幕間⑮ 名無しの剣②
前幕間は四話ほどと書きましたが、五日から一週間くらいになるかもしれないです。
すいません。よろしくお願いします。
アニャンに任せろ。
その言葉を聞いて受け入れがたいという感情が出てくるが、すぐにプラムさんが至極真っ当なことを言っていることを理解する。
もうこれ以上手立てがここでは存在しないのだ。
プラムさんは魔力が切れて攻撃できず。
僕の愛剣はおられ、腰にあるのはお飾りの『名無しの剣』だけ。
これに名をつけて使ったことで、折られて無駄死にするのが眼に見えている。
最善手はもうアニャンを犠牲にして、ここから逃げることだけしかないのだ。
「何をやってる! ダウニー早く!」
僕はここから早く退却しなければならない。
だが偽物の剣戟をいなし続けるアニャンに背を向けることが出来なかった。
本当にこれでいいのか?
追い詰められているアニャンに目が釘付けにされると不意にそんな問いかけが胸の奥から湧いてきた。
妹と同じようにまた見捨てるのか?
胸の奥から湧き上がるそれはこちらを責め立てるように問いかけてくる。
見捨てるしかないだろうに、なんでそんな問いをぶつけてくるんだ。
妹よりも強い剣士ならここで仲間を犠牲にして相手を打倒する算段を立てるし、メビウス家の人間ならここで大きな結果を残すために多少の犠牲を出すのは常道なのだ。
今は逃げることが正しい。
そこまで行くと違和感に襲われた。
なんで僕は妹よりも強い剣士の行動や、メビウス家の人間としての行動をとるべきだと思ってるんだ。
『その人の顔色を窺った剣使いを何とかしれくれる』
アニャンの先ほどの言葉で、違和感が確定的なものにされる。
妹よりも強い人間になるため、メビウス家としてふさわしい人間になるため。
そんなの妹を見捨てた罪悪感を誤魔化すための詭弁だ。
真っ当な人間であると他人に認めさせ、自分の咎をそしられないようにするために生み出した言い訳だ。
偽りが剥がれ落ち、自分がどうして剣を振っていたのかやっと気付いた。
僕は窮地に落ちた大事な人を助ける力が欲しかったから剣を振るっていたのだ。
もうこれ以上大事な人を見捨ててはいけない。
場違いな嫉妬捨てて、仲間の元に向かう勇気を取る。
腰にある『名無しの剣』を抜刀し、アニャンの元に向かう。
「何をしているんだ! アニャンの行動をすべて無駄にする気か!」
プラムさんが僕の前に回り込み、肩を掴んだ。
そうして彼女と目が合う。
鋭い眼光を宿した目がこちらに向けられる。
少しすると眼光は鈍くなり、悲しそうな顔になった。
「もうこれ以上誰かを見捨てるのは嫌です! 誰かを助けられるのなら僕は身を亡ぼしても構わない!」
「君は兵士の訓戒に真っ向から背くのか……。滅びを見据え、覚悟をしたということだね。覚悟をしたものを止めるほど私は人が好きじゃない……」
そういうとプラムさんはどいて、道を開けた。
開かれた道を駆けだす。
「名無しの剣よ! 刻銘に応えよ! 汝の名はサルベイション・デザイア!」
簡略した刻銘の議を行うと『名無しの剣』が凡庸な剣から、蒼い細身の剣に変わる。
その細身の剣の振り方をすぐに理解する。
盾を砕かれ、大剣を打ちつけられそうになっているアニャンの前に踊り出る。
細身の剣を大剣の刀身に当て、軌道をそらしながら斜めに流す。
「アニャン、立って逃げるんだ!」
背後にいるアニャンに語り掛ける。
彼女が逃げたかはわからないが、大剣を持ち上げる前に偽物にできるだけダメージを与える。
細身の剣をできるだけ早く振り、相手の体を削っていく。
偽物の体は切るたびに光の粒子を生じさせていくが、崩壊させるまでに至っていない。
偽物はこちらの剣戟にひるまずに大剣を起こしていく。
このままでは大剣に叩き斬られる。
だがまだわからない。
細身の剣をこちらの意思に応えるように剣速を上げている。
これなら万が一もあり得る。
加速して切り続ける。練気と細身の剣の性質上決定打は打てない。
だが確実に偽物の体を削って行っている。
行けるかとそう思うと、偽物の体が消えた。
偽者は体を大剣に預け、そのまま左から回転して切りかかって来た。
剣を当てのけぞり、流す。
流せたが、体勢が崩れてしまった。
そこを誤たず、偽物の回転し続ける大剣がせまって来る。
ここで終わりか……。
そう覚悟するとなぜか大剣が止まり、剣に罅が入る音が聞えた。
アニャンだった。
アニャンが自分の剣を犠牲にして、大剣を止めていた。
だがそれも一瞬で大剣に彼女の剣は粉砕される。
けれどその一瞬で十分だった。
「うおおおおおおおおお!!」
体に纏った練気をすべて剣に移動させ、空中で無防備になる偽物に全力全霊を込めた斬撃を放つ。
偽者は光に変わり、2つに分断されると消えた。
「あんたでも吠えるときあるんだね……」
アニャンが心底驚いた顔でこちらを見てくる。
「必死になればそれはね。それよりもアニャンありがとう。君のおかげで命拾いしたよ」
「はん! 例には及ばないよ。あたしはしたいようにしただけだからね!」
彼女は言葉の殊勝さとは裏腹に胸を張り、踏ん反りかえっている。
偉そうな態度でいつもなら反感を抱いただろうが、今回のことでするだけのことは在ることが分かったので文句は言わない。
「君たちは良く無茶をするね。若い子の特権てやつかな……」
文句を言わなかったせいかアニャンがむずがゆそうにしているとプラムさんは僕とアニャンに神聖術を掛けてくれた。
体にとことどころについたかすり傷が癒えていく。
無茶は若い子の特権といいつつ、それに付き合っていたというのに謙虚な人だ。
いろいろと疑ったりしたが、この人は結局悪い人ではないと確信できた。
「さて、回復して直ぐで悪いが、ダンジョンコアは破壊してくれ。まだ深淵は列をなして残ってる」
プラムさんはこちらを後押しするようにそういった。
確かにそうだ。まだやることは残っている。
速く済ませなければならない。
魔王の間を抜けて、奥にあるダンジョンコアを切りつける。
深淵は崩壊した。




