020 不良物件と拾い物少女
本日1回目の投稿です。
2回目の投稿は18:00予定です。
よろしくお願いいたします。
「気に入った空き家を見つけました。売ってください」
15歳少女から家が欲しいと言われた商人ギルドのおじさんは困り顔だ。
威厳無し、コネ無し、下級冒険者、元の僕なら追い返す案件だと思うよ。
「…えっと、お嬢ちゃん。ちなみにどの家?」
一応話を聞いてくれるらしい。
大体の場所と、大まかな外見を伝えて様子を見る。
どきどき。
「あぁ、あの事故物件か。あそこは売ってないよ。それに薦められない。ゴーストが出るんだよ」
あのゴースト達ってボロ屋敷に住んでたのか。
なら、配下にしたし、配下の物は僕の物。
でも、人間の所有権は誰が持ってるのかな?
「空き家なのに売ってないって勿体ないんじゃないですか? ゴーストなんて退治すれば良いのに」
「ちゃんと冒険者を雇ったさ。3回も。そして全てでゴーストは退治されたんだよ。理由は解らないが、また復活するんだ。そんな物件、売りに出せないよ」
もしかしてレイスって、
『特殊能力で配下を再召喚します。復活ではないので能力次第では無限に増えます』
あのレイスの上限は30匹だったんだろうね。
帰ったら詳しく能力を聞いてみよう。
「では、貸してください。これでも冒険者です。ゴーストなんて倒せますよ!」
「…確かに売ってはないんだけど、事故物件だと理解している人には、貸すことは検討していた」
「では、借りれるのですね」
僕が嬉しそうに言ったのが切っ掛けだった。
何か、おじさんが愚痴りだした。
「死んだ持ち主は結構悪どい事をする商人だった。恨まれた結果、起きた殺傷事件で持ち主は死にあの家は潰れた。迷惑を被った人々や商人に持ち主の財産で補填したんだ。しかし足りず、あの家を商人ギルドが買い取ったお金でなんとか沈静化した。最初は事故物件ではなかった。財産を持ち出した後に何故かゴーストが住み着いて価値の無い事故物件となった。損したのは商人ギルド。…担当は私だ」
ご愁傷です。
にしても、語り長いよ。
レイスの元はあの家の悪い商人だろうなぁ。
「ちゃんと家賃払いますから、何なら1年分前払いで、途中で家を出ても返金無しでも良いですよ。それくらい腕に自信があります」
まぁ、もうゴースト達居ないけどね。
「実際困ってるので…えっと、1年賃貸料が税金込みでこのくらいです。ここまで話しといて今さらですが、お金あるんですか?」
あ、思ったより安い。
ちゃんとありますよ。
今の持ち金の収入先は、売り子で得た賃金1分未満、冒険者からの戦利品9割9分以上だ。
全財産を持ち歩いてる冒険者って多いよね。
「はい、どうぞ。契約書の作成をお願いします。あと、修理はこっちでしますから、好きに改装しても良いですよね?」
「…お嬢ちゃん金払いいいね。…確かに。今契約書を用意します。修繕や改修の件も明記しておきます」
ちゃっちゃと契約書も完成した。
一応コアさんにチェックしてもらったが、人間同士の契約には興味がなさそうだ。
これで、あの家に安心して帰れるよ。
昼、回ったな。
どっか良い匂いがする店で飯食べようっと。
ふぅ、満腹。
鍵も貰ったし、帰って家を綺麗にしようかな?
…何だ?
「このガキです! 何度言っても止めない残飯漁り。いい加減迷惑なんですよ! 商売に影響が出てるんだ! 衛兵さんよ、これも立派な犯罪だろ!?」
「私も店主に何度か呼ばれ直接注意している…確かに迷惑行為だ。無銭飲食の迷惑料と考えて、金でも払って二度と来ないなら…払えないから残飯漁りか。店主への借金をしてるとして、借金奴隷に落とす。店主よ、それで良いか?」
「居なくなるだけでありがてぇ。それでお願いします」
地面に平伏して「ごめんなさい」と力なく言い続ける少女。
さっきの飯屋の店主が衛兵に少女の措置を頼んだのだろう。
衛兵が少女を掴み無理矢理立たせ…
んっ、んんんー!!!
少女の目を見た時、僕の体に衝撃が走った!
「その少女! 僕が貰い受ける!!!」
勢いって大事だと思った。
ここで逃す気はない!
「失礼ながら話を聞いてしまった。店主さん、その少女の借金を肩代わりしよう!」
この店主の飯屋の定食1,000食分の金額を即座に提示し、現金で手持ちにあることを示すように掌に出す。
「衛兵さん、このくらいが妥当だと思うが足りないだろうか?」
「急に何を!? …いや、十分過ぎる程あるだろう。店主よ、この嬢さんが提示した額でどうだ? もちろん、借金奴隷にはなり所有者がこの嬢さんになるだけだ」
「あぁ、十分だ。嬢ちゃんは客だったから言いにくいが、条件にこのガキを二度と連れてこないとも約束してくれないか?」
「店主さん、了解した。衛兵さん、これが約束の借金全額です」
一度衛兵を介する方が良いよね。
後見人?
そんな感じだ、店の前での騒動だから人の目もある。
衛兵には中立に裁いてもらおう。
「提示した金額があることを確認した。店主、受け取れ」
「はい、確かに」
「では嬢さん、奴隷契約をちゃんと確認したい。一緒に奴隷商の所に行かせてもらうぞ」
よし!
少女を捕獲したぜ!
先の事は考えていないが、後悔はない。
「解りました。よろしくお願いいたします」
呆然とする少女に優しく寄り添い、一緒に衛兵について行った。
隣を歩く少女には奴隷の証である金属の首輪がされている。
あの後は流れ通りに奴隷商で、衛兵が立ち会い、契約が交わされた。
手数料も僕の負担。
理解が追い付いていないのか、今一反応が薄い少女だ。
着いて来てくれてるから逃げる気は無いのだろう。
さて、勢いで少女を拾った。
何故か全く後悔していない。
今の問題として、少女の処遇を考えよう。