40 同僚はなにを考えてるのかよくわからない
今日の特訓は場所がいつものグラウンドとは違い、学園を見下ろせる山の中だった。
「悩みは解決して、精霊魔法の習得に集中できそうかい?」
師匠は儀式を中で精霊にもみくちゃにされながら、こちらに尋ねてくる。
上級神聖術『リジェネーション』をかけているので、端々から回復しているとはいえ、精霊に触れられた場所に裂傷ができていく様は非常に痛々しい。
俺も精霊魔法を習得したら、これをやると思うと嫌になって来る。
「そうですね。一時的ですけど、悩みは解消されたといってもいいですかね。まだ大本が残っていますがそこまで差し迫ってもいないし、精霊魔法も集中して出来そうですよ」
戯れていた精霊が消えたと思うと、師匠は胡坐をかいて、こちらに向き直った。
生傷だらけの顔は俺の返事を聞いて、喜んでいると思ったが無表情だ。
「少し気になることを聞いていいか?」
師匠は俺にそう言葉を投げかけた。
尋ねるような口調だったが、こちらの返事を待たずに言葉は続けられた。
「君は学園長が深淵に出入りしている時間、私と訓練をしているのになぜ学園長が不審な行動をしていると気づけたんだい?」
師匠はまるでこちらを疑っているような口調だ。師匠は魔王より俺の方が怪しいと思っているのかもしれない。少しイラっとした。
どうみても証拠的に魔王が怪しいというのに、こちらを疑うなんて馬鹿なことがあってたまるか。
「いや、ただ単に俺の同僚のアルテマイヤ、トリシュが怪しい行動をしているからといったからですよ」
「なるほど。じゃあ、続けて、もう一つ質問をさせてもらう。今回のことで行動を起こそうとしたのは誰だい?」
「おれですよ」と言おうと思ったが、口を動かす前に間違っていることに気づいた。
今回の行動の発端はアルテマイヤのたれこみだ。俺ではない。
「……いや、俺ではなく、同僚のアルテマイヤですけど」
「彼女の動機は?」
アルテマイヤの動機?
そんなものは、決まっている。学園に怪しいことが合って、それに巻き込まれないため……。
うん? でもそれだとおかしくないか。別に俺たちは学園に拘束されているわけでも何でもないのだから、ただ単にここからおさらばすればいいだけの話だ。
じゃあ奴の動機は何だ? 俺のように仲間――エラーがかかわってしまっているわけでもないのに。
「……それはわからないですけど」
「そうか。では私にはシェイムより彼女の方が怪しいように思えるな。……きみもちゃんと情報を教えてくれないと困るな。昨日、君が見れないはずの学園長を見たという矛盾に私が気づかなければ、彼女が怪しい人物だと気づくことができなかった」
怪しい人物……。確かに今の状況だけで言えば確かにそうかもしれないが、本人に聞かなければわからない。
「リード、君は単純な奴だから釘をさしておくけど、本人に直接聞くなんてやめてくれよ」
この人はエスパーかなにかか、過去に信頼している人間を疑わなければいけない状況に追い込まれたことでもあるのだろうか。
俺の考えていることを見透かしすぎだ。
「そうだな。疑わしい人間の真意を知るには、言動を良く観察することを勧めるよ」
忠告からの的確なアドバイス。一体師匠の人生には何があったのかというのだろう。
本当に魔法使いで精霊好きである事以外の経歴が謎の人間だな。
それにしても魔王だけでなく、身内であるアルテマイヤも疑わなければならないのか。
嫌な気分になって来る。信頼している人間を疑うということ自体もあるし、もし対立した場合、奴の魔法の餌食になることが用意に想像できるからだ。
「じゃあ、言うことは言ったし、精霊魔法の――」
「ふざけるなああああああ!!」
師匠が特訓を始めようとする声を遮って、いきなり獣の咆哮のような男の叫びが聞こえた。
それと同時に学園の方から悲鳴が上がる。
「えらく、きき覚えのある声だね」
師匠は悲鳴の上がった学園ではなく、深淵の方を見つめて、ため息交じりにそうつぶやいた。
俺は学園――深淵でなにかが起こったことを確信した。




