07 ブラン
チョロイン(チョロいヒロイン)っていいですよね。
白髪の少女から話を聞こうと思ていたが、やめておいた方が良さそうだ。
干し肉を沢山食べてお腹がいっぱいになったのせいか、疲労がたまっていたせいなのか、どうやら眠くなったらしく俺が話かけてもユラユラと前後に頭が揺れて返事も曖昧な言葉になっている。
「疲れているようだし、話はひと眠りしておきてからにしようか。」
「えっと、その、だ、大丈夫。ま、まだ眠くない。」
俺に対して気を使っているのか、欠伸をこらえながらそう答える。
(うーん。どうしたものか。)
本音を言うと色々聞きたいのだが、今すぐでなければならないかというとそうでもない。
明日話してくれるならそれで良いとも思っている。
「実はさ俺も眠いから、もうすぐ寝ようかと思ってたんだ。だから今日は寝て話は明日にしないか?」
「あ、う、うん。」
「じゃあ、先に寝てていいぞ。少し片づけてたら俺も寝るから。」
「その、じゃあ、おやすみなさい。」
そういうと少女は横になった。
少し遠慮がちにしていたがやっぱり眠かったらしく暫くすると少女からは静かな寝息が聞こえてきた。
少女が寝静まったのを確認してから俺も少し眠ることにした。
~~翌朝~~
いつもより少し早めに目が覚める。
近くで寝ている少女に目を向けるとまだ眠っているようだ。
こっそり寝顔を見ているがうなされている様子や、苦しそうな様子もない。
「起きるまで待つか。」
リュックから果物を1つ取り出し朝食代わりに食べながら、寝るときに寄りかかってた木に腰かけすっかり火が消えた焚火に目をやる。
「一応、火でもつけとくか。寒いかもしれないしな。」
昨日は少し体温が高かったような気もするので、熱があるかもしれないので、少しでも体が暖かくなるように焚火の準備をする。
いつものように煙草に火を点け、ふぅーと煙を吐く。
その時だった。
少女が何かに驚いたようにビクッと跳ね起きる。
「よう、おはよう。どうしたんだ、飛び起きたりして。」
「えっと、なんか変な臭いがする。良くない臭い。」
「変な臭い?もしかして、コレか?」
「あ、それ!それから変な臭いがする。見たことないし知らない臭いだけど、よくない臭い。体に悪そうな臭い。」
「まー、確かに体に悪いけど。ゴメンな直ぐ消すから。見たことないって、もしかして煙草を知らないのか?」
「タバコ?知らない。初めて見た。」
少女が不思議そうな顔で答える。
「そうか。初めて見たか。まーそれは良いとして、どこか痛いところとか体調が悪いところはないか?」
「うーん...。ない。」
少女は自分の体を動かしたり触ったりして何ともないのを確かめてから答えた。
どうやら服はボロボロで汚れているが、怪我はしていないようだ。
体温が高いとも感じたが、元々高いのかもしれない。
ちなみに俺の平熱は低く35.7℃だ。
なので風邪をひいたときに37.5℃でも結構つらいのだが、上司に『37℃台なら風邪じゃない。38℃を超えてからが風邪だ。』と言われ病院に行くための休暇ももらえなかったことがあった。
日本人の平熱は大体36.6℃くらいらしいので、1℃上がった程度では熱とは言わないそうだ。
俺からすると平熱から2℃も上がってるんだけどな。
少女も起きたことだし早速話を聞こうかと思った時、少女のお腹から「ク~」と可愛らしい音が聞こえた。
「干し肉でも食うか?果物もあるけどどっちがいい?」
「う~、肉がいい。」
俺が笑いながら干し肉と果物を差し出すと、恥ずかしそうに唸って干し肉を食べ始めた。
干し肉と果物と水しかない朝食が終える。
「さて、お前のことを教えてほしいだけどいいか?」
少女は一瞬戸惑いの表情をみせるが、黙ってコクンと頷く。
「そーだな、何から聞こうか。」
少女はいったい何を聞かれるんだろうと身構えている。
「まずは自己紹介だな。俺はセーヤ、24歳。結婚もしてないし彼女もいない一人ぼっち。今は道に迷って軽く遭難しかかってる所で昨日お前に会った。」
「え!?」
「ほら、『え!?』じゃなくて今度はお前の番だぞ。」
