幕間⑰ エスカ帝との攻防
数えきれないほどの槍などの武具が、こちらに飛んでくる。
それらは俺の練気を貫通せず、防御する必要もないのですべて受け止め前進していく。
「無駄だとわかってんのに、なんでそんなもん打ちまくるんだ。……あんた」
「わざわざ偽者、貴様と果たしあうのが面倒だからだ」
玉座に座った女はこちらを睥睨してくる。
人をいきなり偽者呼ばわりしたあげく、この態度だ。
あの玉座ごと、叩き斬りたくなってくる。
奴、曰くあの座っている玉座の背が始神の墓の石碑らしく、それは叶わないが。
「俺が何の偽物だかは知らんが。あんたが本物様だていうんなら、降りて来て、目障りな偽物の俺を切り捨ててくれてもいいだぞ」
俺が奴に向けて煽りを入れると玉座の女はニヤリと笑った。
「目障りか……。その逆だよ。我が貴様に持っている感情は。よくもまあ勇者と名乗ってくれて信仰を一身にうけてくれた。貴様が居なければラルフのように信仰で消滅することに怯えるていただろう。貴様には感謝しているよ」
奴はそう言いながら何処から取り出しているのかわからん剣をこちらに射出して来る。
感謝しているならこっちに剣を投げないでくれ……。
そう思いながら、連続で射出される剣を撃ち落としていく。
「ラルフだったり、あんただったり、なんだってそんなに人に信仰されるのを気にしているんだ。普通信仰されたところで貢物を渡されるだけでメリットしかないだろうが……。実際俺は英雄とかもてはやされるお陰でここ何十年遊んで暮らせたしな」
「ふん。……純粋な人間はいい気なものだな。神々とその力の欠片を受け取った魔王や我のように苦しめられることなどないのだから。……存在をしてはいけないと決められている者が信仰などされて存在を確認されてみろ。その時点でこの世から消される」
不快だというように鼻を鳴らすと、眉間に皺を寄せて女はそう言った。
「神々が死ぬことになっていたから、この世に存在してはいけないものなのはわかる。でもなんであんたと魔王たちまでバレるとまずいんだ? あんたらはただ力を持っているだけの人間だろう?」
「うるさい……。我は機嫌が悪い」
女はこちらの質問を無下にすると、低い声でそう言い、玉座から降りてきた。
機嫌が悪くなっていたのに続けざまに聞きたてたのはさすがにダメだったらしい。
まあこれで石碑のことを気にせずに戦えるので結果オーライといえばオーライなのだが。
女は燃えるような赤い剣を携えてこちらに近付い来る。
迷いのない足取りだ。
近接でもそこそこできるようだ。
「そのうるさい貴様の口を切り取ってやろう」
赤い剣をこちらに向けて突き出して先に攻撃を仕掛けてきた。
それを上に弾く。
それから右に飛び込んで切りつけようと思うとなぜか上空に打ち上げられていた。
下を見ると岩盤のようなものが隆起している。
武器は無限に出すわ、岩盤を生み出すわ。
勇者てのはなんでも生み出せる能力があるらしい。
非常に面倒な相手だ。
作るものによって、いつでも有利な環境を作ることができるのだから。
こちらに隆起してきた岩を剣で叩きつけ破砕すると奴のもとに上空からダイブし、斬りこんでいく。
落下途中で横合いからマグマが飛び出してきた。
空気を蹴って回避する。
するといきなり、浮力を感じたと思うと水に周りを覆われていた。
度重なる妨害にイラつきながら、剣を振り、水を吹き飛ばす。
「貴様は絡めて使っても避ける上、当てたとしても傷つかんから面白くないな」
このことをやった下手人はそう言い、退屈そうに立っている。
煽っているのだろうか、こいつは……。
イラつきそのままに剣を振り被り、斬撃で衝撃波を起こし奴にぶつける。
奴はこちらの見え見えの衝撃波を避けずにそのまま受け止めた。
無論、衝撃波を受けた奴の体は裂けた。
だが、裂けた部分からは光しかこぼれず、すぐに再生した。
その様子を見て、目の前にいるものが人外だと確信する。
「何だ、そのわけのわからん体は?」
「元の人の体が創造の神聖力にあてられて、壊れたので作り変えた。それがこの体だ」
奴の答えを聞いても、いまいち何を言っているのかわからないが、奴が人でない裏付けが取れたことは 間違いがない。
剣を構え直す。
ストックを無駄にしても強行して、打倒した方がよさそうだ。
長引かせると何をやって来るか分かったものじゃない。
