02 作業場
あてもなく歩き続ける主人公。
人のいる場所を求めてたどり着いたのはとある作業場所のようなところ。
「どこだよここ。」
目が覚めた俺の目には見たこともない景色がひろがっていた。
周囲を見渡すが前後左右に広がるのは広大な草原だった。
目印となるような建物や看板、道路なんかもない。
「はぁ~。なんだってこんな場所にいるんだよ。」
ため息をつきながら、足元を見るとそこには俺が旅行に持って行ったキャリーバックとリュックがあった。
1週間の旅行のためそれなりに大きなキャリーバックと飲み物や小物を入れていたリュック。
念のため中身を確認しているが、なくなっているようなものはない。
金目の物やお菓子、服や旅行先で買った物なんかも無事だった。
「持ち物は無事か...。まぁ、周りに人影もないし泥棒もなにもないか。」
そういいながら、ポケットの中にあったスマートフォンを取り出す。
「現在地はー...わからないか。電話も...圏外...だよなぁー、やっぱ。」
地図アプリを使ったり、電話をかけてみるが使えない。
ひとまず気持ちを落ち着かせ、これからどうしようか考えようとしてポケットから煙草とライターを取り出す。
普段は煙草を頻繁に吸う方でもないが、酒を飲んだ時や考え事をするときなどは何となく吸いたくなるものだ。
「ふぅ~。さてどうするか、このまま此処にいてもどうしようもないよな。問題はどの方角に行くかだが...。」
腕に着けた時計を見る限り時間は午前10時を少し過ぎたところ。
太陽の傾き加減で何となくの方角はわかる。
そういえば小学生の頃に定番アニメの歌で『西から東へ日が沈む』という歌の逆だと教わったものだ。
残念なことに最近の小学生にはそのネタは伝わらず、みな頭の上に『?』が浮かんでいるようだったが。
「今の時間とスマホで見た日付から思うに、そんなに遠くには行ってないと思うんだよな。確か最後に時計を見たのは今から30~40分前くらいの時間だった気がするし。」
そういって意識がなくなる前のことを思い出す。
旅行先から帰宅の途中で列車に乗っていたことを、そしてその列車が事故に遭ったことを。
慌てて体を確認するがどこにも異常はない。
痛みはないどころが、よく眠って逆に疲れが取れた状態のようにすっきりしている。
急に知らない場所で目を覚まして動揺していたせいか、痛みや疲れがない状態だったため夢だと思っていたせいなのか、なぜ今までそのことに気づかなかったのだろう。
だが、人のいる場所を探して此処がどこなのかをはっきりさせることが先決だ。
仮に人がいなくても圏外じゃないところに出れば現在地はわかるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら煙草を吸い気持ちを落ち着かせようとする。
「ふぅ~。ってか誰もいないからって独り言を言いすぎだろ俺。」
煙を吐きながら、ボソッとつぶやきつつ改めて周囲を見渡す。
何か行先の手掛かりはと考えていると、旅行先でもらったパンフレットがあったのを思い出す。
キャリーバックを開けてパンフレットを探す。
「確か旅行先の南には海があったような...。お、あったあった。やっぱそうだな、海水浴なんてやらないから実際にはいかなかったけど、南のほうに海があるみたいだ。」
「よし、ひとまず南のほうに行ってみよう。海に出で海岸線上に進めば何とかなるかもしれないし。」
決めたら即行動する俺の性格はこんな時でも変わらないようだ。
よくわからないことだらけだが、海を目指して進むこととした。
~~4時間後~~
時々休憩しながら多分まっすぐ南に進んだ。
幸いなことに持ち物は無事だったため、喉が渇いたときにのむ飲み物や小腹がすいた時に食べるお菓子もあった。
どのくらいかかるかわからないので大事にしているが、食べることや飲むことにはためらいがない。
いつかこんな話を聞いたことがある。
『森や砂漠で遭難した人の何割かは飲食物を所持しているにも拘わらず餓死してしまう』
なんでも、今後のことを思って大事にするあまり何も食べたり飲んだりしなく死んでしまうらしい。
嘘か本当かは知らないが、言ってることには共感できたので何となく覚えていたのだ。
