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137 迷宮世界




 俺と同期された世界は可能性が制限されなくなったようで、オリジナルの世界から派生した世界が生み出され、それらがすべて連結され、新しい世界を形作ったようだ。

 この世界はいまだ大きくなり続けている。

 可能性がある限り大きくなるので果てがないのだろう。

 実際に見て確認したわけではないが、マナの流れを確認するとそのたびに領域が大きくなっていたので現在この世界は拡大し続けているのは確かだ。


 どこにオリジナルの世界があるかわからないが俺はそこを目指している。

 それは単純に奴らにまた会いたいこともあるし、果たさなければいけない約束があるからだ。

 確かにドムズに首飾りをトリシュに渡すと約束した。

 おそらくオリジナルの世界は神が消えたことになり、神々が死ぬはずだった日からやり直されているはずだ。

 どれくらい前かはわからないが、かなり大昔のはずだ。

 その大昔からトリシュが存在する時代になるまでに戻ればいい。


 この世界は無限に広がる迷宮のようなものだが、壊れてはいないのだからそれまでにはきっとたどり着けると俺は信じている。


 空を切り、世界を越えていく。

 いくつの世界を越え、どれくらいの年月が経ったかはもうわからないが、止まることなく空を飛び続ける。


 そうすると、見覚えのあるものが視界に飛び込んできた。

 赤髪の女と黒髪の男の夫婦と元気のよさそうな女児。

 夫婦はスリートとラルフだった。

 奴らは女児と手をつないで歩いている。


 奴らの元に降りていく。


 すると二人ともこちらに気づいたようで手を掲げてきた。


 それを見るとオリジナルの世界にたどり着いたことを実感する。

 なぜだがそう思うと同時にどっと疲れが湧いてきた。

 着地と共に地面に腰が落ちる。


「大丈夫?」


 そうすると心配そうに女児がこちらを覗きこんできた。


「ああ、ダイジョウブ」


 俺はその顔を見ると直立した。

 幼い顔だちだったが、その顔にシェーンの面差しが見えたからだ。

 反射でシバかれると思い、体が硬直してしまった。


 それを見るとスリートは頬を緩め、ラルフは渋い顔をする。

 娘が気を使ったのに、俺の態度がそっけないので少し気分を害したかもしれない。

 確かに女児に対して、恐怖を前面に押し出した態度をとるのは配慮に欠けていたな。

 将来的に人はみな自分に恐怖するべきとか間違った認識を抱かないともかぎらないからな。


「リード、この世界をずんぶん大きく作り変えましたね」


 シェーンにフォローを入れようと思うと、スリートがそういう。

 奴がこちらを責めていないことは分かっていたが、思わず口をついて言い訳が出る。


「説得には成功したんだがな……。いかんせん先を急いで代償をそのまま受け入れたのがまずかったな」

「気にするな。お前はよくやってくれた。お前のおかげで確かに俺たちは救われたんだから」


 俺が言い訳をすると意外にもラルフが慰めるようにそういった。

 思わず奴を凝視する。


「意外だったか……。でもお前はそれだけのことをやったんだよ。この世界の人間にできなかったことをまがいなりにもやりきった。賞賛を送らん奴はいない。だからもっと胸を張れ」


 ラルフは頬を緩めてそう言った。

 それを聞くとこの世界に作り変えた罪悪感が少しだけ紛れたような気がする。


「まあ修復せずに、作り変えたんだから迷宮改築師としてはまだまだだけどな」


 こちらが少し落ち着くと奴はニヤリとしてアルテマイヤを思わせるような、少し厳しめな言葉を吐く。

 その言葉で奴なりにこちらを気遣ってくれてのだと分かった。


 神の運命から解放される前にこいつにはひどいことをされたが、あのときはどうにかスリートたちを助けようと必死だったからな。

 本来のラルフはこういう奴なのだろう。


「一言余計ですが、ラルフの言う通りです。あなたはよくやってくれました。私たち二人でどうやっても誰かの犠牲を強いる世界に修正するのが限界でしたから。それをあなたが覆して、誰かを犠牲にしない世界を開きました。たくさん世界が生じ続け何が起こるかわからない世界ですが、それを覆せるほどのものをあなたはここに実現したんです」


 スリートもラルフと同じく賞賛の言葉を述べる。

 奴らの賞賛で自分がやったことが確かに誰かの役に立ったんだと実感できた。

 自分が選んだ選択は間違ってなかったのだ。

 今は確かに強くそう思えた。


「お前はこれからどうするんだ?」


 自分の選択に自信を持つとラルフがそう尋ねてきた。

 どうするか……。

 とりあえずはドムズとの約束を果たすときめているが、それまでは何をするかは決めていない。


 ここは確か神が死んだ日から再び始められた世界のはずだ。

 あの時代から見ればここは大昔だから、それまでにはかなりの年月がある。

 しばらくは何もすることがなさそうだ。


「いやトリシュに会う以外には特にすることはないな」

「三万年後までフリーてことか……」


 ラルフはさらっと衝撃の事実を言う。

 大昔と思っていたが、三万年てお前……。


「よかったら、それまで俺が作ろうと思ってる組織に入っててくれないか? 地続きの他の世界からの侵攻を阻止するための組織だ。お前は2柱分の神の力も持ってるし適任だと思うんだが」


