10 アポはちゃんと取らないと迷惑
俺は首の拘束を解くためにもがくが、マイヤは抵抗を押さえつけるようにして、さらに力を強める。
首にこもる力が増すごとに、自分に残された時間も減っていていることを思い知らされる。
力はとどまることを知らず、流れる血を止め、確実に俺を破滅に導いていく。
「手貸した方がいいか?」
ショットの落ち着いた声が酸素の足りない脳みそに響く。
マイヤの手に邪魔されながら、何度も首を縦に振る。
振っている途中で、肺に新鮮な空気が流れ込み、むせた。
その場で地面に膝をついて、息を整えることに意識を集中する。
まだ酸素が脳にいき渡っていないが、手から解放されたことだけは理解できた。
助かってありがたいと思う反面、あいつはなぜ早く助けてくれなかったのかという怒りがわいてくる。
息を整えて、立ち上がり、文句を言ってやろうとショットを見やる。
奴はトリシュを肩に担ぎ、マイヤを脇に挟んで立っていた。
言わずとも、ショットの態度からは負傷者をどうにかしようといった意思が感じ取れた。
文句を言おうとする気持ちは失せた。
「重いだろう。俺も担ぐ」
―|―|―
屋敷に到着すると執事―バイツさんが出迎えてくれた。
絹糸かくやと思わせるほど手入れの届いた白髪に、モノクルが印象的な老人。
昨日俺が眠っている間にマイヤを撃退してくれたらしく、かなり機転の利く人物だと聞いている。
だが、彼は俺たち一同を見た途端に目をむいた。
予期して出迎えに来てくれたのに、まるで予期していなかったような反応。
しかもこの人は機転の利く人物で、ちょっとやそっとのことでは動じないはずなのにだ。
矛盾している。
俺の心あたりとしては目ぼしいのはショットしかいない。
知らぬ人間を連れてくるのはこの屋敷ではNGだったのかもしれない。
腹を空かせて気絶から回復したトリシュも青い顔をしている。
腹が減ってか、今の状況で青くなってるのかはわからないが。
状況的には後者だろう。
「では、皆様、食事の準備ができておりますので、食堂へどうぞ」
そんな重苦しい空気の中、バイツさんは緊張した面持ちで口を開いた。
―|―|―
バイツさんに案内され、食堂に着いた。
マイヤを担いだまま食堂に入ろうとして、バイツさんに止められた。
ただならぬ雰囲気が周りに漂い、緊張しているとはいえ、迂闊だった。
その後バイツさんに引き渡すと、マイヤは介抱するという名目で客室に連行された。
捕獲された宇宙人の如く連行される奴を目端に収めて、食堂に入ると俺はその中の様子に驚かされた。
まず食堂の広さだ。
会社の会議室くらいはありそうなくらい広い。
狭い部屋を食堂もどきにしていた俺にとっては軽いカルチャーショックだ。
次に、それに見合うほど大きな卓といくつも並べられた椅子。
卓にはテーブルクロスがかかっており、椅子は上座から下座まで十席以上ある。
どれもこの目に収めてきた映像資料には該当するものが、存在しない。
俺の驚きとは対照的に周りの連中は、澄ました顔で席に座っていく。
こういう場とは無縁そうなショットが落ち着いているのは少し意外だった。
しばらくすると、緊張した面持ちのダウニーが食堂の中に入って来た。
先ほどの空気といい、実に物々しい。
ダウニーは席に着くと、すぐに口火を切った。
「お待たせしてすいません、ディンクス伯爵。すぐに給仕が食事の用意をしますので」
「ああ、今の俺はただの旅の者だ。かしこまらなくてもいい」
ダウニーの謝罪に対して、ショットはぞんざいに応える。
こいつ……。なんとなくただものではないと思っていたが、貴族だったのか。
でも侯爵と伯爵なら、ダウニーの方が階級は一つ上のはずだ。
なのに、なんでこいつより位の高いダウニーが下手に出ってるんだ?
疑念に襲われていると、食材の匂いが鼻腔を刺激した。
給仕たちがごちそうを持ってきているのだろう。
プリムと、湯気を立てる御馳走が見えると不穏なディナーが始まった。




