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16 中級迷宮




 石畳の上に延々と向かい合って立つ甲冑。

 それに挟まれるようにして、石畳の上を進む。

 しばらくすると大きな穴が見え、ダウニーが口を開いた。


「《騎士の栄光》はこの先にある階段の下を降りたら迷宮が始まります。階段を降りたら気を引き締めてください」


 奴は、アルテマイヤ、俺、トリシュという順に視線を送りながらそう言った。

 その姿は気丈で、昨日の狼狽えた姿が嘘のようだ。

 出来ればこの迷宮の中でも、その調子を維持して欲しい。

 

もしここでダウンすればその場でこのパーティは全滅する。

 いつか……といつも覚悟をしているが、それがここだというのはごめんだ。

 せめて全滅するならジジイくらいになった時がいい。


 階段を降りて、迷宮の中に入った。中は点々と松明が照らすだけで、薄暗い上に肌寒い。

 冷気にあてられたせいか、忘れていたことを思い出した。


「ダウニー様、これから果たす改築の内容は何なのでしょうか?」

「ああ……。すいません、攻略のことを念頭に置いていたので忘れていました」

「こちらは仕事なのですから、忘れられても困りますよ」


 ダウニーが、自分の失敗に謝意を表すと、アルテマイヤは静かに叱責を飛ばした。


「それで、内容は何でしょうか? 依頼者様」


 アルテマイヤは慇懃無礼な態度でダウニーに続きを促す。


「改築の内容は欠損した床の修理です」


 ダウニーはその言葉と変わらず真摯な態度で応対した。


「そうですか。ならよかったです。魔道具だった場合、手持ちのスクロールで対処できるかわかりませんからね。迷宮に入ったというのに、屋敷に戻って、こちらが魔方陣を仕上げるまで待たされるのもごめんでしょう。依頼の連絡を怠ることで一番損をするのは依頼者様です。お気を付けください」


 こいつ、相変わらず言葉きついな。前、ラルフにかしこまっていたから、身分が高い人間にはかしこまるのかと思ったがそうではないようだ。

 あれはおそらく、ラルフだけに取る態度なのだろう。


 薄闇の中を進んでいくと、無骨な影が一体立っていた。

 こちらを確認したのか、そいつは前に進み出てくる。松明の近くを通るときにその姿が見えた。

 ごつごつとした甲冑を着た騎士。

 しかし、その手には不釣り合いにも刀が握られていた。

 その刃を右に寄せ、そいつは逆袈裟のような構えを取る。

 それをこちらが視認した時には奴は消えていた。


 カン!