時間は結構立っていたが、それほど疲労感もなく歩き続けていた。
もうそろそろ何処かで休憩しようかと思っていたところ、目の前の景色に変化が現れた。
「森...か?なんだよ海が見えるかと思ったら森かよ。いや、森を抜けたら海かもしれないしやっと景色が変わったことに喜ぶべきか。」
さすがに4時間以上あまり変わり映えのしない草原の風景ばかり見ていたため、景色に変化があるだけで嬉しものだ。
それに森の中には食べれそうな植物や川でも見つければ魚でもいるかもしれないし飲み水も何とかなるかもしれない。
さすがにお菓子しかなければいつまでもつかわからないし。
「よし、森の手前まで行ったら休憩にしよう。」
少し速足になりつつ進んでいると、小屋らしき建物が見えてきた。
「おっし!小屋みたいのが見える!!これでここが何処かわかるかもしれない。」
速足が駆け足になり小屋らしき建物がある方向へ進む。
どんどん近くなる小屋らしき建物は1つではなかった。
所々にある廃材のようは物が置いてあるような場所で煙が上がっているもの見える。
「お、なんか意外と建物があるぞ!村...なのか?いや家っぽくはないし、廃材のようなものも見えるから、なんかの作業場所なのかもしれない。」
「とにかく煙が上がってるという事は人がいるのは確実だよな。事情を説明して街まで送ってもらえないか頼んでみるか。」
~~数分後~~
「すいませーん!道見迷ってしまったんですが、誰かいませんかー!!」
作業場所のような場所につくと誰かいないか大声だしながら、周囲を探し回る。
「なんだよ、誰もいないのかよ。今日の仕事は終わって帰っちゃったのかなぁ。」
ブツブツともはや気にもしなくなった独り言を言いながらも周囲を探し回る。
時間を確認するともう直ぐ17時になりそうな時間でだんだん日も落ち始めて空も赤みが増している。
「不法侵入って言われるかもしれないが、今日はこの小屋の中に止まらせてもらおう。後で誤ればいいよ...な?事情が事情だし。」
適当に近くにあった小屋の扉を叩く。
ドンドン!ドンドン!
「すいませーん!誰かいますかー!...居ませんねー、入りますよー!」
誰もいないとは思っているが、一応大きく声を出し無反応なのを確認してから小屋に入る。
「小屋にしては何だか生活感があるような気が...。」
作業場所にある簡易的な小屋だと思っていたため、あっても何かの道具だろうと思っていたのだがどうやら違うようだ。
小屋の中を色々みて回ると、包丁や鍋などの調理器具のようなものやイスやテーブル、簡易的なベットやクローゼットのような物まである。
「誰かが住んでるのか?周りはそうは思えないような状態だったけど。」
「仮に誰かが住んでても行く当てもないし、このまま待たせて貰ってもし帰ってきたら、黙って家に入ったことを誤って事情を話そう。」
近くにあった椅子に腰かけながら家主を待つことにした。
明かりになりそうなものはなかったため真っ暗のままだったのと、休憩はしていたのだがやはり疲れていたのだろう知らぬ間に俺は眠りについていた。
翌朝、俺は椅子に座ったままテーブルに突っ伏したままの状態で目を覚ました。
当たりに人がいる気配はない。
俺の荷物もちゃんと昨夜置いた場所にある。
「結局、昨日この小屋には誰も帰ってこなかったのか。」
腹の虫が鳴り、そういえば昨日はろくなものを食べていなかったと思い出す。
調理器具があったのだから何か食べ物はないかと、その近くを探すとリンゴのような果物がいくつか見つかった。
「どうせ不法侵入したんだし、ついでにこれ食べちゃってもいいかな?」
後ろめたさを感じ数分ためらっていたが、空腹にはかなわず顔もわからないこの小屋の主に謝りながらリンゴのような果実をいただいた。
「さすがに今日1日待っていれば誰かくるだろう。」
屋根のある場所で落ち着いたせいか、まともな食べ物にありつけたせいなのか、何の根拠もないのにもう大丈夫だと安心していた。
しかし、数日してもこの作業場には誰も現れなかった。
もうお気づきの方もいるかもしれませんがこの作業場は村です。
しかし、主人公がそれに気づくのは次のお話。
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