「あ、うん。私はブラン。年は10歳。私も結婚もしてないし彼女もいない一人ぼっち。行く当てがなくて歩いていたら昨日あなたに会った。」
ブランと名乗った少女は俺の自己紹介を真似て答える。
「そっか、安心したよ。」
「何に安心したの?」
「だって、10歳の女の子に彼女がいるとか結婚してるとか言われたら驚くだろ?」
「あ、フフフ、そうだね。」
ブランは俺を真似た自己紹介が変だったことに気づいて僅かに微笑む。
「あと、俺のことはセーヤ呼んでいいぞ。」
「うん、わかった。じゃあ私のこともブランって呼んでね。」
おびえた様子や警戒されているような態度が昨日よりはいくらかマシになったように感じた。
「じゃあ次の質問。ブランは、そのー、頭に耳があるけど、それって本物?」
「うん本物だよ。もしかしてセーヤは『犬人族』を見るのは初めて?」
「えっとー、ゴメン。『イヌジンゾク』ってなに?初めて聞く言葉なんだけど。」
「『獣人族』とかっていったら分かるかな?『犬人族』とか『猫人族』とか皆まとめて『獣人族』って呼ぶ人族もいるよね。」
『獣人族』もちろん聞いたことはある。
ということは、『イヌジンゾク』は『犬人族』のことだろう。
でもそれは現実にいる種族じゃない、ゲームやアニメなどの空想上での種族だ。
「それとも、セーヤは私たちを『亜人』って呼ぶような場所から来たのかな?」
俺がなかなか返事をしないのをみて、悲しそうにブランが付け加える。
どうやら『獣人族』は一部の者たちから『亜人』と呼ばれて差別か迫害のようなものを受けているんだろう。
昔読んだ小説に亜人と呼ばれ差別を受けているように書かれていたものがあった気がする。
「いや、そうじゃないよ。ただ人族以外を初めて見たからちょっと驚いちゃっただけさ。俺が住んでいた場所はここからすごく遠い場所だったからさ。」
「あ、ゴメンなさい。セーヤが私に酷いことするような人なんて思ってないよ。もしそうなら、優しくしないよね?それに、その、私のこと、その...か、かわ、可愛い...って言ってくれたもん。」
顔を赤くしてモジモジしながら、段々と小さくなる声でブランは言った。
最近のアニメの難聴系・鈍感係主人公であればブランの反応を見逃したり聞き漏らしたりするのだろうが、生憎と俺はただの一般人だ。
ブランが言った言葉は大体聞き取れたし、その表情と仕草で少なからず好意的な態度であることがうかがえた。
(この子ちょっとチョロ過ぎなんじゃありませんか!?こんなんじゃ将来へんな男に騙されちゃいますよ、お嬢さん。)
断じて言っておくが、ブランに可愛いといったのは口説くためでも何でもない。
ただ本当にそう思ったからそう言ったまでのことだ。
例えるなら、赤ん坊や小動物をみて可愛いと思うが別に結婚したいとは思わないだろう?そんな感じの感情の可愛いだ。
可愛いものは可愛いが、可愛い=好きではないのである。
否定しようと思って口を開くが、ブランがとっても嬉しそうな表情でモジモジしてる。
何か良いことでも妄想しているのであろうか時々顔の赤みが増して「キャッ」と小さくさけんでいる。
(まぁ、嬉しそうだしこのままでもいいか。変に否定して不機嫌になられたら嫌だしな。)
開いた口を閉じ、頭の中でそんなことを考えながらブランを眺めていると、そのことに気が付いたのか焦って話を振ってくる。
妄想している姿を見られて恥ずかしかったのかもしれない。
「そういえば、セーヤはこれからどこに行って何をするの?」
「数日前に手に入れた地図を見ながら何となく進んで来たんだ。ん!?どうしたんだいきなり?」
地図を見せようと手招きすると、俺の膝の上にちょこんと座ってきたため、一瞬変な声が出てしまう。
「え?だって、おいでって手でしたでしょ?」
何を言ってるの?という顔をして当然のように座り続け、俺が話を続けるのを待っている。
「はぁ~。まーいいけどさ。それで、今はホラここ。コレは街だと思うからここにつくことが目的かな。その後のことはついてから考えるつもり。」
「ふーん。そっかぁ。」
「なぁ、ブランはどうなんだ。行く当てがないって言ってたけど、これからどこに行って何をするつもりだった?」
