136 ダンジョンリフォーマー
第三の選択。
これは単純なものだ。
この世界を作っただろうものを俺が説得して、神の否定をなくしてもらうものだ。
だが、それをするためにもこの世界の制作者の元に行かなければなならない。
そこに行くには俺はもう一度死ぬ必要がある。
おそらく俺が転生する前に会った神様。あれがこの世界の制作者だからだ。
奴以外にそんな存在はいないし、あれは神様ではないのだから、神様以外のもので人を転生させる権限のあるものと言えばそうとしか言いようがない。
俺が神として消えるのももうそんなに時間は掛からないから、奴にはすぐに会えるだろう。
この残された時間で奴を説得する口上を考えなければいけない。
そう思うとまだやることがあったことを思い出した。
スリートの存在を肉体に返さなければならない。
これをやり忘れたら俺がこの選択肢をなんで選んだのかわからなくなる。
破壊の力でスリートとの契約と繋がりを破壊する。
すると目の前に白い人魂のようなものが現れて、上に向かって飛んでいた。
「お前は何者なんだ? どうして、2柱もの神の力を御することができる。神である俺でさえ1柱で限界だというのに」
ラルフは不気味なものを見る目でこちらを見下ろしている。
こいつは最初から最後まで俺に対する扱いがひどい。
「お前らの上の奴が俺の存在をちゃんと設定せずに転生させたからな。役割が決まってないから何でもありてことなんだろ」
自分の口は動かないので、地面に口を作って奴に申し開きをする。
「お前らを作った奴はどんな奴なんだ?」
少し話し、この世界の制作者についてラルフが知っているかもしれないと思い至り、奴に尋ねる。
「血も涙もない奴だよ。こちらが世界の根幹をつくると、死ねと言ってすぐ死ぬように神が生きれないようにこの世界を設定したからな」
どうやら奴はラルフの言によれば極悪人らしい。
転生するときに会ったときはまだ愛嬌のある奴だと思ったのだが。
奴の説得はなかなか難しいだろうか……。
少し不安に襲われる。
「ラルフ。あちらの事情を考えずにそう断じるのは早計ですよ。何かあちらにも理由があったかもしれません」
こちらが不安に思っていると、いつも胸の内に響いていた声が鼓膜を打った。
それを聞くと、赤髪のラルフ――スリートがこちらに歩み寄って来る。
「イコナ……。何か理由があったにしても、使ったあとにすぐ廃棄するような奴が土台まともだと思うのか?」
「あなたはすぐに感情的になりますね、ラルフ。そう感情的に糾弾してはなににもなりません」
ラルフは少しイラついた顔をしたが、口を閉じた。
「リード、あちらがどれだけ口汚い言葉を吐いても、その奥にある原因を探ってください。そこに説得するヒントになるものがあるはずです。私が知っている説得の知識はこれくらいのものですが何かに役にたったら幸いです」
スリートはこちらにそう語りかけてきた。
奴も説得は得意でないようなことを言っていたわりには、ためになることが言えるものだ。
「説得か。……リード。お前はこの迷宮を修復するんじゃなくて、作り直そうとしているのか。迷宮改築師として助言で言っておくが、作り直すていうことはひどく代償が大きい行為だ。築き上げたものをすべて壊して、ゼロから築きあげなければならない。だから俺には奴がそこまでの力を使ってまでお前の要求を飲むようには思えない」
