45 教会はおそらくブラック企業
「あなたはリーデンベルクさんというんですか。では、リードというのは……ああなるほど」
魔王はそうつぶやいて頷いた。これで狙いの一つは達成だ。
リーデンベルクはリードと短縮して呼べるということと、俺と師匠が同僚という関係上、リードと俺をあだ名で呼んでいるのだと勘違いしてもおかしくないと思ったが上手くいったようだ。
だが、納得したような魔王の一方で、師匠はうさん臭そうなものを見る目で俺を見つめてくる。
「あなた、さっき、リードと名乗ったじゃないですか。なのにリーデンベルクてどっちが本当の名前なんですか?」
さすがに師匠は誤魔化せなかったようだ。あの時の状況から初対面同士で名乗ったのだからあだ名ではなく、正式な名前だと思って然るべきだからな。
師匠が疑義を挟んだことで、魔王が訝し気な顔をしている。あだ名で呼んでいると思ってた二人組がそうではないと言い出したのから当然だろう。
早く誤魔化しを入れないと、俺のイメージが偽名を使う怪しい奴になりかねない。
「いや、実はリードはあだ名だったんだ。リーデンベルクて呼ばれるとなんか肩苦しい気がしてな……。どうせ、あだ名で呼び合うことになるから、目上以外の場合はあだ名で自己紹介するようにしてるんだ。少し混乱させたな。申し訳ない」
俺は申し訳なさを態度で表すために、頭に手やりながら都合のいい嘘をそれらしく云う。
魔王は先ほどと同じようになるほどといった感じでポンと手を突いたが、師匠は先ほどの疑わしいと感じほどではないが、まだ怪しいという感じのジト目で見つめてきている。
二つ目の狙いの師匠に俺の名前をリードではなく、リーデンベルクと改めて認識させるのは微妙なようだ。
師匠にこれ以上、俺はリーデンベルクだと言ったところで、さらに怪しまれるような気がする。
これは保留にしといて、三つ目の狙いを実行することにしよう。
「あと、少し気を付けてもらいたいことがあるんですが」
「うん? リーデンベルクさん。なんでしょうか?」
「実は。俺は在るリザードマンと確執があって……。そいつは俺の名を騙って、俺の周りで悪さを起こすんです。もしかしたら、今回も俺らの近くに来ているかもしれない。俺の名を騙るリザードマンが来たら、追い返すか、俺に報告するかしてほしいですが」
「……それは難儀なことで。個人的にもそんなあくどい奴は許せません。責任もって承わせてもらいます」
魔王の言いぶりに、「あんたの方があくどいことをするんだけどな……」と言いたくなったが、抑え込む。
折角上手くいっているのにそんなことを言えば、水の泡だ。
これで三つ目の狙いのリーデンベルクと魔王が合流することの予防線を張れた。
リーデンベルクと名乗ることで一石三鳥を狙ったが、師匠のところで微妙だったので一石二鳥になったが十分な結果だろう。
師匠にはおいおい俺がリーデンベルクであると刷り込んで行けばいい。
タイムパラドックス回避と魔王が狂う要因の一つであるリーデンベルクの対策を講じられた。幸先はなかなかいい。
だが、ここに侵攻してくる魔王の対処という大きな問題が残っている。
その魔王についての情報はまだ出てきてないし、ここからどう転ぶかはわからない。
まだ予断は許されない。
「自己紹介が終わってすぐというのは何ですが。なかなかにひどい状態なので、早速仕事に取り掛かってもらいたい」
「そのために私たちは来たのですから、気遣いは無用ですよ」
気を遣う魔王に師匠がそっけなく答える。
そういえば、ここで教会の人間が何をするか聞いていない。まあ、おおよそけが人の治療だと予想はつくが。
魔王は俺たちを学園の中に入れると、まっすぐグラウンドの方に進んだ。グラウンドにはあの忌々しい深淵が見当たらない。
あれは大きいのですぐ視認できると思うのだが……。
まだシェイムは魔王になっていないのだろうか。
そんなことを考えていると、グラウンドにたどり着いた。
すると
「すいません。僕もやることがあるのでここで失礼しますが、治療の方よろしくお願いします」
魔王はそう言って、校舎の方に下がっていた。
俺の仕事の内容の推測はおおよそ当たっていたが、少し外れていた。けが人の数を予想のはるか上を行っている。
俺の予想では数十人程度だったのだが、グランド全体にけが人が横たわっているところを見ると、数百人はいっているだろう。もしかしたら千は言っているかもしれない。
いくら何でも量が多すぎる。これを二人でやれというのか?
オーバーワークにもほどがある。
「では、仕事を始めましょうか」
こちらの絶望をよそに、泰然とした様子で師匠は無慈悲な言葉を告げた。




