06 白い少女
初めて人間に出会います。
旅立ってから既に4日が経過し、5日目も日がもうすぐ暮れてくる時間になりそうだ。
俺は本当に道路か河があるのか疑い出していた。
良くも悪くもこの5日間は何もなかったかのだ。
何かに襲われることもなければ、何かを見つけることもなく、日があるうちは歩き暗くなったら眠るの繰り返しだった。
そもそも白黒の絵みたいな地図を見て勝手に俺が道路か河があると思っただけに過ぎないし、方向も全く違う方向に進んでいる可能性もある。
「はぁ~。進む方向間違ったか~。かといって引き返すわけにはいかないよな。」
弱気な気持ちがドンドン大きくなる。
1週間は持つと思っていた食料も減ってきたので1日に食べる量も最初より減らさないといけないかもしれない。
ペットボトルに入れていた水もなくなりそうだ。
果物でも一応水分は取れるといっても今日中に水だけでもなんとかしないとマズそうだ。
「休憩しつつ歩いてるけど、さすがに同じような景色を見ながら何日も歩き続けるのはキツイな。」
森と草原の境目を歩いているので、周囲の景色も代り映えがない。
そう考えると、この森と草原はかなり広大なのではないだろうか。
森の中に入らなくて正解だったかもしれない。
下手に森に入ったら遭難していたかもしれない。
「いや、今も遭難してるといえば遭難してるよな。」
そんなことを呟きながら歩いていると、街道のようなものが見えてきた。
アスファルトの道路ではないが、明らかに人工的なものであることには間違いない。
「お、お、お!道!道!道だよ道!はぁ~。やっと見つけた。この地図のここの道でいいんだよな?あってるよな?じゃあ後は北に進めば街につくかもな。」
街道は本当に簡易的なものだったが、久しぶりに見る人工的なものと目的物を見つけた感動で気持ちが昂る。
「あー、でも、水が残り少ないから河のほうがありがたかったかもな。」
そう言いながらも、俺は嬉しさでニヤツキが止まらない。
改めて地図を確認し、出発した地点から現在地だと思われる場所までの距離を目算で測る。
縮尺がちゃんとしているならば、街まで残り何日で着くかわかるはずだからだ。
「あと、2~3日ってとこかな?食料はぎりぎりだな。問題は水だよ。近くに水が汲めそうな場所はないし。雨でも降ってくれないかな。」
空を見上げると、赤く染まった夕焼け空には雲一つない。
「無いものはないし、この道を誰かが通るのを期待するしかないか...。それに地図には描いてないけど何処かで水が汲める場所はあるかもしれない。」
「まぁ水を全く飲まなかったら3日ももたないっていうけど、果物もあるし何とかなるだろう。というか何とか頑張れよ俺の体よ。」
食料や飲み水には若干不安があるが、調達するすべがない以上はどうすることもできない。
街につくまでの辛抱だと思い頑張るしかない。
「もう日も暮れそうだし、今日はここまでにするか。」
この何日かは寝る前に小枝を集めて焚火をすることにしていた。
気温はそこまで低くはないのだが、屋根も壁もない場所なのでやはり夜は冷える。
最初は歩き疲れていたので直ぐ眠りについたのだが、数日続けて慣れてしまった今ではそうはいかない。
こんなに早く体が慣れるのかと疑問にも思ったが、元々柔道をやっていたので俺が思ってた以上に体力はあったのかもしれない。
普段は日付が変わるまでは起きていたのに、急に太陽が沈んだからすぐ寝るなんてことは出来ず暇を持て余していたため、暖をとるためと獣除けのために焚火をすることにしたのだ。
ライターで煙草をに火をつけ吸って一服するついでに、あらかじめ集めておいた燃えやすそうな葉や草に灰や吸い殻を落とし火をつける。小枝も加えながら段々と大きな炎になっていくように調整するのだ。
煙草のポイ捨てでが原因で火事になることもあると聞いたこともあるので、何回か試してみたら意外とうまくいったのだ。
小枝と一緒に探してきた、少し太めの木にもたれかかりながら果物と干し肉を食べる。
特に何を考えるでもなく、時折、焚火に小枝を加えつつボーっとしていた。
その時近くの森の茂みで何かが動くのが目に入った。
(まさかあの生き物か!?)