ラルフはこちらの意図を察すると、俺がしようとしていることがどういうことかをそう説明してきた。
奴の言うことは確かにもっともなことだった。
制作者自体は何も困ってなどいないのだ。奴がそこまでするとは考えにくい。
「代償を用意する必要が在るな。……ふつうの迷宮を修理するのでも土やスクロールや魔道具がいるんだ。それはしょうがない」
気付くと自分自身で確認するように言葉を口から漏らしていた。
それで俺は自分の体が自由になっていることに気づく。
自由になった手で地面を押し、立ち上がる。
立って奴ら二人の表情を見ると2人とも眉間に皺を寄せて渋い顔をしている。
「お前ら……」
渋い顔をされてあちらに送られるのも嫌なので柔らかくしてくれと文句を言おうと思うと視界が暗転した。
―|―|―
黒く、黒く、黒いところだった。
そこは転生前に訪れたあの白い空間とは真逆の世界だった。
何処までも黒が広がった世界。
人子一人いないところは前きたときと同じだが、違和感がぬぐえない。
『上を向いてください』
偉く懐かしい中性的な声が聞えた。
その声に従い、上を見ると大きな青い龍がいた。
その長い体躯を持てあますように、ゆっくりと回してる。
『久しぶりですね。どうされたんですか』
声には憶えがあるが、まったくもってその異様には見おぼえがない。
「あんた、俺をあの世界に送り込んだ神様か?」
声で奴がそうだとわかっていたが思わずそう聞き返してしまう。
『うん? 送り込んだのは確かに私ですが。私は神様ではありません。私は《創星者》です』
奴は何か引っかかたような声を上げると、奴はそう名乗った。
星を創る者。
その名前を聞くと今の龍の見た目と相まって、こちらとは次元の違う高位の存在に思える。
内心ビビっているが、やることがあるので口を開く。
「あんたに頼みたいことがあるんだが」
『何ですかあ?』
「俺が転生して世界で神が生きれるようにしてほしいんだが」
そういうとこちらを覗きこむような形の創星者と目が合った。
そこにある黄色の瞳は揺るがずこちらを捉えている。
『嫌です』
そのまっずぐな瞳を承諾の意だと勝手に思っていると奴はきっぱりと否定した。
ラルフの助言で最初から予想はしていたとは言え、奴の瞳に期待したせいで少し応える。
『そんなことをすれば、人の生きる世界が実現できないでしょ。神は星を起動させるために絶対に必要ですけど、あれをほっておくと、人々を平気で亡ぼそうとしますからね。やることをやってもらった後にはあれには消えてもらわないといけないんです』
こちらが少しダウンしていると奴はそう言葉を続けた。
その理由が完全に決めつけだったのだ。
少しイラつく。あいつらは人々をすべて亡ぼす力は持っていたが自分たちが生きる上以上に人を害することはなかったはずだ。
言いぐさがあまりにもひどい。
「神が本当に亡ぼしたいと思っているかどうかは本人に聞かないとわからないだろう」
『本人に聞いても無駄ですよ。強いものはどうやっても、弱者に対して害するようになることが多いですから。本当に本人がそう思ってなかろうが、だんだんとそちら側に傾いていき。結局は最終的にはそこに至りますからね』
創星者はひどくつまらなそうな口調でそういうと、言葉を続けた.
