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幕間② 不思議な我が子




「……」


 生まれたばかりの我が子――リードの顔を覗き込む。

 息子は表情豊かで、少し困ったような顔をしているような気がする。

 赤子ならもう少し無邪気な顔だったり、泣いたりしてもいいはずだと思うのだが。


「リードはまったく泣かないな。大丈夫だろうか」


 先ほどリードを出産したばかりの妻――リーサに言葉を投げかける。


「レッド、そういう子供も世の中にもいるわ。なんでも常識に当てはめようとするのはあなたの悪い癖よ」


 リーサは気まずそうにしているリードに慈愛のような視線を投げかけ、俺をたしなめる。

 俺が心配してオロオロとするのとは対照に出産直後だというのに、泰然自若としている。

 肝が据わりすぎではないのだろうか。


 おんるぎゃあ……。おんるぎゃあ……。


 妻と共にリードを見つめていると、リードはひどく下手くそな泣きまねのような泣き声を上げ始めた。

 俺が泣き声を話題に挙げてからすぐに泣き始める。

 タイミングがひどく不自然だ。

 何だかとても怪しい。リーサもリードを見る表情が引きつっていた。

 我が子はもしかしたら悪霊に取りつかれた忌子かもしれない。





 リードが生まれて一か月の月日がたった。

 生まれた当初は忌子かもしれないと疑って、教会に神聖術を掛けに行ったものだが、心配のし過ぎだっただろう。

 うちの息子は成長が早く、頭が賢いだけの子供だ。


 俺は今日息子と槍の稽古をしている。

 

 リードは槍の才能があまりない。

 だが持ち前の頭良さでこちらの言うことをすぐ飲み込むので、そこらの槍をつかんだばかりの奴らよりは成長が早い。


「父上。体から変な力みたいなものが湧いてくるんだけど」

「うん?そうか、じゃあこの木を槍で突いてみろ」


 リードはこちらの言った通り、木製の槍(・・・・)で木を突くと、木がえぐれた。

 どうやら、息子は『練気』を微量ながら、扱えるようになったらしい。

 『練気』はある程度武器に熟練したものがあつかえる、魔力を体に流して強化する力だ。

 使う魔力は魔法とは違い、自分の中ではなく、空中にある魔力。

 それを最初は体が勝手に取り込んで、身体を強化する。

 

 最初のうちは体を全体的に強化するだけだが、また熟練すると、扱える魔力の量が増え、強化をする場所をコントロールできるようになる。

 まだ槍を教えて、一週間も経ってないのにできるとは才がないものの中ではトップクラスの成長力だろう。

 これはなかなか教えがいがある。



 リードに槍を教えて、四年ほどたった。

 『練気』を扱える量は増えていき、あと少しで強化をコントロールできるようになりそうだ。

 このまま稽古をサボらずにやってくれればいいのだが、最近ギルドに登録して、クエストにかまけていることが心配だ。

 今は稽古をサボらずしているが、クエストに没頭して放り出したりするかもしれない。

 今日稽古ついでに釘をさしておくことにしよう。


 稽古をつけるために、庭に行くと、息子が魔法を使っていた。

 土を起こしているところを見ると、土魔法だろう。


 二重に驚いた。


 一つ目はリザードマンは種族特性として体内に魔力を持っていないのに、息子が体内の魔力を使って魔法を使っていること。

 二つ目は俺は魔法を教えれないし、教えた覚えもないのに魔法を使用していることだ。


 思わず、リードに飛びつく。


「お前、それどうやって?」


 リードはひどく驚いた顔で俺を見つめる。その様子は意図せず、悪いことをした子供のようなだ。


「え、えっと、近くで魔法使いに会って、教えてもらったんだけど。もしかしてダメだった」


 いや、ダメではないが。

 それが使えるのはどう考えてもおかしいんだよ。

 だがそこでリーサの言葉がリピートした。

 

 『あなたは常識にとらわれすぎる』


 確かにそうかもしれない。

 従来がそうだっただけで、息子だけは別というのもあり得るのだ。

 このことを考えると混乱する。考えてはだめだ。事実を認識するんだ。


 すると、これはとんでもない僥倖に思えてきた。

 魔法が使えれば、魔法が使えるものがいないこの村ではかなり優遇されるし、有事の際も前線に送られることはまずない。

 そう考えると、魔法は使えるという事実はリードにとって大きなプラスだ。

 だが俺にはマイナスであることにすぐに思い至った。

 俺は槍を教えたい気持ちがあるが、槍が使えるようになれば後々禍根を起こすことになるかもしれない。

 前線に送られることはまずないとは言え、追い詰められてるときは別だ。

 魔力が切れたら、槍が使えるということを理由に前線に送り出されかもしれない。

 これから槍を稽古していけば木っ端には負けないだろうが前線ではなにが起きるか、わらからない。

 前線に送られる芽はつぶした方がいいだろう。

 個人的には誠に残念だが、リードは槍を折って魔法に専念させたほうがいいと俺は判断した。


「リード、槍の稽古はもうしなくてもいい。魔法の稽古に専念しろ。ここでは槍よりもそいつの方が必要だ」


 叱られると思っているのか少し緊張している息子に告げた。


「まあ、そういうなら。そうするけど」


 息子は槍に少し入れ込んでいたのか、嫌そうな顔をしたが、俺に応じた。

 内心俺も槍使いになってくれた方が個人的には嬉しいが、息子の安泰のためには槍が邪魔になるのでしょうがない。

 心を鬼にしなければならない。

 息子の将来のためならこの程度の心苦、安いものだ。


 この村で一番の魔法使いになってくれよ。リードよ。





 だが、そんな俺の思いも届かず。成人の日、リードは「迷宮構築師」になると言って村を飛び出してしまった。






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