使い捨てアイテム
「痛っ!」
勇者が転んで怪我をした。
仲間の魔法使いが杖を足に引っ掛けたからだ。
御付きの騎士が、慌てて道具箱を探って何かを取り出した。
それは新品の薬草であった。
「おおっ、ありがとう!」
勇者は、薬草を使って傷を治した。
使った薬草は消えた。
「うわああああ! 毒虫に刺された! 死ぬううぅ!」
森の奥深くで、勇者が無視に刺された。
魔法使いがこっそり足に付けておいたのだ。
騎士が大急ぎで道具箱から何かを放り出す。
毒消しだ。
「おおっ、ありがとう!」
勇者は、毒消しを使って毒を治した。
使った毒消しは消えた。
「ぐああああっ!」
勇者が死んだ。
魔法使いが手を滑らせて、勇者になんかすごい魔法を食らわせてしまったからだ。
騎士が狂ったように道具箱を漁り散らして、何かを抜き出す。
人を生き返らせる秘薬、魂の球だ。
「おおっ、ありがとう!」
勇者は、生き返った。
使った魂の球は消えた。
「あっ、何てことだ!」
勇者が頭を抱えた。
魔法使いが、勢い余った振りをして目の前の橋を焼いてしまったからだ。
騎士が、滝のような汗を流しながら道具箱の中身を地面にぶちまけた。
日雇いの派遣社員(×10)だ。
「おおっ、ありがとう!」
勇者達は、日雇い派遣社員を繋げて作った橋を渡り、向こう岸へ渡った。
日雇いの派遣社員(×10)は、激流の底に落ちて消えた。
「くそ、ここに来てか……!」
勇者は愕然とした。
魔法使いが盗賊に盗まれたと見せかけて、エステやら酒やらや煙草やらで金を全て使ってしまったのだ。
騎士が、今にも飛び散りそうなくらいうねりながら、道具箱から何かを引き抜いた。
お金がない時の救い、ヒモ男だ。
「おおっ、ありがとう!」
勇者は、ヒモ男に旅費を全て出させてから、街を後にした。
ヒモ男は、力尽きて倒れ、土に還って消えた。
「おのれ、何て強いんだ!」
勇者が魔王相手に苦戦していた。
攻撃の要である魔法使いが、ここにくるまでにわざとMPを使い果たして、役に立たなくなったからだ。
騎士が、涙をボロボロ流しながら道具箱を破壊して、道具を探し出した。
一発で魔王城を破壊できる切り札、核弾頭だ。
「おおっ、ありがとう!」
勇者は、核弾頭を発射して、城と一緒に魔王を抹消した。
核弾頭は、放射能とキノコ雲とクレーターを残して、この世から消えた。
かくして、世界に平和が戻った。
勇者達は勝利の杯を交わした後、それぞれの故郷へと帰ってきた。
魔法使いが不機嫌そうに故郷への道を歩いている。
「何が、『冷たく突き放せば男は惚れる!』よ、すっかり騙されたわ!」
と、魔法使いが『モテ女の法則(ツンデレ編)』を片手に怒鳴った。
「所詮本なんてアテにならないわ! ケッ!」
魔法使いは、『モテ女の法則(ツンデレ編)』を捨てた。
今更ツンデレの流行に乗って見ました。こういうもんですか?