『それに私たちの間では、人のみが生き、神の書のとおりに繁栄させた世界が至上とされいますからね。それに真向から背くことはしたくないですし』
そこまで聞いて、こいつがひどく違う次元で生きていることが理解できた。
こいつにとって、世界を創るのは遊びで、人や神はその遊びで評価されるための道具に過ぎないのだ。
人や神の感情や心などその眼中には存在しない。
俺には創成者が自分の理解できる領域にはいないような気がした。
奴が欲しい代償の見当がつかない。
「お前は乗り気じゃないてことか。じゃあ、どうすれば、神が生きられる世界を作ってくれるんだ?」
『あなたがなにかやってくれんですかあ?』
仕方なく奴に向けて尋ねると創星者は興味深そうにこちらを嘗め回すように見始めた。
『じゃあ、そうですね。こちらがあなたに施した設定をどうやって解除したのか教えてください』
奴はそう尋ねてきた。どうやら真面目に取り合っていないようだ。
「真剣に頼んでるんだ……。ふざけるのはやめてくれ。先ずお前は設定などしてないだろう」
『いえいえ。私はちゃんとリザードマンの設定を施しましたよ。なのになんであなたは設定が綺麗さっぱり消えているんです』
訳がわからない。そんなことを聞かれたところでなにもわからない。
『自分でもわからないんですね。ところで話は変わりますけどあなたなんでここが黒い上に、私が姿を現していると思いますか?』
唐突な質問だった。
確かに何かいつもとは違う状態だが、違和感があったが疑問に思っていたわけではない。
言葉が詰まる。
だが、奴は大きな瞳でこちらを凝視し、返事を待った。
「お前の機嫌がいいからか?」
こちらがダメもとでそう返すと、奴は愉快そうに体をくねらせた。
『違います。これは呼んでいない人が来た時に展開する迎撃フォームを展開しているからです』
呼んでいない人つまり敵ということだろう。
奴の言葉に背筋が冷たくなる。
こいつは俺を攻撃してくる気かもしれない。
『あなたに害意はないことは知っているので別に迎撃はしません。また質問しますけどあなたどうやって私のところまで来たんですか?』
「それは、前と同じ様に死んで来ただけだ」
やつのどこか含みのある質問に気後れしつつ応える。
そうするとこちらの退路を塞ぐように創星者は俺の周りで蜷局を巻き始めた。
『前はこちらからあなたを呼んだから来れたんです。でも今回はあなたのことを呼んでいません。おかしいですね、田中さん。呼ばなければこちらには創星者以外来れないはずなんですけど』
龍の胴がこちらを包み込んでいく。
生存本能がこの中にいるのは危険だと言っているが、蛇に睨まれたカエルのように動けなかった。
『それにあなた死んでませんよ』
そういうと奴は顎を大きくあけこちらを口の中にいれた。
口の中には何も存在せず、闇が広がっていた。
迎撃されたのか俺はと、少し恐ろしく思っていると顎が開けられ再び外に出された。
『うーん? 精密検査にかけても何もわかりませんね。創星者でないことはわかりましたが。それ以外は何も』
そうすると奴はこちらを再度凝視してきた。
『あなたはもしかしたら、『無』そのものかもしれませんね……』
存在がないとは言われていたが、『無』そのものと言われても受け入れられない。
それはただの概念だ。実際に存在するわけがない。
「無なんかが存在できないだろ。俺は概念じゃないぞ」
『存在できますよ。有は無の存在が前提になければいけませんから。それに概念だからて実体もたないと考えるのは地球だけですよ。概念は実体を伴って存在します』
創星者はよくわからないことをまくしたてるように言う。
その口調は興奮しているようだった。
『でも存在すると言っても《無》は本当に珍しいです。《有》いくつもあるのに対して《無》は一つだけですから。どうやら私は運がいいようですね』
そういうと奴は蜷局の巻くのをやめるとこちらから少し離れた位置に浮かんだ。
『あなたの頼み。受けていいですよ』
「本当か!?」
龍は先ほどとは打って変わってそう快諾した。少し心が浮きたつ。
だが、すぐにそれも落ちついた。
頼みを受ける。それはこちらに何かを要求してくるということでもあるのだから。
珍しいからといって俺を解剖する気じゃなかろうか。
『ただし、その前に田中さんにはあなたの転生先と同期してもらいます』
「なんでそんなことをするんだ?」
奴のよくわからない要求に困惑し、意図せずそう尋ねる。
『だって、神、人で世界を同期させることは他の創星者がやりましたが『無』との同期なんてだれもやったことがありませんもん。他の創星者に自慢ができるじゃないですか』
奴に理由を尋ねたことを後悔した。
そんな下らない理由なら聞かなければよかった。
「そうか。頼みを聞いてくれるなら何でもいいよ。やるならやってくれ」
『じゃあ、早速あんたの転生先にあなたを送って同期を結びますね』
奴がそういうと視界が再び暗転する。
そして、世界は本当の迷宮に作り変えられた。




