54 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている
真夜中、見知らぬ場所で友人が倒れている。
事件の予感しかしない。
ショットを揺さぶってみる。が、起きない。
息はあるようだが完全に気絶しているようだ。
一体何があったというのか。こいつを気絶させるような何かが起こったことしかわからない。
ギャアアアア――!!
何かの悲鳴のような音が響き渡る。音は鼓膜を押し潰さんばかりの勢いで耳に突撃してくる。
すぐに理解した。これは攻撃だ!
音が入らないように耳を抑える。だが、まったく意味がない。
こちらがフタをしても、音はそれをやすやすと貫通してくる。
逃れることができない。一つの感覚器が捕らえる情報がここまで大きな苦痛を生み出すとはおもわなかった。
頭が破裂すると思うと、耳がいきなりひどく聞こえづらくなった。
苦痛からは解放されたが嫌な予感がしてたまらない。
耳の中に異物感を感じたので、左に傾けて頭を叩くと耳の穴から何かが垂れてくる。
垂れてきたものを拭って、見るとそれは血だった。やはり鼓膜が破裂していたようだ。
ここは最悪だ。ささっと出ることにしよう。
つぶしにかかって来るのが耳だけとは限らないし。
ショットを深淵から引きずり出して、デュラハンの海へ再度突撃していく。
先ずショットの治療と俺の鼓膜を直さなければならない。
周囲にいるデュラハンを『ボム』で一掃して、周りを『アースフォール』で囲んで簡単なバリケードを作った。
これで神聖術を行うときの邪魔は出来ないだろう。
祈りをささげて、『オールリペア』をショットにかける。俺も術の範囲内に入っているので鼓膜が回復した。
「さて、このままここから帰らせてもらうか」
ショットを抱えて、学園から出ようとすると
グー……
腹の虫が鳴いた。
「そういうわけにはいかないよな……」
俺たちの本来の目的は食料の調達だ。このまま荒野にのこのこ戻ったとしても、さらに空腹によって衰弱が進んだ状態で学園に行くことが眼に見えている。
しかも、俺たちはもう1日半も食っていないし、空腹は限界に至っている。
次行く時に体が動く保証はない。
深淵でおぞましい目にあったばかりだが、食料調達をせずに帰るのは出来ない話だ。
しょうがないので、ショットを再び横たわらせる
「さっさと逃げたほうがいいんじゃないんですか?」
悪魔が俺の耳元でささやいてくる。
「そんなことをしたら餓死するだろ」
スリートにそう言って、俺はバリケードから飛び出し、校舎へと走っていく。
食堂は一階にあるので、すぐに到着した。
学園にいたときは何も思わなかったが、今俺にはここが宝物殿に見える。
今までは食料は手に入らないことなどないと思っていたから、あまり価値が見いだせていなかったがそれは大きな間違いだった。
月に照らされて、容貌が見え隠れする食材たちを、近くにあったずた袋の中に詰めていく。
気分は宝に目がくらんだ卑しい盗賊の気分だ。必要に迫られての事だが罪悪感が半端ない。
ずた袋がぱんぱんになったら、食堂から飛び出し、ショットのもとをめざす。
アイツ回収したら、こんな魔境からもささっとおさらばだ。
グランドに出て、奴の元をめざしていくと奴の姿が見当たらなかった。
代わりにその場所には深淵があった。どういうことだ?
そんな疑問を浮かべていると、深淵の壁が俺に向かって伸びてきた。
「ふざけんな!」
建物なのになんでそんな芸当ができるんだ。俺は慌てて、後方に走り出そうとしたが、肉肉しい壁に飲み込まれた。
“深淵は生きている”
飲み込まる最中、いつぞや聞いた、上司の言葉が思い出された。




