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嫌な予感ほどよく当たる

 お坊ちゃま専属メイドである私は、基本四六時中お坊ちゃまの側に付いて回っている。


 が、それはお坊ちゃまが屋敷にいる場合であって、パーティの時は使用人控室で待機だし、家族団欒の際には邪魔にならないよう裏方でもっぱら作業に徹している。


 そして、あと一つ。


 お坊ちゃまが学校の際には、私は屋敷で仕事をしている。

 いくらわがままお坊ちゃまとはいえ、学校にまで付いて行ったりはしないのである。


 まぁ、たまにお坊ちゃまが「ふんッ、今日は特別に俺を学校まで送ることを許可するっ!!」とか「今日はお前も迎えに来いッ! いいなッ!!」とか気まぐれなわがままを炸裂してくれるお陰で、送迎程度なら付いて行くこともあるが…


 と、まぁ、話は逸れたが、今は正に、お坊ちゃまは学校で勉学に勤しんでいる時間であり、私はお屋敷でお仕事なう、な状況である。


「…と言っても掃除に洗濯、食材や雑貨の発注に書類整理っ!!! お坊ちゃまがいなくてもバチクソ忙しいんだけどねッ!!」


 屋敷内を小走りで動き回りながら、思いのほか大きな声で愚痴が溢れ出た。


 もうね、この仕事、どこかで愚痴とか不満を垂れ流さないとマジでやっていけない。

 体もそうだけど心も死んでいっちゃう。


 まぁ、そんな姿をメイド長なんかに目撃されたら顔面蒼白ものだけど…


「ハッ!? メイド長で思い出したっ!!」


 いつもお世話になってるクリーニング屋さんがご病気でしばらくお休みするから違う業者さんにお願いするって旨を伝えなきゃだったんだッ!!


「あぁああああああッ!! てことはその打ち合わせでまた時間無くなるやんッ!! この後はお坊ちゃまのダンスレッスン用の靴とスーツを用意しようとしてたのにッ…! 少しでも遅れるとお坊ちゃま煩いのになぁ… てか!!! フクロウ小屋の新作スイーツも確認しに行かなきゃいけないんだッ!! うぁあああああああッ!!!! 死ぬッ!!!」


 ギャンギャン一人で騒ぎながらドタバタと足音荒くメイド長室へと駆け込む。



 ーーードタドタドタッ…バンッッ!!!



「メイド長ぉおおおおおおおッ!!!」


「うるさぁあああああああいッ!!!!!」




 ***




「へぇ、なるほど! 中がカスタードになってるんですね〜!」


「はい! 試作の段階で中がチョコレートだとしつこ過ぎてどうも食べにくくて… 思い切ってカスタードにしてみました!」


「うん! いいですよ! しかも温めるとカスタードがトロトロになって絶品です!」


「ありがとうございます!! アーシャさんにそう言って貰えると我々も自信になりますっ!」



 時刻はランチ時を少し過ぎた頃…


 お屋敷でのある程度の作業を終えて、私は所変わって“眠るフクロウ小屋”へと足を運んでいた。

 もちろん、例の新作スイーツをチェックする為である。


 先日のマカロンもそうだが、お坊ちゃまはここのお菓子が大のお気に入りで、毎回新作のスイーツが発売されると「必ず何が何でも初日に手に入れろ」と椅子の上で踏ん反り返ってご命令を下される。


 そんなお坊ちゃまに「はぁ? こちとらお屋敷の仕事だけで手一杯です。 自分で食うもんなら自分で買って来やがれ下さい。」なんて言えるわけもない私は、渋々ご命令を了承すると、毎回新作スイーツを手に入れる為に奔走するのだった。


 まぁ、その甲斐あってか、今や“眠るフクロウ小屋”のパティシエの方々とはいい交流関係を築けているし、なんなら新作スイーツを発売前にチェックさせてもらえるくらいには仲良くなった。

 本当に大助かりである。


 というわけで、今回も忙しい合間を縫って訪れた“眠るフクロウ小屋”で、私は一足先に新作スイーツを堪能すると、「今回のスイーツもお坊ちゃまが喜びそうだ」となんだかんだで安心して、発売初日に個別で数回注文の予約を取ったのだった。

(これも積み上げた友好関係の賜物である。)



「いつもいつもありがとうございます! 当日は忙しいかとは思いますが… どうぞよろしくお願いします」


「いえ! こちらこそ! 毎度ありがとうございます! あの“アイアンローズ家”にご贔屓にしていただいているなんて鼻が高いですから!」


「ふふッ、皆様がお坊ちゃまの好みどストライクのお菓子を沢山作って下さるお陰ですよ」


「はははッ! そう言っていただけると、また更に新しい新作作りに熱が入りますよ! …なーんて、少し気が早過ぎましたかね?」


「あ、ははは… 出来ればもう暫く間を開けていただいた方が…」



 じゃないと私の体と心が付いていけません。


 なんて、ぽろっと冗談半分、本音半分の言葉を零すと、眠るフクロウ小屋には沢山の笑い声が響いた。








「さて… 早く帰らないと…」


 お坊ちゃまより帰りが遅くなったら速攻でクビだ。


 なんて独り言を零しながら、私は皇都の街中を若干早歩きで進んでいた。


 思ったより早く“眠るフクロウ小屋”での用事が終わった私は、お屋敷に戻りがてら不足していた備品等の買い出しをしていたのだ。

 しかし、その買い足し自体も量が少なかったこともあり、早々でお屋敷に帰れそうだ…なんて頭の中でこの後の仕事内容を確認していた矢先に事件(?)は起こった。



 リンリンリンッリンリンリンッーーーーー



「!」



 突然、耳元から鳴り響いた音。


 実は耳に付けているパールピアスが音源であり、何を隠そうこのピアスは通信装置の機能が付いているのである。


 つまりは、今私には誰かから連絡が入っているわけであって…

 仕事の鬼である私には気軽に連絡のくる友達などいないわけであって…

 連絡がくるとしたら大抵はお仕事仲間からのSOSというわけであって…


 結果、私は光の速さで通信に答えた。



「はい。 アーシャです」


「あああああああああアーシャさぁああああああああんっ!!!!!!」



 さて、うちのお坊ちゃまは今度は何をやらかしたのであろうか…

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