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17 攻略失敗




 沼の底から浮上するような感覚に襲われ、目が覚めた。

 覚めたというのに心臓が早鐘を打ち、身体のあちこちに幻痛が走る。

 最悪な気持ちで周りを見ると、甲冑に囲まれていた。

 一瞬モンスターかと思い、ぎょっとしたがすぐにモンスターではないと理解する。

 ここは迷宮の中ではなく、青空の下なのだから。

 迷宮の外でモンスターが出るはずがない。


 そう結論付けて落ち着くと、聞きなれたため息が聞こえた。


「はあ、やっと、目覚めましたか……」

 アルテマイヤが実に忌々しそうにつぶやいた。

 そちらを見ると甲冑に身を預けるアルテマイヤとトリシュ、仰向けに寝かされたダウニーがいた。

 トリシュを見ると、あの化け物の台詞が思い出され、幻痛が増す。

 笑い声と腐乱死体の顔がフラッシュバックした。

 悪夢よりひどい内容だったのに、胸糞の悪い気持ちはそれよりもひどくない。

 あれはリアルだったがどこか嘘くさかったのだ。


 アイツは何だったのか?いきなり出て来て、超常を起こしたあれは。


「気分最悪……。何だったんだ、あれ?」

「何だったて、どっちのことですか? あなたの晒した失態のこと? それともあなたがやられたモンスターのこと?」

「……どっちもだよ」


 アルテマイヤの舌鋒にやるせない気持ちで返事をする。

 本当のところ、自分の失態など知りたくない。

 だが正確に知らないままで済ませ、また同じ失敗を繰り返すのはごめんだ。


「しょうがないですね……。説明してあげましょう」


 アルテマイヤの勿体ぶるいい方にやきもきするが、文句を言って腹を曲げられても面白くない。

 ここは我慢して聞くしかないだろう。

 トリシュに聞くという手もあるがあのエレベーターを見た後、接するのは精神的にダメージを負うのでできるだけ避けたい。


 コホン。

 わざとらしくアルテマイヤがしわぶきをして、脇に逸れた思考が止まる。


「まずあなたの失態は幻覚にかけられ、魔法を周りに乱れ打ちしたこと。そのおかげで危うく、けがをするところでした」


 確かにあの時、死体共に噛みつかれ魔法を必死に乱打した覚えがある。

 幻覚に囚われていたとは言え、えげつないことをした。

 やられる方は溜ったものではあるまい。

 だが腐乱死体が襲い掛かって来る状態で、抵抗をするなというのもなかなかに厳しいものがある気がする。


「次に、あなたが、情けない叫び声をあげて敗北したモンスターのことを説明します。先ほど、説明したように幻覚をかけるタイプのものです。トリシュと私の情報を共有した結果あれについて、わかったことは三つあります。

一つ目は、姿を視認しても、視認しなくとも幻覚にかけられること。

二つ目は、幻覚を解除できる者と、解除できない者がいること。

三つ目は、解除したものに共通していたことは、見せられた幻覚について、どうでもいいと思っていたこと。

情報を整理するために聞きますが、どうして幻覚を解くことができなかったのですか?」


 アルテマイヤは責めるような口調で尋ねてくる。

 責める口調になるのもしょうがないだろう。

 足手纏いになった上、その理由がいまいち理解できないのだから。

 解けなかった理由はわかっているし、説明もできる。だができれば、それはしたくない。

 

 それをすればトリシュに自分がやらかしたことがバレ、俺の幻覚に対する攻略はさらに絶望的になる。

 説明などしても何も改善されず、さらに悪くなるだけなのだ。

 積んだ。俺はこれに対して、何も出来ない。

 詰問するアルテマイヤに視線を返すだけで何もできない。


「うう……何が起きたんですか?」


 俺とアルテマイヤが膠着した状態でいると、ダウニーが眼を覚ました。

 アルテマイヤは俺を睨みつけると


「あなたのような役たたずに時間を割いても無駄だとわかりました。事情はダウニー様から聞きます。せいぜいそこで静かにしていなさい」


 そういい捨てて、顔の青いダウニーに向き直る。

 アルテマイヤがダウニーに向き直って状況を説明している間が、一瞬のように感じられた。

 アルテマイヤが俺にした質問をダウニーにするときになって、時間の感覚が戻る。


「それは、僕が父上に失望されることを恐れている、からでしょう。父上に失望される場面見て、どうでもいい?そんな風に、割り切れるわけがありません。僕は父上に失望されれば、ただの殺人鬼なんですから……」


 ダウニーはうめくような声でそう漏らす。

 彼が何を言ってるのかはわからないが、声の調子と“殺人鬼”という単語から今ここで改善できるような代物ではないことは理解できた。

 俺たちに《騎士の栄光》を攻略することは無理だろう。

 あちらのモンスターは俺とダウニーとあまりにも相性が悪すぎる。

 この少年もわかっただろう。

 あれを克服するなど無理だと。


「明日、再度《騎士の栄光》に入ります」


 少年は俺が想像したことと真逆の事を言った。

 また入る?このざまなのに?

 何を考えたらそんな結論に至るのだ。

 また同じ結果になるのは目に見えているだろうが。

 正気かと思い、ダウニーを見ると青い顔をしたまま口を動かし始めた。


「僕はそれまでにディンクス卿に頼んで集中的に稽古を行います。それでも幻覚を克服できる可能性は低いでしょう。

 すみませんが、リード殿。迷宮攻略を辞退していただいてよろしいでしょうか?」


 一瞬何を言ってるんだこいつはと思った。

 だがすぐに奴が言わんとしていることを理解する。

 ダウニーが幻覚にかかっても足手まといが一人減れば、トリシュとアルテマイヤでフォローできるということだ。

 理にかなっている。その方法なら攻略もできないことはないだろう。

 俺にはノーという理由も、資格もない。


「ああ、それがいい。俺はもう無理だ」


 もうどうでもよくなった。

 たったとこの胸糞の悪い場所から離れたい。

 その一心で俺はその場からは離れた。





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