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19 幻術破断




 朝特有のひんやりとした風が吹く。

 風によって、緊張で上気した体がクールダウンする。

 最近には珍しく、初っ端から調子がいい。

 このまま行ければ、御の字だろう。


「リード殿、我々は一度幻術にかかっています。二度かけられぬように気を引き締めていきましょう」


 夜通しの稽古のせいか、少しやせたような顔をしたダウニーが発破をかけてくる。


「ええ、ダウニー様」


 自分に活を入れるのも兼ねてその声に応える。


「2度目の攻略を開始します」


 その声で俺たちは、《騎士の栄光》の攻略を開始した。



 入り口を降りた先では昨日と同じく、刀を持った騎士が待機していた。

 こちらはもう攻撃パターンはわかっている。脅威ではない。


 騎士は予想通り、まっすぐこちらに突っ込んできて、ダウニーに一刀のもと、腰から真っ二つにされた。

 ダウニーの対応はこちらの予想を大きく上回っている。

 一刀のもとに倒すなど攻撃パターンが分かっていてもできることではない。

 この少年はやはり天才だ。

 単純な戦闘能力で考えれば、上級迷宮にもいけるのではないだろうか。


「この階の仕様は頭の中に入ってます。遅れないよう僕についてきてください。一気に駆けます」


 ダウニーがそういうと、先頭をきって駆けだした。

 罠をすべてよけ、階段近くにいた三体の敵も切り伏せていく。


 獅子奮迅。

 彼の動きはまさにそれだった。

 昨日とは段違いのスピードで“例の階”に到着する。


 例の階―地下二階層は昨日と同じく、不気味なほどの静けさを保っている。

 地下一階層でモンスターの配置が同じだったということは、おそらくここも同じだろう。

 昨日、ここから先で幻術使いのモンスターに遭遇した。

 ということは、この先には奴がいるということだ。

 ここからが正念場だ。

 俺は実際、幻術を解けるような気がしているだけで、本当の事はどうだが分かったものではない。

 気を引き締める。


 一同、緊張した面持ちで速度を落として進んでいく。

 別に幻術を解けないわけではないトリシュとアルテマイヤが緊張しているのは、俺たちが幻術を解けな かった時のためにフォローを入れなくてはならないからだろう。


 しばらく進むと、丸い影に、怪しく光る眼。

 奴がいた。

 前と同じ順序通り、松明の元に進み出てくる。





―|―|―|―|―





「昨日ぶりだな。気分はどうだ人殺し?」


 薄ら笑いを浮かべて、腐乱死体が尋ねてきた。

 前はその姿がひどく恐ろしいものに見えたが、今は滑稽にしか見えない。


「お前と顔を合わせてるんだ。最低だよ」


 俺の言葉を聞くと、腐乱死体は顔に張り付けた笑みをさらに強くした。

 相変らず、嫌みな奴だ。


「被害者に向けて、加害者のお前が暴言かよ。死んで償えよ」


 奴がそういうと目の前に見慣れたエレベーターが現れた。

 そこから昨日のリピートのように腐乱死体があふれてくる。

 そいつらが群がって俺に噛みついてくるがひどくどうでもいい。


 ――こんなもの、空っぽの張りぼてだ。


 俺の本当の被害者――トリシュの仲間とトリシュは人を恨むような人間ではないと知っている。

 彼らはすべてを、自分のせいだと割り切る強く気高い人間だ。

 人の弱みに付け込むようなこんなクズではない。


「加害者のお前がなに言ってんだよ。被害者の振りした糞雑魚野郎が!」


 俺は目の前でニヤケ面を浮かべる腐乱死体――俺自身に吠えた。

 腐乱死体の顔が、さえないトカゲ野郎の顔に変わっていく。


「ああ?な、なに言ってんだよ?ど、どこからどうみても被害者だろうが」


 偽りのベールがはがされたのにも気づかず、間抜けなそいつはそんな言葉を吐く。

 本当に悪趣味な幻覚だ……。


「失せろ」


 俺は、そのにやけ面に二級風魔法『ストリーム』を放った。









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