 こちらが困惑しているとラルフはそう誘ってきた。

 俺には断る理由がない。


「ああ、いいよ。することも無いし。それをする必要が在るのは俺に原因があるからな。それと――」


 そう言いながら俺は自分なかにある神である部分を破壊の力で破壊した。

 すると体から白と黒のオーラと光の塊が出て来る。

 白いオーラはスリートに、黒いオーラはラルフに、光の塊は半分になってそれぞれ奴らの体の中に入っていた。


「神としての権能はお前らに返しておくよ。元々お前らのものだからな」


 2人とも少しおっかなびっくりみたいな顔をしたが、自分たちの体を見て何も異常がないことを確認すると安心したように息を吐く。


「リード、いきなりは心臓に悪いですよ……」


 スリートが恨みがましそうな顔をしてそう言って来る。


「悪い」


 そう謝るとスリートはすまし顔になり、こちらとはあらぬ方向を向いた。


「まあいいですけど……。ではあなたも加入したことですし、我々の拠点――我が家に向かいましょうか」


 そしてそういうと、指で向こうに見える木造の家を指し示した。

 あれが新しい事務所か……。かなり質素になったがまえの城よりも個人的には良いと思う。


「おお、お前らの愛の巣が拠点か。16の俺には刺激が強すぎるぜ」

「46の間違いでしょ」


 減らず口をたたくとスリートに倍返しされた。

 前世の年齢はカウントしちゃダメだろ……。


「父上、あの人誰なの?」


 スリートにもらったダメージでダウンしそうになっているとシェーンのそんな声が聞えた。


「こいつはお前の部下だ。お前が言うことならなんでも聞いてくれるぞ」


 ラルフはそう答える。

 おい、ふざけんな!

 内心でそう叫びながら、ラルフを睨みつける。

 幼児でもシェーンだぞ。雪山でブートキャンプとか言って来ないとも限らないだろうになんでそんなこと言うんだよ。


「肩車して」


 こちらが背中から冷や汗を流して心配していると、シェーンはそう要求してきた。

 普通に幼児がしそうな要求だった。

 俺は感動した。涙が出そうだ。

 戦場生まれ、ブートキャンプ育ちみたいな人にこんな純真な時期があったとは。

 俺は感動のあまり、シェーンを肩車すると、拠点に向かって走りだす。

 楽しそうな幼い上司の笑い声が聞こえてきた。




―|―|―




「どうして、餓鬼族の首飾りを持ってるの?」


 久しぶりに再会したトリシュにそう突っ込まれた。

 かなり鋭い指摘をして来る。

 内心窮しているが、顔には出さない。


「お前が持ってないからだよ……」


 とりあえず意味深なことを言ってごまかす。

 するとトリシュはぎくりとしたような顔になる。


「確かにお父さんとけんか別れして受け取らなかったけど。でもどうして、持ってるの?」


 奴の反応で何だかいけそうな感じがしたが、そんなわけはなかった。


「これは……サンプルなんだよ。餓鬼族の首飾りの。だから本物を受け取って来るといい」


 しどろもどろになったが言いたいことを伝えた。

 俺が渡すより本人が渡す方がいいし、俺が渡してもただただ怪しいだけだ。


「うん。そうだね。やっぱり受け取りに行くよ」


 トリシュはそういうと餓鬼族の村に駆けて行った。

 すると俺の元に修正される前の世界のドムスからもらった首飾りが残ってしまった。

 どうしたものか?

 やはり渡した方がいいか……。

 そう結論を出すと俺も餓鬼族の村に歩いて行った。



「ありがとう。仲裁してくれて」


 首飾りを2つかけたトリシュはそう礼を述べてくる。

 どうやら奴ら親子二人のブローでサンドされた俺の苦労は報われたらしい。


「お兄さん、名前なんていうの?」

「リードだ」


 トリシュはリードとこちらの名前をつぶやくと


「じゃあ、リーさんだね」


 と言ってきた。

 そう言われるのはずいぶん久しぶりだ。

 ひどく懐かしい。


「お前はせっかくドムズと和解したのになんで村から発つんだ?」


 感慨に沈みそうになるが、聞かなければならないことを聞く。


「あたし、だれかのために拳を振りたいんだ。だからそれを必要とする人のところに行きたいと思って」


 聞くと、トリシュは少し気恥しそうにしてそう答えた。

 こいつらしい夢だ。

 俺は本心からその助けをしたいと思う。


「そうか。じゃあおれも連れててくれよ。その誰かは拳だけじゃだめなときがあるかもしれないだろう。迷宮の何でも屋の迷宮改築師の俺なら何かできるかもしれない」

「うん。確かに言われればそうかもね。じゃあ一緒に行こうか」


 トリシュは微笑むとそう言った。

 奴の夢を叶えるついでに貸しも返せればいいが。


 そう思いながら果てのない迷宮の中にトリシュと共に俺はまた入っていた。





これで完結です。

読んでくださる方々のおかげでここまで書ききることが出来ました。

ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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