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幕間③ 魔法使いはつらい


 ここはいい土地だ。

 人も少なくて、自然も目に優しい。

 それに加えて、精霊とも契約できたのだから精霊魔法の使い手の私にとっては文句なしだ。



 まわりに人がいないことを確認し、いい感じに体を隠せそうな茂みを見つけたので中に入る。

 傷を受けると自動回復する神聖術『リジェネイション』をかけ、先ほど契約した精霊『サラー』を召喚する。

 よし、これで準備は整った。これから、好感度を上げる儀式を行う。

 儀式といっても、大したことはしない。ただなでるだけだ。


 精霊『サラー』――火に覆われた大きなトカゲ――を撫でる。

 大したことではないがそれでも人間にしたら、結構大きな負担だ。

 なでている間、からだが燃える。

 それだけの負担を負わなければならない。

 まあ、私には神聖術が使えるので大した負担を払うことはないし、身体が燃える苦しみより精霊と触れ合える喜びの方が大きいので関係ないが。


「サラー、おいで」


 胡坐をかいた私は、自分の太ももをたたいて、サラーに来るように促す。

 サラーはのろのろと歩いて、私の太ももの上に載った。

 膝の上に載った彼をもみくちゃにするようにするようにしてなでる。

 彼は満更でもなかったのか、喜びを表すように私の顔面に飛びつく。


「くすぐたいなあ……」


 興奮して大きくなった炎に包まれながら、彼の背中をなでる。

 サラーに癒されていると、何かが茂みに入ってくる音がした。


「ひ、ひぃぃぃ!!」


 続けて、驚いた声を上げる男の声が聞えた。


 あーあ、こりゃだめだ……。

 儀式途中に入って来てしまった。サラーに燃やされるなこの子……。

 そう思って断末魔の悲鳴が聞こえると思ったが、何も聞こえない。

 不思議に思い、顔に張り付いたサラーの足と足との間から、燃えカスになっているだろうその子を見た。

 リザードマンの男は健在だった。

 精霊に拒絶されなかった……。

 これはそこにいる彼には精霊魔法の適正があるということを表していた。

 少し目の前にいるリザードマンに興味がわいた。サラーに顔からどいてもらう。


「名前は……?」


 そう尋ねるとリザードマンは私の顔を恐ろしそうに見るばかりで声を出さない。

 サラーの炎で焼け爛れた顔がまだ再生途中だったことを思い出した。おそらく今の私はひどい形相なのだろう。

 まあいい、適正が在るのなら私はこの子を弟子に取る。

 名前など、そのうちわかるだろう。





 精霊魔法を使えるものが増えれば、もっと精霊は人間と仲良くなれる。

 そうすれば、精霊魔法の同志や精霊魔法に使える利便性の高い道具が開発され、私は精霊たちともっと豊かな生活を送れるようになる。

 私は単純だがそんな壮大な夢を持っている。

 そして、今その大きな一歩を踏み出そうとしていた。


「リード、魔力を動かしなさい」


 目の前にいるリザードマンの弟子――リードにやることを伝える。


「師匠。魔力の動かし方が分かりません」


 リードはそんなことを言う。

 私は大きな一歩目で、足首をねん挫した。

 感覚でやっているので、動かし方はよく説明できない。


 仕方ない……。

 荒療治になるが、私が体内の魔力を動かすことにしよう。

 そうすれば、魔力を通す道が開かれるはずだ。

 副作用で身体が驚いて、激痛に襲われるだろうけど我慢してもらおう。


 リードの腹に手を伸ばして、そこから魔力を押し込む。

 彼は何も言うことなく泡を吹いて、気絶した。



「師匠、何だか記憶が抜けているような気がするのですけど気のせいでしょうか」


 リードは痛みのショックで気絶し、前後の記憶が飛んだようだ。




 魔力を操れるようになって、最近は四属の三級魔法を教えるとともに、精霊魔法の初歩である三級空魔法を教えようとしているのだが、なぜかうまくいかない。

 リードは四属の三級魔法は使えるのだが、それを合わせて使う三級空魔法ができないのだ。


「リード、すべての魔法を愛しなさい」


 そう告げるとリードは、四属の三級魔法を順番に使いだす。

 私は合わせて使ってもらいたいのだ。順番に使ってほしいのではない。

 言い方を変えよう。


「リード、すべての魔法を合わせて愛しなさい」


 リードは同じことを繰り返した。

 違うと言って何度もやらせるうちにリードがむすっとしてきた。


「師匠、言いたいことがよくわからないです」


 その言葉で私は、長年精霊としか触れあってこなかったことでコミュニケーション能力が大きく下がっていることを自覚した。

 なるほど、私が悪かったわけだ。



 コミュニケーション能力を向上させるために、私はギルドのパーティに飛び入り参加した。

 Sクラスの冒険者であったので、ニコニコしながらあちらも受け入れてくれた。

 途中で精霊の儀式を見られたので私以外のパーティメンバーは全滅してしまったが、コミュニケーション能力は上昇した気がする。



 ギルドから帰り、早速教えることにする。


「リード、すべての魔法を合わせて使って愛しなさい……」


 そういうとリードに私の言いたいことは伝わったようだ。

 空属性魔法はマナの配分が難しいので、リードは使うことはできていないがマナを四属に配分することはできている。

 いくらか練習を重ねれば、空属性魔法を発動できるだろう。

 今回は時間が少なかったので副産物としてリードが二級土魔法を使えるようになって終わったが、明日教えれば必ず使えるようになるだろう。

 そう確信する。

 なかなかに調子がいいので、ほくほく顔で寝床に着こうとすると、鎧を着た男たちが近くを歩いていることに気づいた。


「災厄の魔女『プラム』の目撃情報があったのに、全然見つからねえ……。ヴェイスにかえりてえよ」

「うるせえ、文句言ってねえぜ。探せよ」


 男たちの会話が聞こえてくる。

 やはり追っ手だ。

 長居したので、気づかれたらしい。


「はあ」


 思わずため息が出る。

 儀式を見られて、連合国の姫を精霊が燃やしてしまったのでしょうがないと言えばしょうがないが。

 二年もたつのにまだ追いかけてくる。しつこい奴らだ。


 とりあえずもうここには長居できない。

 空属性魔法をもうすぐ完成されられそうだが、しょうがない。

 ここから去らねばならない。

 去る前にリードに書置きを残しておこう。


『私はここを去ります。リード、魔法を愛しなさい』


 私はそうスクロールに書き残し、ロース村を去った。





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