039 こっちの武具屋では短気じゃないよ
本日2回目の投稿です。
「おはようございます。武具作成を受注した方は来てますか?」
「おはよう。興味を持った冒険者が2人来てるよ。あそこの2人だよ。下級の冒険者だ。若いがこの町の期待の冒険者だよ」
「分かりました。行ってきますね」
受付の痩せたおじさんに軽く挨拶して、直ぐに冒険者に会いに行く。
「はじめまして。僕が逆依頼を出しました。よろしくお願いします」
見た目は10代後半かな?
男女のペアか。
「あぁ、よろしく。オーダーメイドで魔道具を作ってくれるんだろ? ちょっと高いが、見本の剣は良いものだった。しっかり作ってくれよ。こっちは俺のパーティメンバーだ」
「よろしくね。若い娘さんと若い奴隷ですか。見た目から心配ですね…あの剣は本当に貴方が作ったの?」
「先ずはお店で話しませんか? 他にも見本がありますから」
うん、生意気だ。
猫ちゃんの表情も微妙だ。
でも、今回の僕は短気じゃないよ。
「…よし、元々博打だ。今日1日位なら時間をくれてやるよ。行こうぜ」
「はいはい。案内よろしくね」
「…あんな魔道具があるなんて。とっても馴染む型が作れたよ」
「…剣だけじゃないのね。私の欲しいと思った槍が出来そうだわ」
粘土ゴブリン鉄を、いじいじ、こねこね、と型を作り初めてから大分と態度が軟化したよ。
見本も一通りあるから、見本で基本方針、デザインとバランスを粘土ゴブリン鉄、後は重量で値段、文句はなかった。
「では、受け渡しは3日後の9時で。ギルドへの入金が確認できたらお渡ししますね。ありがとうございました」
2人が満足と期待の顔で帰っていく。
昼を少し過ぎたが、まぁ良いだろう。
宣伝してくれると、なお有り難いけどね。
ちゃんと猫ちゃんにも働いてもらったよ。
僕は座ってこねこね型を作るだけ。
猫ちゃんは質問や相談を聞き、内容をまとめて僕に伝え、客と僕の間を取り持ってもらう。
主人の間で世話しなきゃ奴隷っぽくないからね。
「初めてかもしれません。人前で小間使いのように振る舞ったのは。マスターがご主人様してました。素晴らしい!」
誉めてる? 貶してる?
猫ちゃんが嬉しいなら良いけどね。
仕事を片付けよう、下級ゴブリン鉄で、型通りに最適化っと。
よし、問題ないね。
マジックポーチに入れて、終了。
モンスター素材の仕入れと称してその日の昼過ぎに出掛ける。
町の近場にダミーダンジョンを作って、次の夕方には町に帰る。
1日消化。
「制作中、入店お断り」の看板を玄関にぶら下げて鍵を閉める。
我が家で1日のんびりする。
ここの所、全体的に模擬戦をしてる。
特に猫ちゃんがステータス上昇に体を合わせるため、レイピアゴブリンと戦ったり指導を受けてる。
欺くためとは言え、2日間は長いな。
鍛冶職人からすれば短いと思う、多分だけど極端に早い。
これ以上は短縮できないんだよね。
3日が経った。
朝、ギルドに行く。
「おはよう。2人分の入金があるよ。金額を確認して」
一応手応えを感じていたが、入金を渋ることはなく、ちゃんと約束の額が入ってた。
「大丈夫です。約束の金額を確認しました。商品を渡したら来るので、手数料と税金をそのお金から引いててください」
「分かったよ。2人が待ち遠しそうだよ。行ってあげて」
さっきからガン見してる2人に近づく。
「おはようございます。早速ですが、約束の片手剣と槍です」
マジックポーチから完成品を出して渡す。
…あ…れ? 握ったまま無言だ。
大体喜ぶのに…うぉ!?
「おぉ、おぉ、おぉ、馴染む。すごく馴染む。凄いぞ」
「良いわぁ。すごく良い。あぁ、良いわぁ」
なにこの2人、すごく怖い。
武器を掲げて酔いしれる男(振らないだけの理性あり)と、槍に頬擦りする女(これ以上の行動に走らない理性あり)がいる。
「き、気に入ってもらえて良かった。では、次の方は居るか確認して…」
「あぁ、嬢ちゃん。この馬鹿の知り合いが次の依頼人だ」
渋い男だけど、多分20代中盤。
同席してるなぁとは思ったが、渋い男も含めた3人ともが武器に酔いしれてる男女の知り合いかな?
「そうですか。はじめまして。早速ですが店に行きますか? …置いてって大丈夫でしょうか?」
「迷惑じゃなきゃ、連れてく。今日は放置できんだろうな。一応これでも剣を教えた仲なんでな。置いていけん」
了承の旨を伝えて、受付で処理を済ませ、店に移動する。
3人ともベテラン冒険者として年期が違う、注文が細かいが分かりやすいようだ。
猫ちゃんが奔走して聞き、バランス確認の素振りを庭で対応し、またバランス調整に。
若い冒険者にも、注文の甘さを指導してるから時間がかかる。
終わったのは夕方に差し掛かる辺り。
今日はもう終了、材料があることにする。
これで注文が途切れなければ、ここの生活も安定するよね。
さて、他所様のダンジョンの攻略と我が家の平常運転までゆっくり過ごすとしますか。
「あぁ、ご主人様にこき使われるって幸せです。生きてるって感じがします」
猫ちゃんって、あんな感じだったっけ?
まぁ良いや。
愛玩用じゃない、生きてる猫ちゃんが好きなんだから。
「これで失敗したら…怒るだろうなぁ。ふふ、夜が…。あ、でもでも、真面目に働いてるご主人様に迷惑は…んー、どうすれば…」
…独り言も小さめに言ってね。
僕はどうすれば…
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