25 学園長に挨拶
「リーさん、起きなよ」
誰かの呼び声が聞こえるので目を開けると一面の青とトリシュの顔があった。
状況がよくつかめない。あの張りぼて少女にタックルを決めて、テストはクリアだったはずだ。
なのに何故俺は気絶して今まさに目を覚ましたような状況に、置かれているのか。
おそらく、テスト後の油断した時分に重大インシデントが発生したのだろう。
「リードさん、すいません。あの子攻撃的な子で、新入生には厳しいもので……。リードさんが頑丈で助かりました」
こっちは助かってないんだよなあ。気絶してるし。
あっちの世界だったら、学校集会もんだよ。
来る前からなんか嫌な予感がビンビンしていたが、ここまでとは。
まさか試験官の先輩生徒からヤキを入れられるなんて。
もしかして、ほんとはどこぞのギャングみたく、ぼこぼこに殴られるのが本当のテストだったのか……。
「もしかして、ここて不良校?」
「な!? そんなわけはありません。ただ少しエラーさんは情緒不安定なだけで……。リード殿、この、クライハ・レッドハウンド、現教頭として頭を下げますのでそれで怒りを鎮めていいただけませんか?」
「いや、そんな……怒っていま……」
「リード……」
下らないつぶやきで何だか不穏な方向に物事がいきそうなので、弁解をして話をそらそうとするとアルテマイヤが横やりを入れてきた。
「まったく、あなたは自分の不手際で人に頭を下げさせて、悪いとは思わらないんでですか?」
「ごもっとな意見です」
アルテマイヤが正論を掲げたので降伏をする意を伝える。それを言われたらもう言い返せないからな……。
全て俺の不手際ということになり、ここのことの収集はつくことになった。
―|―|―
金髪のお姉さんこと――クライハ教頭が最後に学園長に挨拶をするというので、本館一階の学園長室に連れていかれた。
少し白みかかった空を見渡せる対面の壁上半分を占める窓、大きな椅子の背。
部屋に入った時、それらが異様な存在感を放っていた。
大きな机、や本棚といった他にも目立つものがあるのだが、どうにもこちらから見る位置取り的にそこに視線が吸い込まれるようになっている。
存在感を感じる理由としてそれらもあるが、一番大きな理由としては椅子と大きな窓の間に人の気配があるのが大きいだろう。
「ハーレーのお節介にはあなた方も、苦労したでしょう。あの子は我が校にいたときからお節介がひどくて、何かと言うと同級生たちをひどい目にあわせていましたから。直せと言って早10年たちますが、辛くもいまだ治っていなかったようで、残念なような嬉しいような……。
すいません、話がそれましたね。自己紹介をさせてもらいたいと思います」
椅子の向こうから長広舌をふるうかと思うと、椅子を回転させ始めた。回転させると言ってもそういう仕様という訳ではなく、椅子ごと浮遊して、回すといった感じだが。
どこぞのマジックのイリュージョンによく似ている。
椅子がこちらに向くと、クライハ教頭とよく似た、いや長髪である以外は瓜二つの女が姿を現した。
こちらを向くまでは柔和な笑顔だったが、完全にこちらを向いたときには睨みつけるような眼に変わっていた。
何だか、とても恐ろしい。
しかもこちらに目線が向いていているような気がするが気のせいだろうか。
「リーデンベルク……。どの顔をして私の前にまた現れたというのです」
学園長は先ほどの高い華やいだ声ではなく、ひどく低く恨みがましい声をこちらに向けてきた。
「お姉ちゃん。この人、そんな名前じゃなくて、リードて人だよ。最初から間違えたら失礼だよ」
張り詰めった空気の中で、クライハ教頭ののほほんとした声が聞こえる。
「それは、本当ですか?ライ、ギアスロールを見せなさい」
学園長はこちらを睨みつけたまま、器用にギアスロールを受け取ると、視線をそこに移した。
それを見ると、心底驚いた顔で二、三度こちらの顔を見つめる。
「すいません。リード殿。私としたことが人違いをしてしまいました。私が昔遭遇した魔法を使う悪逆非道なリザードマンがいたもので……」
学園長は申し訳そうな顔をしているが、どうも困惑も混じっているような気がする。
おそらく、その悪たれリザードマンと俺がまだ違う人間だと信じられていないのかもしれない。
それほどまでに似ていたということか。
「ああ、別に人違いくらい気にしなくていいですよ。リザードマンは似た顔の奴が多いですし、おそらく他の種族からすると見分けはつかないと思いますし」
「リード殿、本当に申し訳ありません。このヒース・レッドハウンドの頭を下げることでお許しいただきたいです」
学園長は頭を下げながら謝意を表明してくる。
悪たれリザードマンのおかげでとんだ災難だなと学園長に同情する。
「いえいえ、いいんです。許すも何も、頭を上げてください」
学園長の頭を下げる姿を見て、入学初日から教頭と学園長に頭を下げさせている俺の方がそいつより、あくどいことをしているんじゃないかと心配になって来る。
「リード殿、お許しありがとうございます。ここから学園を案内させていただきますので。それで挽回したいと思います」
顔を上げると学園長は力拳を作って、ザ・がんばるみたいなポージングをして意思を表明した。
それを見て、アルテマイヤがフッと息を吐き、ニヒルな笑みを浮かべた。嫌な予感がする。
「じゃあ、あそこに堂々と構えている深淵を案内してもらえますか?」
あの例の反社会的なとげとげタワーを指さすと、アルテマイヤが言い放つ。
うん、深淵?
言葉が理解できない。
あれは魔王が所有するもののはずだ。魔法学園にあるはずがないだろう。
アルテマイヤもたまにはとち狂うことくらいあるだろう。
学園長が間違いを否定するまで待つことにしよう。
「そうですね。あれはここの目玉なので後で案内するつもりでしたが、先に案内をお望みですか……。では先に回ることにしましょう」
「「はぁ!?」」
学園長のぶっとんだ言葉に思わず、アルテマイヤと驚きの声をハモらせてしまった。




