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11 先達の指摘



 まずい……。


 素面で料理を突っつきながら、俺はそんな感想を抱いた。

 もちろん、贅を尽くして作られた御馳走がまずいわけではない。

 この食卓に流れる空気。

 そいつがまずいのだ。


 食事が運ばれてきてから誰も口をきいていない。

 正確にはトリシュが「お代わり」といって給仕と口をきいているがそれはこの席にいる人間じゃないので数えない。


 俺は精神的にこの状況がかなりきつい。

 別に一人であれば黙々と食べるのもなんとも思わないのだが、少ないとはいえ、複数人いる状況で誰も口を利かないのは窒息しそうなほど息苦しい。

 そんなに息苦しいなら、自分がしゃべって、打開しろという話なのだが、いかんせん俺にはこの重い空気の中、発言する勇気などない。

 そんなことができるならこうやって、困ることもないだろう。


「ディンクス伯爵、エルフの森へは何の御用で来られたのですか?」


 陸にあるというのに、溺死しかけていた俺はその声で息を吹き返した。


「うん?ああ、ここには迷宮の講習を受けるために来たんだ」


 ショットは予期してなかったのか、少し気後れしたような感じで返事をした。


「迷宮のことを習って、何をなさるつもりですか?」


 ダウニーはショットの態度にもめげずに、話を展開していく。

 今朝は人の心のないチクショウと思っていたが、案外いい奴なのかもしれない。

 少なくとも俺よりガッツがある少年であることは間違いない。

 俺ならば、気後れした反応を見たら、ビビッて二の句は告げることはできない。


「俺のガキどもが修行するため専用の迷宮を作る。俺の自家用迷宮じゃ、あいつらは死んじまうからな」


 さらっと、ショットは迷宮を持っていると公言した。

 嫉妬で脳みその血管がぶちぎそうだ。

 しかも、何だその自家用車みたいな言い方は。


 ブルジョアは言うことがちげえな……

 内心で愚痴りながらも、俺も欲しいとひそかに思っていたこともあり、ショットの自家用迷宮とやらに興味がわいた。


「お前の自家用迷宮てどんなのなんだ?」

「そうだな。獣系のモンスターが無制限に出てきて、頻繁に構造が変わる奴だ。」


 どこかで聞いたことがあるな、そんな特徴がある迷宮……。

 聞き覚えのある『モンスターが無制限』、『構造が変わる』という言葉を脳内の検索エンジンにかける。

 俺のポンコツな知能は雑多な周辺情報も巻き込んで記憶の海から言葉に該当するものをサルベージした。

 周辺の『雪』、『ビキニアーマー』といった無駄な情報を除去してやっと探していたものが見える。


 魔王が作る迷宮『深淵(アビス)』。


 それが『モンスターが無制限』、『構造が変わる』といった言葉が指し示していたものだった。

 ということは目の前におられるこのショット様は爵位持ちである魔王であられるということになる。


 俺、魔王にタメ口使てるんだけど……。

 やらかした時特有の血がサーて引いてくいく感覚に襲われる。

 とんでもないことをしでかしてしまった……。

 

 魔王にタメ口を使うなんて、爆走中のダンプカーの前に飛び出すようなものだ。

 ショット様は俺と口をきくたびに赫怒(かくど)していらしたんじゃなかろうか。

 今生きていることを思うと、もしかしてショット様は寛大なお方なのでは……。


 いや待てよ。

 冷静に考えれば、似ているというだけでただの迷宮だということもあり得る。

 本人に確認してみなければ実際の事はわからない。

 

 何事もかもしれないで行くのは危険だ。

 確認しよう。


「え、もしかして、お前て魔王なの?」

「いや、迷宮と称号が残っているからよく間違われるが、今の俺は魔王じゃない。昔むしゃくしゃして暴れまわっただけで、結婚してからは魔王らしいことなんて一つもしちゃいないからな。おかげで今はエスカ王のペットだ」

「お、おう。お前の経歴はすさまじいな」


 俺はドモリつつも何とか、返事を返す。


 やっぱり魔王じゃねえか。チクショウ……。

 まわりの奴らがピリピリしてるはずだよ。

 自分の家に暴力団の組長が飯食いに来てるようなもんだからな。

 

 先までのんきに沈黙がきついとか思ってた自分をぶん殴ってやりたい。

 ここから飛び出して、走り出したい気分だ。

 別にここから逃げたいからではなく、無我夢中で何かをすることでこの状況を忘れたいだけだ。

 逃げても、結局逃げられないと悟った俺には、純粋に逃げたいなどと考える思考回路はない。


 当然走り出せば、どういう結末になるかわかっているので、口に含んだ料理を良くかむこととトリシュが「お代わり」という数をカウントして代替する。

 周りが何やら雑談している中、俺は食べ物を咀嚼することと「お代わり」カウントをすることで心を無心にし、現実逃避で現実をごまかす。



「僕たちに『騎士の栄光』を攻略できると思いますか?」


 その発言を聞いたことで俺の凪いだ湖面のような心に波紋が生じる。


 そんなもん、まだできるわけないだろ! 馬鹿なことを聞くんじゃないダウニー!

 ダウニーの行いは、わかってて当たり前のものを、尋ねるようなものだ。

 誰でも馬鹿にしてるんじゃないかこいつと思うだろう。

 

 十歳を越えるか、越えないかわからない少年と兼業冒険者が熟練冒険者を帰らぬものにする中級迷宮に行くのだ。

 考えずとも無理だと誰でもわかる。

 ショットが切れればどうなるかわかっているというのになんでそんなことを……。


 頬を膠着させながら、ショットの顔を見る。

 表面上の変化はない。


「無理だな。お前らがパーティで行くなら(・・・・・・・)


 淡々とした声でショットはそう告げる。

 この口調は怒っているという訳ではなく、親切心で言っているような声音だ。

 だが、言われた文言には少し嫌なニュアンスが混じっていた。


「パーティで行けば、という事はどういうことですか?」


 ダウニーが張り詰めた顔でショットに聞き返す。


「お前ら4人で行けばいけないが、お前とリードを抜けばいけるてことだ」


 先達は、俺とダウニーが【足手まとい】になることをはっきり言い切った。







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