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HisStoria  作者: なめこ玉子
PLAYER1
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アルビシオン海底トンネル ②

 坑道を抜けた先の古居住区は広大な空間の中にあった。地中を天に向かって真四角に切り抜いた空間は階層を持っている。真ん中を吹き抜けとしてそれを囲むように並ぶ穴。一つ一つが住居だったのだろう。それが理路整然と行儀よく並ぶ。一つの階層には部屋が50あるらしく、その階層をコピーしたかのように同じものが上に8つ、下に二つ重なっている。つまりここには500の部屋があるということになる。その姿は現実世界のマンションを思わせた。


「ちょっと、びっくりするだろう?二層にはこう言う場所がいくつもある。まだ見つかってない場所も相当数あるとは言われてるしな」


「これで本当に労働者の居住区だったんでしょうか?」

 サトリは地下空間の大きさに圧倒されていた。


「入ってみればわかるよ」


 促されるように一つの穴倉に入ってみる。部屋の中は外から見た印象より随分と狭かった。寝室を思わせる大きめの空間が一つありそこには調理場と思しき物が併設されている。あとはトイレに当たるのではないかと思われる大きさの小部屋が一つ。天井も低くて閉塞感がある。


「人1人最低限暮らせるだけの空間って感じだろ?出てくる場違いな工芸品(オーパーツ)も判を押したように同じものばかりで、おそらく生活必需品の類だったんだろうさ。逆に宝飾品みたいな贅沢品はほとんど出てこない」


「ひっいいい・・・・」

 突如短い悲鳴が聞こえて、振り返った先でサトリが固まっていた。恐怖に怯えるその視線の先は彼女の足であり、そこに何かがへばりついていた。


「うわっ、なんだそれ!」

 手のひらほどの大きさがある虫が六本の足を器用に使ってサトリの足に絡みついている頭と思しきところはほとんど目で構成されていて、口にある長い触手のようなものがウネウネと彼女の足をさすっている。男であるユウキですらゾッとするのだ。サトリが声にならない声を出して青ざめるのもうなずける。


「ちょっと待ってろ、今とってやる」

 腰に差したナイフを、カイの体に染み付いた洗練された動作で抜いた。


「おい待て、強引にすると噛まれるぞ」

 ベンはそう言ってユウキを制する。


「鉱夫アリだな。動きはのろいが毒がある。死ぬほどじゃないが、噛まれると火傷した様に痛むんだ。それに下手に殺すと、死に際に警戒フェロモンを撒き散らすから仲間が続々集まってきちまう厄介なやつさ」


「アリはアリでもシロアリだな・・・。でも、どうするんだよ」

 ユウキの疑問にベンは行動で答えた。


 持っていたランプをサトリの足にへばりつく虫の頭へと向けた。すると鉱夫アリは光を嫌うようにおずおずとサトリの足から後退しだし、ついには暗闇に逃げるように飛び降りた。


「眼がよすぎるんだ。洞窟でも光を集められるように特化したあのでかい眼にはランプの光は眩しすぎる」

 リュックから皮の水筒を取り出すとサトリに投げた。


「念の為に洗っとけ、唾液に毒があるんだ。その唾液で硬いロタサンゴを溶かしてボロボロにしてから食うんだ。ロタサンゴの鉱脈に沿って穴を開けながら進むから、よく鉢合わせちまう鉱夫からはダッカのごとく嫌われてるよ。普通は群で行動するんだけどな。あれの群と鉢合わせたらもうそりゃ阿鼻叫喚よ。まあ、あんまり攻撃的な性格じゃないから下手に刺激しなければ噛まれることはないけどな」


「あんな不気味なの、鉱夫じゃなくても嫌いますよ」

 よほど怖かったのか、サトリはヘナヘナと地面に腰を下ろしながらベンのよこした水筒に手を伸ばした。


「そう言うなよ。あいつらも気持ち悪いだけじゃないんだぜ。ロタサンゴが好物ってことは側にはロタサンゴの鉱脈があるって証拠だし、あいつらの群れが通った後は人も通れるほどの抜け穴になる。そうやって掘られた穴が人知れず地中深くに眠ってる空間を既存の道と繋げたりするんだ。お前たちもさっき通ってきただろ?」


「え?あれって人工的な穴じゃなかったんですか?」


「途中からな。大方昔の鉱夫も、今と同じように鉱夫アリの群とぶつかって阿鼻叫喚したんだろうよ」

 ベンはカラカラと笑った。


「昔の人もロタサンゴをとっていたんでしょうか?」


「ロタサンゴ()とっていたが正解だろうな。ロタサンゴの鉱床って言うのはどちらかと言うとトンネルのある深さから横に横に伸びてんだ。でも、二層に住んでいた古代人たちはどちらかといえば縦に縦に穴をほっている」