「うーん、わかんない。どうすればいいんだろう。」
「親とか兄弟、知り合いはいないのか?」
「もう、いない。」
「『もういない』か...。もし話してくれるなら、どういう理由で一人になったか教えて貰えるか?それと、その首についてる首輪は何んなのかも。」
ブランから余り話たくないような雰囲気が漂ってくる。
「話したくないならいいぞ、無理に聞き出そうともしないから。」
「ううん、話す。」
ブランは深呼吸をし、暗く悲しげな表情で話し始めた。
ブランは犬人族の小さな村で暮らしていたそうだ。
家族は父親、母親、ブラン、弟の4人。
村には同じ年頃の子供が数人いたが、仲の良い友達が3人おりいつも一緒に遊んでいたそうだ。
村での暮らしはとても裕福なものではなかったようだが、幸せだったことがブランの話しぶりからうかがえた。
いつもと変わらない天気のいい日、村に豪華な馬車とそれを警護するように武器を持った者たちの一団が訪れた。
なにか事情があったようで、その集団は一晩この村で休ませろと言ってきたようだ。
その集団からはあまり良い感じの雰囲気を感じなく、村の住民からは反対の声が上がった。
中には『亜人なんだから俺らに奉仕するのは当然だ』とか『亜人風情が俺たちに意見をするなんて』という声も聞こえたが、村長が困ったときはお互い様だと言って皆を説得した。
村長はその人柄と経験豊富な知識で村の住民にも慕われていたので、結局は村長が大丈夫と言うなら問題ないだろうと渋々認めていた。
しかしその夜、事件が起きた。
その集団が村を襲いだしたのだ。
男は殺し、女子供は奴隷にするために捕らえられた。
ブランも捕まってしまい、今つけている首輪は奴隷の証として付けられたのだという。
犬人族をはじめ、獣人族は人族に比べ身体能力が高いらしい。
だが身体能力が高ければ必ず戦に勝つとは限らない。
日々護衛として戦いの訓練も重ねているであろう人族に、獣人族といえども戦闘系経験などないに等しい村の住民は全くと言っていいほど歯が立たなかった。
もちろん村の中には戦える者もいたのだが、女子供を人質にされ抵抗もできず殺されてしまった。
数十分で人族の残虐な行為が終わった。
ブランたち捕らえられた者たちを引き連れ、人族の集団が街に戻ろうとしているとき魔物に襲われたそうだ。
だが人族は最初から戦いもせずに、一部の犬人族を劣りにして逃げていった。
その劣りにされた犬人族の中にブランとブランの母親もいた。
犬人族が襲われていく中、ブランの母親はブランを魔物から庇い逃がしてくれたのだ。
それからは木の実を食べながら数日当てもなく彷徨っていたらしい。
「それで昨日、セーヤに会ったの。」
「そうだったんだ...。話してくれてありがとう。」
寂しそうに小さく頷く。
俺の膝の上に座るブランを優しく抱きしめる。
「あ...。」
「嫌か?」
「ううん。」
「そっか。」
短い言葉のやり取りだが、ブランの暗く寂しげな表情が少しだけ和らいだ気がした。
(『犬人族』か。それにブランが今『魔物』とか言っていた。前に戦ったあの生き物あいつらが『魔物』なのだろうか。)
「なぁブラン。この地図の文字って読めるか?日本語じゃなくて俺にはわかんないんだ。」
「ううん、文字の読み書きは出来ないんだ。それとニホンゴ?っていうのは分かんない。」
「え!?じゃあブランが話している言葉はなんていう言葉なの?」
「変なことを聞くんだね。セーヤも話してるでしょ?中央大陸語だよ。」
「チュウオウタイリクゴ?」
「うん、中央大陸語。犬人族、猫人族、あ、まとめて獣人族っていうね。獣人族、人族、魔族、妖精族、この世界に住んでるほとんどの人が使う言葉だよね。さっきの地図の文字も多分だけど中央大陸語で書いてあるはずだよ。」
そんな言葉話聞いたことがない。
それに聞いたことない種族、いや、正確には空想の世界にしかいない種族がさも当たり前にいるかのようにブランは話している。
もちろん嘘を言っているようには見えない。
「はぁ~。ホントどこだよここ。」
書いてるうちにどこで今回を終わらせようか分からなくなってきました。
区切りが悪いかもしれません。