03 知らない生き物
初めて自分以外の生き物に遭遇します。
この作業場に来てから数日がたった。
その間は本当に何もなかった。
生き物は人どころか野良犬や野良猫の1匹もいなく、天候が荒れることもなく穏やかな天候だった。
この作業場の中にある小屋を全て調べてみたが、どの小屋も最初に入った小屋のように誰かが生活していただろう痕跡があった。
また、廃材置き場だと思っていた煙が出ていた場所は小屋が崩れたものだった。
この数日で誰も戻ってこなかったところを見ると、この場所は捨てられた場所なのかもしれない。
どうせ捨てられた場所ならここにあるものを使ってやろうと思い、小屋の中を物色して使えそうな物や気になった物を一か所に運び出した。
「よし、こんなものか。」
小屋の中で一番なかが広そうな場所の入り口付近に運び出したものを整理し一息つく。
<運び出したもの>
見たことのない果物や野菜と干した動物の肉と魚
比較的に新しそうで使えそうな調理道具一式
※包丁3本、鍋1つ、フライパン1つ、ナイフ2本
ランタンのような照明器具
※火をつける道具や明かりをつける蝋燭なんかはなかったが
鉄や銅製の100円玉くらいの大きさの物が入った袋
※袋はいくつか見つかって中身を合わせると、鉄製の物が30枚、銅製物が60枚あった。
アニメやゲームでよく見るような剣や盾
※片手で持てる剣が4本、両手じゃないと持てない大きな剣が2本、小さい盾が3つ、大きな盾が1つ
原始的な弓と矢
※弓が5つ、矢が80本
周囲の地図らしいもの 1つ
見たこともない文字が書かれた本 1冊
「食べ物や調理道具はわかるけど剣とか弓矢は何に使うんだよ。映画のセット...だったら食べれる物を置いとく必要ないよな。あと、この本どこの国の文字だよ。英語とかじゃないし...さっぱり分からねえ。」
この小屋の集まりはもしかたら小さな村のような集落だったのかもしれないと今では思い始めていた。
本の文字から察するに、ここは外国で、なにかの被害に遭って小屋(家)が潰れ、このまま住み続けるのは危険と判断し、住民が全員非難したのかもしれない。
ここが外国だったら移動時間的におかしいだろうとも思ったが、剣や弓矢、盾なんかを持っているのは 日本じゃ考えられないし、スマートフォンが壊れたか時差のせいかもと考えるとおかしくないのかもしれないとも思った。
そう考えると日本じゃ考えられないような文明レベルの作りの家や内装も辻褄が合うような気がした。
整理したものを見ながらそんなことを考えていると、この場所に来てから何度か目になる夕暮れが訪れた。
「もう少し調べて何もなかったら、この場所を離れて人がいる場所でも探すか。幸いなことに食料は手に入ったから何日かはこの分で乗り越えられるだろう。」
食べ物を見つけた当初はホントに食べれるか恐る恐るだったが、現在の体調からもわかるように問題なさそうである。
干し肉なんかはしょっぱいビーフジャーキーのようで酒によく合いそうだった。
飲み水ついても近くに井戸のようなものがあったため、そこから手に入れることもできた。
空になったペットボトルに水を入れておけば持ち運びも大丈夫だと思う。
「ん~。今日はもう疲れた。ひと眠りしてあとは明日にするか。」
運び出して整理したものの中で何を持っていくか考えまとめていた手を止め、軽く伸びをする。
当たりはすっかり暗くなってきていた。
簡易的なベットのようなものに寝転び目をつぶり眠りにつこうとウトウトしていたとき、小屋の前で何かが動く気配を感じた。
(もしかして、ここに住んでた人が様子を見に戻ってきたのか?それにしては、日数的にも時間的にも遅くないか?もっと早くそれも日の高いうちに見に来ないだろうか。)
窓から音をたてないようにゆっくり様子を見てみる。
(ここからじゃ見えないな、いっそドアを開けて外に出てみるか?でも今まで見なかっただけで、腹をすかせた動物かもしれないよな。野犬とかだったら何とかなるかもしれないけど、熊とかだったら殺されるよな。)
テレビでみたことのある、腹をすかせた熊が街中に降りてきたというニュースがふと頭をよぎったので、そのままの態勢で引き続き窓から様子を見続けることにした。
様子を窺うこと数分。
先ほどの動いた気配らしきものが近づいてきた。
(子供...か?背が小さいな。でも何だろう、あの手に持っているものは。)
だんだんと近づくその小さい影は手に長く太い木の棒のようなものを持っている。
(木の棒ってか、棍棒っていうのか?)