 金属と金属がぶつかる音。目の前でダウニーと騎士が刃を重ねていた。

 ギリギリといって、金属がこすれる音がする。

 ダウニーが力任せに押し込むとそいつはたたらを踏んだ。

 機を逃さず、鋭利なロングソードが騎士の頭に落とされる。

 騎士は刀を掲げるが、力負けしたようで真っ二つになった。


「……すごい」

「年の割にはなかなかですね」


 トリシュとアルテマイヤが賞賛を送る。

 確かに今のはすごかった。中級迷宮のモンスターを瞬殺したのだ

 並大抵の技量でできることではない。ダウニーは中級迷宮を攻略できるほどの実力があるようだ。


 モンスターが光になって消失するのを確認し、さらに奥に進む。


「リーさん、危ない!」


 いきなり、トリシュが俺を引き寄せると、先ほどいたところにでかい斧が通り過ぎていく。


あぶねえ……。ここ罠あるのか……。

 冷や汗が背中を伝う。トリシュがいなければ先ほどの騎士みたくなっていただろう。


「トリシュ、すまん。助かった」

「お礼をもらうのはいいけど、リーさん、気が抜けているよ」


 余り多くを語らないトリシュが叱責を飛ばす。

 他の面子を見てみると。

 アルテマイヤは呆れてものも云えないといった感じで首を振り、ダウニーはこちらの事など眼中になく壁や床に罠がないか確認していた。

 二級魔法が使えるようになったから、少しおごるような気持ちがあったのかもしれない。

 気を引き締めて攻略にかかろう。


 そこから先は、ダウニーとトリシュが先導して、罠を解除しながら進行。

 気を引き締めているおかげか、そのあいだ罠にかかることなく進めた。

 やっと階段の目の前まで来ると、三人組のモンスターが立っていた。

 先ほどと同じような恰好の騎士たちだ。もちろん得物には刀を持っている。


 二人の騎士は前衛にいたダウニーとトリシュに殺到し、一人はこちらに来た。

 俺に奴のことを捉えられる自信はない。

 奴が視界から消えると仕方なく、防御のために二級土魔法『アース・ウォール』を目の前に展開する。

 騎士は壁に刃をめり込ませ、危うくこちらに届きそうになっていた。


「リード、迷宮では土魔法は厳禁だとシェーンから教わりませんでしたか?」


 アルテマイヤがそう詰問するとモンスターに手を向け、バラバラに解体した。

 おそらく一級風魔法か何かだろう。二級までであんな魔法は見たことがない。


「すまん、見えんかったもんで、つい」

「はあ。次は見えなかったら、前方に二級風魔法を放ちなさい。そしたら、土魔法で守らずともすぐに倒せます」


 謝意を表すとアルテマイヤは大きなため息を吐き、こちらに指示を出した。

 態度にはムカついたが、正確な指示だ。

 守る手間を省いた上、先制も取れるのだ。

 厳禁の土魔法で守るよりはよぽっどいい。


 足を引っ張ったのを挽回するためにダウニーとトリシュに加勢しようとしたが、もうすでに事は終わていた。

 ダウニーの足元には真っ二つになったもの、トリシュの傍らには、刀をおられ顔面がつぶれたもの。

 モンスターのむごたらしい有様を見て、こいつらに加勢する必要などないと確信した。


 階段を降りると、やっと修理の現場につく。

 現場では床に三メートルくらいの穴が顔をのぞかせていた。道の幅いっぱいなのでこれは確かに通れない。

 二級土魔法を応用して、こちらの岸からあちらの岸に土の壁を開通する。

 これで修理完了だ。


「リード殿、見事な手際でした」


 ダウニーがほめてくる。この迷宮に入って怒られぱなしだったので満更でもない。

 だが、油断するとろくなことにならないのは先ほど経験積みだ。

 気を引き締める。


 修理した穴の上を通り過ぎると、また影が出てきた。

 騎士たちのように体はごつごつとしておらず、代わりに双眸が怪しく光っている。

 少し陰気臭い雰囲気のあるそいつはこちらに近づいてきた。

 松明の元に近づいたことでその姿が現れる。




―|―|―|―|―|―




「また会ったな」


 フードを被ったそいつは、親し気な感じでそうつぶやいた。

 俺にこんな知り合いはいない。他の奴の知り合いだろうか?

 まわりを見ると誰もいなくなっていることに気づいた。


 頭が混乱する。

 どう考えてもおかしい。

 さっきまで確かに三人とも隣にいたはずだ。


 ガタゴト ガタゴト


 聞きなれた音が近づいてくる。

 どういうことだ。これじゃ、まるで……。


「おかしいな、返事を返してくれないなんて、最近は毎晩会ってるじゃないか」


 奴はそう言って、フードを頭から外す。

 そいつは悪夢にでてくる腐乱死体だった。


 息がつっかえる。


 ここは迷宮の中なのに。どうして?


 ガタゴト ガタゴト


「トリシュに償わなきゃいけないのに……。それだというのに嫌な思い出のある迷宮に連れてきて……。お前さあ、何やってるんだよ?」


 その言葉と共に、目の前にエレベーターが現れた。


「死ねよ」


 そういうと、エレベーターの中から腐乱死体が出て来て、俺に噛みついてきた。


「あああああああああああああ!!」


 肉が、骨が、皮が、砕けて咀嚼され、灼熱のような痛みが体全体を覆う。

 魔法を発動させても、まったく効かない。体が単調に歯にちぎられ、砕かれていく。


「ハハハハハハ!!」


 こっちを見て笑うそいつの笑い声が脳裏に焼き付いた。






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