キャリーケース 後編
1度目で足取りが掴めなかった、となると、2度目で犯人像は明らかになってくる筈だ。
それに、日が経てば見廻りは強化され犯行は難しくなる。
2度目が北だったのは、模倣だと思っていたがそうでもなかった。
殴られた位置が全て同じで、遺体の入り方も一寸の狂いも無く、同じだと言う
犯人は同一人物で、性格は几帳面なのか完璧主義者、までが唯一の手掛かりだろう。
「考えはまとまったか?」
考え込んでいた俺を心配したのか
里中さんが声を掛けてくれた。
「すいません。少し考えてました。遺体、見せてもらっても?」
「ああ、構わないよ」
里中さんに案内してもらうと、想像以上だった。
1度目、2度目と現場を見ていなかったが
解剖前の写真は見ていた。
それ故に嗚咽さえ覚えてしまう。
四肢は違った方向に曲げられ、頭部はへし折られ、キャリーケースへ綺麗にしまえるよう小さくされている。
よく見ると身体の至るところに痣があり
これが殴り殺された跡なのだろうか。
死因は首を折ったことなのではないだろうか…
「里中さん。これ死因は本当に撲殺なんですか?」
そう訪ねると顔を少し歪ませ返答をしてくれた
「お前さんもそう思うだろ。でも犯人は動脈を潰すかのように、一つ一つ、正確に殴ってるんだよこれ。」
「てことは、循環不全によるショック死……。」
「それが妥当なんだろうよ。」
人を殺めるだけでは飽き足らず、動脈を潰し死に際を看取って居るのだろうか。
「け、警視!!キャリーケースの中にこんなものが!!」
そう叫び、警視の元へ科捜研が駆け寄ってきた。
「これは…名刺……高月聡って、これ、有名なプロデューサーだぞ??」
プロデューサーの名刺?!
犯人は狡猾な人間だと思うが、何故そんなヘマを……??
「おい!!!今すぐ高月聡を被疑者で持ってこい!!!!今すぐだ!!!」
里中さんが大声で叫ぶと、部下と思われる人物が動いた。
中には「こ、これが……動く警視の威圧…」と言っていた刑事も居るが、その辺はまあいいだろ。
それより、高月を連れてくるとなると、聴取を手伝うだろうし、警視と話す時間がなくなることに気がついた。
俺に対しては気さくなおっさんって感じだが多忙の身だ、話せる内に話しておきたい。
「里中さん、聴取には俺が立ち会いますので、話を聞いてもらって良いですか。」
「ああ俺もお前さんに立ち会って貰えたらなと思ってたんだ、助かるな。で話って何だよ?」
「ここじゃ人が多いです。場所を変えましょう。」
俺と里中さんは、人のいないところを探し、場所を移した。
「で、人に聞かせらんねえ話ってなんだ?」
声色がいつもより幾分か変わった。身構えているし、これは仕事モードか。
寧ろ、彼女でも出来たか?!と冷やかされるかと思っていた。
「簡潔的に伝えます。五年前に俺の先輩であり、貴方の部下だった、不知火沙月は殺されたそうです。そして今日、娘と思われる女の子が俺に弟子入りしてきました。」
「 は?いや、状況が理解出来ねえんだが?沙月ちゃんが死んだって?」
理解ができないのも無理はない。
部下が五年前に死んでいて、もう1人の部下に弟子入りなんて理解しがたい
「知らない誰かに刺された見たいですよ。これを。」
俺はそう言うと、調佳から見せてもらった手紙のコピーを渡した。
「おい…これ嘘じゃねえんだろうな?」
「嘘じゃないですよ。筆跡は先輩のですし、遺伝なのか、娘も馬鹿力の持ち主で玄関ぶっ壊されましたし。」
「そうか……ゼロにした以上何か無いって事は絶対にないんだ。心構えしていたがまさかな。」
本当にそうなんだ。俺らは法スレスレの水面下で活動してきた。
誰かに恨みを持たれているのも勿論、何時死ぬかわからない状況なんだ。
「俺らには仕方ない事です。でも娘ですよ。16になる子供が居たんですよ。」
俺は今年で35歳になる。ゼロとして活動していたのは19年前で俺は16歳、先輩は18歳だった頃の話だ。
となると、俺達が抜けたのは17年前の話だから抜けてすぐ産まれた子になる。
相手が居たことも、なにも知らなかった。
「それが一番の驚きだが、問題は別だろ弟子入りってのは何だよ?依頼とかじゃなくてか?」
「はい。母親を殺した人間を探してほしい、みたいです。俺としても全力を尽くしたいと思ってます。」
「まあ良いんじゃねえかな。取り敢えず明日、お前さんのところ行くわ。お前さんの弟子に相応しいか見てやるよ。」
この人の頼もしいところはここだ。
ゼロの親元であり、警視なだけあって、人材を見る目はピカイチ。
調佳には俺以上の頭の回転力がある。
が、人は精神が弱いと弱っている部分に漬け込まれる。
そんな柔なやつを側にはおけない。
だからこそ、この人に1度試して貰いたかったんだ。
「ありがとうございます。お願いしますよ。」
「んじゃ後あるから行くわ。
聴取の件、下に頼んであるからよろしくな~」
そう言って手をヒラヒラさせ、行ってしまった。
1人になった俺は、聴取を行うべく警視庁に向かった。
がしかし。被疑者である高月を取り調べしても、声には一切の変化が見られず、あろうことか、アリバイが存在し、彼を犯人として進めることは不可能となった
遅くなりました。
キャリーケースの件はこんなんじゃ終わりません。
次は陽気なおっさんが弟子に相応しいか見てくれます。