ゲームなんかの序盤のモンスターが持っているような棍棒を持った小さい生き物はどうやら複数いるようだ。
こちらには気づいていないようで、その影はこちらにどんどん近づいてくる。
さっきよりはっきり見えるその風貌は人間の子供とはまるで違う風貌をしている。
髪はなく、耳は長く先が尖り、裂けた口から見える歯はボロボロだが牙のようなものもあり、背丈にあわず手足は大きいようだ。
腰に布のようなものを巻いているものや、ボロボロの服を着ているものもいる。
(なんだあの生き物は!?二足歩行で手に物を持っているが、猿でも人間でもねー!)
複数いたその生き物のうち何体かが、俺がいる近くの小屋に入っていった。
その小屋は俺が使えなさそうだと思ったものや腐りかけた食べ物を置いていた小屋だった。
ガザガザと小屋をあさっている音が聞こえてくる。
小屋に入っていた1体が「グギャギャギャー」と叫ぶ。
どうやら仲間を呼んだらしく、外にいた何体かが小屋に入っていく。
そのすぐ後、小屋の物を両手いっぱいに持ったその生き物たちが出てきた。
そのまま何処かへ消えて行ってしまったが、多分他の仲間の元に持って行ったのであろう。
(い、いなくなったよな?あいつらがこの小屋に来る前に荷物を急いでまとめて逃げるか、それとも様子を見に行くべきだろうか。)
「グギャー!!!!、ギャーギャー!ググググガー!!」
どうするべきか悩んでいると、さっきの生き物が発したであろう凄まじい叫び声が聞こえてきた。
気になった俺は大きめの盾を持ち、その叫び声が聞こえるほうを見に行くことに決めた。
なぜ剣ではなく盾にしたかといわれると、使ったこともない剣なんかより大きい盾のほうが身を守れるであろうと思ったからだ。
音をたてないように静かに近づいてみる。
どうやらその生き物達は比較的広くなった場所に集まっているようだ。
数は全部で10体いるようだ。
だがそのうちの1体は地面を転がりまわり、痛みに悶えているようだ。
さっきの叫び声を上げた奴だろうか。
仲間割れでも起きたのだろうか、9体で1体を囲んで嬲っている。
手には棍棒ではなく、先ほど運び出された剣が握られていた。
俺の素人目でも使えなさそうと判断したものだけあって、剣の刃はボロボロである。
しばらく様子を見続けていた俺はふとあることに気が付いた。
(もしかして試し斬りでもしてるのか?)
単なる仲間割れなら一斉に斬りかかれば決着はすぐにつくだろう。
なにせ9対1なのだから、1のほうが物凄い強者でないならば当然である。
なのにそうならず、9体が代わりがわり斬りかかりあえて殺さないようにしているのは、俺から見れば新しく手にした武器がどの程度の威力なのか、また、今まで使っていた棍棒と比べてどちらの威力が高いのかを確認しているようにしか見えなかった。
なんだかあの生き物は人間でいう仲間意識のようなものがないように感じる。
複数体で群れているのも仲間だからではなく、単に同種の生き物が種の生存のためだけに徒党を組んでいるだけのように思えた。
様子を見ながらそんなことを考えていると、その生き物達が森の方へ去っていくのが見えた。
どうやら試し斬りの餌食にされていた1体が死んで武器の具合の確認は終了となったようだ。
完全に森へいなくなるのを見送ってから、死んだ1体の様子を確認しに行くことにした。
何度も斬られ傷だらけになり血まみれになった体を見ると、この生き物の残虐性が分かるような気がした。
「しっかしこいつはなんて生き物なんだ?こんな生き物なんて見たことも聞いたこともないぞ。こんな奴が9体も近くにいるのか。」
同種の生き物でも遠慮なく殺すような生き物に恐怖を覚える。
「早くこの場を去った方がいいと思うけど、さすがに暗いうちは危険だよな。9体だけとも限らないし、こいつらよりも強そうな生き物がいるかもしれない。夜のうちに荷物の準備をして明るくなったらすぐにここを離れるのが最善だよな。」
俺の荷物がある小屋に急いで戻ることにした。
そう。急いで戻ってしまったのだ。
すぐ後に俺は後悔することになった。
さっき俺自身で9体だけとは限らないと言ったにも限らず周囲を警戒していなかったことにだ。
「グギャギャギャー」「ゲギャッギャッグー」
小屋の陰から奇妙な鳴き声を出しながら、さっきとは別の個体であろう2体の生き物が現れる。
1体は棍棒を掲げて、もう1体は小さいナイフのようなものを振り回しながら走って向かってくる。
「これってマズいよな!?マズいよな!?絶対マズい状況だってば!!」
俺が持っているのは大きな盾のみ。
大きな盾を不格好に構えて精一杯身を守るしかない。
普通なら剣を持っていく場面なのでしょうけれど
刃物なんて包丁くらいしか持ったことのない主人公です。
下手に持ち歩いて自分が怪我することや
何かあってもうまく使える自信がないことを考えると
身を守る手段を大盾と考えるのは妥当なのはでないかと思いました。
※ 行の先頭に1文字空けていなかったのを修正(9/25)