14 君子危うきに近寄らず
『マナは、選択して使うというよりは、5種類のマナのうちの一つに大きい値を振るという感覚が近いですかね』
あの後ハーレー先生にマナのことを、聞いた時の回答だ。
俺は火魔法=火のマナとか考えていたが、そうではないらしい。
実際のところの火魔法は、全体のマナを10とすると、火7、風1、水1、土1といった具合に、4種類のマナを使って構成されているものということだ。
火以外のマナを使う理由は、それが抵抗になることで魔法を形づくる役割を担うからだそうだ。
逆に火のマナだけ使うと魔法を制御できずに自分も燃やす結果になるということなのだろう。
ゆえに基本、属性を振る前に火1、風1、水1、土1とあらかじめ4種の属性に振っておくのがセオリーということだ。
今回の二級火魔法はセオリーを踏んで、余ったマナを火7、水3に振れということだったらしい。
それを知らなかった俺はセオリーを踏まずに目いっぱい火と水に振り、魔力を込め過ぎた挙句、自爆。
先生はマナの説明を端折った自分が悪いといったが、すべては魔法の基本もしっかり教えなかった師匠が悪い。
俺に師匠が教えたことなど、魔力の操り方と魔法への愛とかいう宗教じみたものだ。
感覚で基礎の原理もわからないのに今まで使えていた奇跡と、バカみたいな失敗をしたとき、先生が近くにいた偶然に感謝しなければならない。
夕暮れ時そんな殊勝なことを思いつつ俺は、屋敷の中庭で二級魔法の練習をしていた。
この時間帯に、この場所だ。
誰にも邪魔されることなく、心置きなく練習できる。
俺が講習とは別にこんなところで練習している理由は、根から違ったことをやっていたこととあの後、意外にも二級魔法が上手くできたことにあった。
感覚でやっていた魔法の基本矯正と二級魔法を成功させた感覚を、忘れないためだ。
屋敷の中ということもあり、あまり地形を変えたり、燃やしたりしてもことなので、周りに与える影響の小さい二級水魔法の『ミスト』中心での練習になるが、魔法の基本を矯正することが主な目的なので問題はない。
『ミスト』で霧を作っていると誰かが芝生を踏みしめる音が聞こえてくる。
音のした方を見ると、ショットとダウニーが木刀と真剣を持て、中庭に出てきていた。
「お、リード、お前もいたのか、ちょうどいい……」
ショットは目ざとく俺を発見し、そんなことをつぶやいた。
言葉とタイミング的に俺も稽古に参加しろということだろう。
言わずもがな奴が次にいうだろうことはわかった。
「お前も《騎士の栄光》に行くからな。ダウニーだけ稽古してもお前がアウトになったら元も子もない。お前も稽古するぞ! 武器庫から使えるやつを持ってこい」
想像通りだ。
あまり嬉しい提案ではない。
それよりも魔法の練習をしたい。
断りを入れようとショットを見つめると次期侯爵殿下が、俺を睨みつけていることに気づいた。
断りを入れることは自分の首を断つことと同義だと悟った。
「おお! 分かった。武器庫からぶつを取って来るから先にやっといてくれ」
そう言って俺は、ショットたちとはすれ違う形で屋敷に移動した。
屋敷の中に入ると一息つく。
「あぶねえ……」
危うく選択を間違えてバッドエンドルートに突入するところだった。
ダウニーの動向には気を付けなければならない。
それを見誤ることは死に直結するのだから。
セルフ反省会を終え、武器庫をめざそうとするとあることに思い至った。
「武器庫の場所、聞いてねえ……」
ダウニーにビビって、すっかり聞くのを忘れていた。
俺のドジをかます質はどうにかならないものか……。
わざわざ中庭に戻って聞くのも癪なので、巡回しているメイドに声をかける。
「すいません。武器庫の場所教えてもらいたいんですけど」
「武器庫なら食堂の右隣にありますよ」
メイドは簡潔に応えた。
一応雇われているとはいえ部外者に武器庫のことを教えていいのだろうか?
少し疑問に思ったが、おそらくダウニーとショットが話を通していたのだろう。
そうでなければ、これは説明できない。
暖色の廊下といくつもある扉を通り抜けていき、大きな両開きの扉―食堂の扉にたどり着いた。
目的の武器庫はその右隣りという事なので右隣にある扉を開ける。
中には、剣、弓、槍、盾といった具合に武器が所せましと並べられていた。
「これだけあると、壮観だな……。うん?」
余りの多さに口から感慨を漏らし、見渡していると気になるものを発見した。
武器庫に錠をつけられた箪笥?
場違いな感じがした。
ここまであからさま怪しいと気になる。 だが、中身が侯爵家の機密文書的なものだった場合、ことになる可能性も考えられる。
「君子危うきに近寄らず……」
俺は壁に掛けてある槍を手に取って、ささっと退出する。
その時に何かの視線を感じた気がした。