剣は鞘に入れたままで、大楯を目の前で構える。
(どうする、火を消して逃げるべきか?それともこのままじっとしてるべきだろうか?)
(1~2体なら頑張れば何とかなるかもしれないが、もっと大勢の群れだったらヤバい。)
前に戦ったことを思い出し、大楯を握る手に力が籠る。
しかし、茂みで動いたものはそこから動く気配はない。
向こうもこちらの様子を窺っているようだ。
(こないなら、俺の方からいくか?いや、戦いなんて慣れてないんだからやめた方がいい。この前はたまたま上手くいったが、今回も大丈夫とは限らないし。)
気配がする方から目をそらさずに、何があっても対処できるように、または即座に逃げることも考えいた時、茂みいる何かが動いた。
ドサッ
何が起こったかわからないが、倒れたようだ。
しばらく様子を見てみるが動く気配はない。
当たりを見るが他に何かがいるような気配もない。
もっとも、周囲の気配を敏感に察知することなんかできないので、何となくそんな気がするレベルなのだが。
(怪我でもして群れから逸れた野生動物だったのか?)
恐る恐る様子を見に茂みに近づく。
何かが倒れたであろう場所の目の前まで行くが動く様子はない。
意を決して招待を確かめるために茂みを除く。
「子供?」
そこには頭の上からフードを被った小学生くらいの背丈の子供が倒れていた。
服はボロボロでひどく汚れている。
「た、大変だ!きゅ、救急車!って圏外で使えないんだって!」
ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけようとして思い出す。
「あー、どうしよう。ひとまず焚火のそばまで運ぶか。寒いよりは温かい方がいいよな。」
焚火のそばまで運ぶために子供を抱きかかえる。
とても軽い。子供だからとかではなく、満足に食べ物を食べていないため何だろうという事が分かる。
抱きかかえるときにフードが頭から脱げ、その子供の顔が見えた。
その姿に俺は驚いた。
子供は白い髪の少女だった。
若干痩せこけてはいるが可愛らしい顔立ちをしている。
どこの国の人なのかはわからないが、日本人、少なくともアジア系の顔立ちではない。
だが、俺が驚いたのはそこではない。
いや、そこにも驚いたが注目すべき点はそこではないのだ。
「犬耳に首輪?」
その白髪の少女には頭の上に犬のような耳があり、首には無骨な首輪がしてあったのだ。
「いや、驚いてる場合じゃない!焚火のそばまで行こう。」
焚火のそばまで少女を抱きかかえ移動する。
さっきまで俺がもたれかかってた木の近くに寝かせる。
布団かベットで寝かせた方がいいのかもしれないがそんなものはない。
キャリーバックから俺の服を取り出し、いくつかを丸めて枕のようなものを作る。
地面にも服をいくつか置き、少女をその上にのせ、丸めた服のうえに頭をのせる。
体の上にも何枚か残った服をかける。
あまり変わらないかもしれないが、何もないよりはマシかもしれない。
「怪我はしてないかな?」
さすがに寝ている少女を裸に引ん剝くわけにはいかないので服の上から状態を見る。
出血しているような怪我はしていないようだがハッキリは分からない。
「せめて汚れている顔だけでも拭いて、濡れたタオル...はないからハンカチでも額においてあげよう。」
少し体温が高い気がするので、ペットボトルでハンカチを濡らし顔を拭いてから額に濡れたハンカチをを置く。
汚れた状態でも分かったが、やはり痩せこけてはいるが可愛らしい顔立ちをしている。
将来は美人な女性になりそうだな。
「って俺は何を考えてるんだよ。様子がおかしいけど初めて人に会えて、変なテンションになってるのか。」
~~数時間後~~
「それにしても、何だってこんな所に子供が一人でいるんだ。もしかして近くに人がいる場所があるのかな。」
