだが奴は姿を現さなかった。
だが姿を出さないからといって、簡単にあきらめるわけにはいかない。
高々それで見捨てていいほど、目の前の少女の命は軽くない。
「俺が悪かった。お前の忠告を無視した挙句このざまだ。もう一度力を貸してくれ」
謝罪と懇願をするがスリートは現れない。だが
「あれは相殺するには、魔力をありったけ注いで水6火1土1風2でやってください。目分量ですからできる確証は在りませんが」
声だけで奴はそう答えた。
確証がなくても良かった。ただその言葉に従って、ありったけの魔力を込めて、それを発動させた。
炎に包まれた世界が一瞬にして水の支配する世界になった。
口から泡が漏れた。
魔王は驚いたような顔でこちらを見、師匠は火傷に水がしみるのか痛そうな顔をしている。
「えらく魔力を込めたものですね。ここ、水が入りすぎて破裂しますよ」
そうスリートの言葉を聞くと水の流れが変わり、流された思うと空に投げ出された。