「何をほっていたんだ?」


「さあな、もしかするとこの遺跡の下には俺たちの知らない何かが埋まっているのかもな」

 ベンはそんな無責任な想像でその場を締めくくった。


******


 古居住区での発掘はベン曰く上々の出来だったようだ。帰途につくユウキたちのバックパックはそれぞれ半分ほど埋まっていた。


「でもさ、もっと色々詰め込んでくればよかったんじゃないか」

 まだものが詰め込めるスペースのあるバックパックをユウキは不満げに揺する。


「帰りを考えろよ。荷物担いで狭い道を抜けなきゃなんないんだぜ。だから、大手もあの場所であまり発掘しないんだ。どの道も狭くてこうやって人力でコツコツ運ぶしかないからな。人と機材をかけられるとこほどああ言う場所は割に合わない。まあその分俺たちみたいな弱小チームにもチャンスがあるんだがな」


「そうですね。私たち弱小()()()ですし」

 サトリはチームを強調しながら嬉しそうに頷いく。


「まあまあ、そう悲観するなよ。発掘品は量より質だ。今日の収穫は悪くないぜ。ペーペーなのにこれだけ持って帰れるんだ、お前たちには『眠り子の加護』があるかもな」


「なんだそれ」


「幸運な奴ってことさ。トーヴァではそう言う」


「『幸運』ね」


「不満そうだな」


「運に頼るのは好きじゃない」

 実際、今日の収穫はほとんどベンのおかげな様なものだ。何を持って帰っていいかわからないユウキたちは逐一ベンに話を聴きながら、発掘品を選別してバックに詰めていた。


「わかってねえな。最後の最後、結局一番大事なもんは幸運よ」

 ベンはそう言いながら不満げなユウキの頭をくしゃくしゃと撫で回した。


******


「出口だ」

 歩き続けた3人の目の前に光が広がって、ユウキとサトリは歓喜をあげる。2人とももうヘトヘトだ。ベンの言う通り、バックパックの中身を最小限にしておいてよかった。


「へろへろじゃねえか?それじゃあ先が思いやられるな」

 洞窟と町とを区切るゲートをくぐりながらベンはニヤニヤと笑う。


「確かに、結構歩きましたけど、こんなに疲れるとは思わなかったです。行きがけよりも何倍もきつかったです。初めてのこと続きで気を張ってたんですかね」

 ユウキもそれは感じていた。確かに帰りはトロッコに乗れなかったとはいえ、体の感じる疲労は行きがけと比べ物にならないものがある。


「それはそれは、ご苦労、ご苦労。で、まだ体はなんともないか」

 ユウキとサトリの様子を楽しむ様にベンは視線を向ける。


「まあ、疲れはしたけどこのぐらいなんともないな。なんならあしたは三層に潜ったっていいぜ」

 ベンの態度に少し腹が立って強がりを言う。だが、疲労は確かに尋常ではない。いや、これは本当に疲労だけだろうか、ついにはめまいまで感じだ。


「三層ね。その様子じゃいきなり、三層は無謀だと思うぜ。・・・おっと、そろそろかな」

 ベンの言葉に合わせる様にサトリが膝をつく。


「おい、大丈夫k・・・」

 助け起こそうと駆け寄るユウキにも強烈な吐き気が襲う。目が回る。立っていられない。思わず膝をついた。さらに胃袋の中をかき混ぜられる様な感覚が襲い、腹の中にあったものが逆流して口から飛び出てきた。ゲーゲーと吐くユウキの隣でサトリもまたもどしている。ベンはと言うとそんな2人を相変わらずのにやけ顔で見つめている。


「・・・な、なん・・・」

 状況を飲み込めない2人をベンは豪快に笑い飛ばす。


「はははは、悪い悪い。話すの忘れてた。そいつは洞窟からの洗礼って奴だ。『洞窟酔い』って言ってな。慣れてないやつが奥までヅカヅカ入っていて帰ってくるとそうなる。『洞窟の呪い』と言う奴もいるさ、奥に行けばいくほど強くなって、もう『酔い』とは言っていられないレベルになるからな」

 絶対わざと言わなかっただろと言う言葉をユウキは絞り出す余裕もなかった。


「一気に深層まで行けない理由がわかっただろ?そいつには少しずつ体を鳴らして行くしかない」

 そう言いながらベンはユウキからバックパックを下ろすと背中を優しくさする。それから道の端まで2人を誘導するとそこに横にした。


「少しは楽になってきたか?まあ、30分ぐらいで動ける様にはなるから、しばらくそこでじっとしときな。今日のところは俺が換金しといてやるから。治ってきたらさっさと宿に戻って休むといい」

 2人の分のバックパックも担ぎなら言う。


「ひ、・・・独り占めすんなよ」

 ユウキはなんとか言葉をひねり出した。


「ははは、しないしない。取り分は、明日きちんと渡してやるよ」


「え? 明日」

 その言葉に反応したのはサトリだ。


「なんだ、たった一日で懲りたのか?」

 ベンはサトリがなにに反応したのか気付かずにからかった。


「おい、忘れるな。また、()()だぞ」

 ユウキが念を押す様に『明日』と言う。


「・・・ああ、そうだな」

『明日』はベンにとっても思いがけずこぼれた言葉だったのだろうか。2人が何を言わんとしたか流石のベンも気づいた。


「また、()()。ここで待ち合わせだ」

 ベンはもう一度今度は自覚してその言葉を発する。


 ユウキとサトリは目を合わせニヤリと笑う。気分は最悪だが、気持ちは最高に晴れていた。


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