焚火に枝を加えつつそんなことを考えていると少女が目を覚ました。
「お、目を覚ましたか。大丈夫か?気分が悪いとか、何処か痛いところとかあるか?」
少女は状況が分かっていないらしく、困惑した表情をしている。
辺りをキョロキョロと見まわしたかと思えば、俺をじっと見つめ、またキョロキョロとしている。
困惑した表情がおびえたような表情に変わる。
(そりゃぁ起きたら知らないおっさんがいたら怖いよな。)
どうするべきか考えつつ黙ってその様子をみていると、少女は頭のフードがなくなっていることに気づいたようだ。ひどく慌てている。
「あ、ゴメンな。探してるのはコレだろ?脱がすつもりはなかったんだけど運んでいるときに脱げちゃってさ。」
そういって少女にフードを差し出す。
少女は俺をじっと見つめ、恐る恐るフードを受け取る。
「あ、腹減ってるだろ。コレかコレ食うか。」
果物と干し肉を少女に差し出す。
少女は先ほどのように俺をじっと見つめるが、受け取ろうとはしない。
「大丈夫だって変なものじゃないぞ。ほら、俺も食べてるものだし。な?」
少女に差し出した干し肉を一つ取って食べる。
少女は俺のその様子もじっと見ていたが、しばらくすると恐る恐る果物と干し肉を受け取った。
だが、少女は食べるようとはしない。
ほんとに食べてもいいのか遠慮しているような感じがする。
「遠慮なんかすんな。食っていいからお前にやったんだぞ。」
少女はまた俺をじっと見つめ、しばらくすると干し肉に口をつけた。
意外とおいしかったのか、少女の顔に少し笑顔が浮かんだ。
「可愛い笑顔だな。」
ボソッと言った俺の言葉が聞こえたのか少女の顔が若干赤くなる。
「あ、ってかお前さ俺の言ってる言葉わかるのか?」
少女は干し肉を美味しそうに頬張りながらコクコクと頷く。
「なんだ、外国かと思ったけど日本語が通じてよかった。おい、あんまり頬張りすぎるとのどに詰まるぞ。水もあるから落ち着いて食えよ。」
こんな幼い少女でも日本語がわかるんだから、街についても言葉が通じないことはないだろうと、少女に水を差し出しながら一安心する。
実はよく分からない文字が使われているようだったので、街についても言葉が通じなかったらどうしようかと思っていたのだ。
「もっと欲しかったら言えよ。そんなに沢山はないけど、まだあるからな。」
どうやら少女は果物よりも干し肉のほうが気にったようで、果物には手を付けていないが最初に渡した干し肉は食べきってしまった。
追加の干し肉を取り出し少女に手渡す。
「...あ、あり、ありがとぉ...。」
消え入りそうな小声でお礼を言いながら少女は干し肉を受け取った。
「おう、気にすんな。お前、顔も可愛いけど綺麗な声してんのな。」
少女はまた赤くなり、黙って干し肉を食べだしてしまった。
俺には年の離れた弟と妹がいるので、その友達も含めて子供の面倒もよく見ていた。
そのせいか、子供に対しては思ったことを素直に言うことにしている。
小さい子どもなんかは特に思ったことを何でも言ってくるので、俺もそうした方が親しみやすいかもと思っているからである。
(しかし、この少女はいったい何者なんだろうか。言葉は通じるようだが、頭にある犬耳といい、首輪といい。それにこんな夜になんでボロボロの姿でこんな場所に一人でいるんだ?)
色々と聞きたいこともあったが、今はこの白髪の少女が満足すまで、美味しそうに干し肉を頬張る姿を眺めさせてもらうことにしよう。
6話にして初めて主人公以外の人間の登場です。
満を持して登場したは、謎の犬耳ロリっ娘です。
ヒロインの一人とする予定ですが、主人公は断じてロリコンではありません。
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