ラルフとやり合った時のようにいきなり一度で人を100回殺すような波動を打ってこないとも限らないのだから。
奴の元に飛び込んでいく。
溶岩や岩、武具などがこちらにとびかって来るがすべて無視する。
側面を焼かれるような感覚と、横面を思い切り殴られるような衝撃に襲われるが取り合わずに進む。
そして奴に肉薄し切りつける。
俺の剣は奴の剣に弾かれたが、奴の腕を折ることはできたようだ。
続けざまに切ろうとすると
「腕が弱いし、数が心もとないな。どれ、強くして増やすか」
奴はそう言い、胸や肩、床に剣を持った腕を生やした。
注意を払っていなかった床から斬撃をもらい、肩や胸の腕からも斬撃を食らう。
三度切られ、体から出た鮮血が床を汚す。
環境を優位にできると思っていたがここまでか……。
俺の練気を貫通する腕を無数に生じされて、迎撃してくるとは。
反則にもほどがある。
何処に逃げても、奴の腕が生えて来て迎撃されるだろう。
やはりごり押しで行くしかないか。
奴を中心に展開されているこの腕の中に入っていて果たしてストックが持つのかは疑問だが。
再度奴の元に切り込み、今度は先ほどの三つから数えきれないほど増えた腕から繰り出される斬撃に体を蹂躙される。
自分が生きてるのかも死んでいるのかもわからない状態で奴に向けて斬撃を放ち続ける。
一太刀入れるごとに百以上の斬撃がこちらに帰ってくる。
本当に持たんなこれは。
そう思っていると背後からも斬撃が繰り出され始めた。
後方からも来たということは前面からのものと合わせると二倍の斬撃がこれから訪れることになる。
さすがにそんなことをたまったものじゃない。
『ゴーストリープ』を起動させて、奴の背後の腕と俺の位置を交換する。
奴の背後には正面と違って、ほとんど腕が存在しない。
腕の妨害が少ないのなら、思う存分やれる。一気に決めさせてもらう。
剣戟をいくつも放ち、連撃を食らわせていく。
振り続けて一度も静止していないため、心臓の高鳴りが破裂しそうなくらい大きくなる。
だが剣を止めるのを自殺行為なので止めず、斬撃を重ねていく。
「何度切っても死なんし、なんで切られ続けても怯まん! 化け物か貴様!」
「体中、腕まみれのあんたに言われる筋合いはない!」
奴の物言いに物申しながら、斬り続ける。
すると剣戟が奴の再生を上回ったお陰か、奴の体の内側にひと際光る何かがあるのが見えた。
そいつに向けて剣を突き刺す。
奴の剣が此方の心臓を突き刺し、妨害してきたがさらに剣を押し込む。
剣がそれを刺し貫くと、周りにある腕がすべて光になって消失した。
「オグッ!」
こちらの心臓に刺さった剣が消えると思うと、口から血反吐が出た。
「なぜだ……。我は一度も人になど負けたことがなかったというのに……」
元の姿に戻った女――勇者は倒れて天井を仰ぎながらそう言った。
その口調によどみはなく、とても胸を剣で貫れている人間とは思えない。
まだ戦えそうだ。ストックを確認するために腰の箱を見るともう光を放っていなかった。
ストックはゼロ。
非常にまずい。
そう思っていると女は目をつぶすような光の奔流を天に向けて放出し始めた。
そいつがながれ終わるのを待つと、中から俺の剣と少女の姿になった勇者が現れた。
「なぜ人の体に戻っておる?」
少女は自分の手をグーパーしたりすると、目の前の床を睨んで何かしようとしている。
奴の様子を見て、元の力をなくしているのを把握した。
奴の服の首元をもって持ち上げる。
人質ゲットだ。
こいつは仮にもエスカ帝。
こいつをもって戦場で停戦要求すれば、とりあえず撤退くらいは出来るだろう。
俺のストックもなくなっているし、リードたちがあの数の魔王を打ち負かせるかといえば無理だ。
だからささっと石碑を読んで、休戦要求をすることにしよう。
激怒の余りか、こちらの脇に抱えられたまま仁王立ちし始めた少女を携えて玉座――石碑の元まで移動する。
就活が解禁したのでおそらく明日から更新が不安定になります。
今大詰めでラストスパートという感じなので私的には時間がなくても出来るだけ更新したいという思いがあります。
こちらの都合で申し訳ないですがそのために更新の時間を明日から24時に変えさせていただきます。
更新の不安定化に加え、更新時間の変更と色々と申し訳ないです。
都合が悪くて更新できない日は前日にあとがきにて報告させていただきますのでよろしくお願いします。




