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幕間⑥ 嘘は災いの元

幕間はこれで終わりです。次話から本編再開します。




 男と魔王が深淵城―後の迷宮改築師事務所―の最下層で矛を交えていた。

 男の名前は、プロフバー・コールド。

 魔王の名前は、ラルフ・フリッシュ。

 かたや、勇者の名を騙るただの天才。かたや、魔王の中の魔王といわれる正真正銘の超越者。


 ふざけた組み合わせだ。


 薄暗い空間を走る幾千の光弾をいなしながら、プロフバー・コールド――俺は後悔していた。

 最初はただの出来心で選定の剣が自分を選ばなかったことに腹を立てて、地面に刺さったそれを無理やりへし折って、自分が勇者だと冗談をいただけだった。

 それが現在、魔王と正面からかちあう事態にまで発展している。

 後悔しない方がおかしい。

 地味に才能だけはあったから勇者だと周囲が信じたことと金と名誉に目が眩んで魔王討伐をすると安請け合いしたことがまずかったのだ。

 やるせない気持ちで、綺麗な色合いだというのに威力は極悪な光弾をさばく。


 魔道具で命のストックが千は在るが、絶対に足りない。

 その倍以上は即死クラスの光弾がここにはあるのだ。

 今更謝ったとしても、止まるわけもない。

 というか、謝ろうと体を止めた時点で光弾に圧死される。


 取れる手段は、自分の命のストックが切れる前に魔王を殺すことだ。


「ちょこまか、ちょこまかと早く臨終してくれると助かるんですけどねえ」


 光弾を展開しながら、赤髪の()魔王はそんなことをつぶやく。

 俺はあんたに臨終してほしいのだがな。そちらがよく実態のわからない始神の使いを殺すためだか何だかしらないが他の魔王と手を組んで国をつぶさなければ、こんな羽目にはなっていないのだ。


「ラルフ殿、死ねといわれて死ぬ奴はいないでしょう。じゃあ、あんた、この光弾止めろていわれて止めるか?」


 魔王はこちらが返事を返すとは思わなかったのか、少し隙ができた。


 いまだ!


 魔道具「幽霊の跳躍(ゴースト・リープ)」で、魔王の近くにある光弾と俺の場所を入れ替える。

 魔王に肉薄し、続けざまに奴の首に練気を帯びた魔剣をたたきつける。

 刃は奴の首筋にめり込むかと思うと、何かに阻まれて軌道が真下にずれた。

 その結果、奴の左腕を切り落としたが、俺は隙だらけの状態で魔王の目の前に五体を放ることになった。

 当たり前のようにそんな好機を逃すわけがなく、俺はなぶられて壁にぶち当たる。

 殴られたときに一度殺された。

 俺の体は魔王に魔剣でぶった切られても、かすり傷くらいで済むというのに、殴って殺されるてどういう了見だ。

 次元が違い過ぎる。


 だが、俺はあいつに一撃入れることでいくつかアドバンテージを手に入れた。

 一つは左腕を使えなくしたこと。二つは殴るとき、光弾は消えるとわかったこと。

 三つは、殴るのも即死クラスの攻撃だと分かったこと。四つはおそらくこの手はもう使えないこと。

 魔道具と命のストックはまだある。一つ魔道具使えなくなったところでいくらでも手は在るし、まだ九百くらいは死ねる。

 百回死んで、五体のうちの一つが落とせた。単純に計算すれば五体を落として、あいつを殺すときには五百回死んでることになる。

 俺は千回死ねるのだ。当初の予想の半分以下で済む。

 こちらと次元が違う化け物だろうとやれる。俺は確信した。




―|―|―



 あれから、どれくらいたったのかわからない。

 今の事態が非常にまずいことだけはわかった。

 奴は五体のうち、首と右腕が残っているというのに、俺はもう命のストックが十を切った。

 どう考えてもこれで、やれなんて無理だ。

 というか、いきなり黒い波動出して来て、当たると百回死ぬとかめちゃくちゃすぎるだろ。

 一回使うとしばらくは打ってこないにしても、えげつなさすぎる。

 一撃入れた時に調子に乗ってた自分をぶん殴りたい。


 もう俺は戦えん。交渉だ。交渉。それしかない。


「おお、ラルフ殿。これ以上続けても、不毛の極み! あなたは不死身の私を殺せませんし、私もいくら戦ってもあなたを殺すことができる気がしません。ここは交渉で手を打ちませんか」


 こちらがそう持ち掛けると、満更でもなかったのか魔王は光弾を解除して、右手を顎に持っていき考えるポーズをとった。

 隙だらけで今ならやれそうだなと思ったが、しくじったら、もう本当に終わるので行動に移さない。


「ほう、交渉ですか、そちらの要求は何ですか?」


 釣れた。第一関門はクリアだ。だがここからが正念場だ。

 こちらの要求を通しつつ、分が悪いあちらの要求は退けなければならない。


「こちらの要求は二つでございます。一つは、我々の戦いを終わらせ、お互いにもう手をださないこと。二つは国や人に危害を加えることの禁止でございます」


 こちらがそういうと、魔王はニヤニヤと笑い始めた。こいつ何を要求するつもりだ。


「そちらが殺すなというなら代わりにそちらに殺してもらいましょうか。私の要求は一つ、この世界で始神の使いを『殺戮対象』に指定してもらうことです」


 飛んでもない要求だ……。

 未来永劫よくわからん連中を殺すために世界の国々に労役を強いれと要求してきやがった。

 そんなことを契約すれば、俺の名誉も大金の報酬もぶっ飛ぶだろうが。

 だがここで断れば、俺は確実に死ぬ。


「それは『迫害対象』ではダメでしょうか?」

「ダメですね。『殺戮対象』でなければ絶対に受けません」


 魔王はむっつりとした顔で返してくる。

 これはてこでも動かんパターンの奴だ。

 なんでそんなに始神の使いとやらが嫌いなんだよ。わけわからん。


「ではしょうがないですね。それで『魂の契約』を結びましょう」


 内心で愚痴りながら、魔王に進言する。

 今魔王に殺されるより、国王共に文句を言われる方がましだろう。自分の判断が正しいことを信じたい。


 魔王に近づきながらスクロールを召喚し、口に着いた血をスクロールに塗る。

 こちらは契約の準備完了だ。

 魔王にスクロールを渡す。


「あなたも遠路はるばるここに来たのに、報酬が国王たちからの叱責だけというのはかわいそうですね。契約の条項に私の弱体化も入れときましょう」


 何言ってんだこいつと呆けていると契約は終わった。


 見ると、魔王ラルフは、二人に分裂していた。

 弱体化したてことでいいのか? 二人になって機動力が上がっている気がするが……。

 まあいい、気遣いしてくれたし、一応礼を述べておこう。


「ラルフ殿、お気遣いありがとうございます」

「気にするな! 所詮些事だ! フハハハハハ!」


 魔王の片割れが大きな声と豪快な笑い声を出す。

 原型とどめてなさすぎだろ。こいつ。

 まったく別の人だ。


 まあいい、苦難は去ったし、国王たちのもとにかえろう。

 そう思い、俺は深淵城を後にした。






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