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悩む魔女

幼い魔女ルナは様々な悩みを抱える。

第2話では、シャンスの妹リコ。ルナの召使いグラーフが登場する。

海猫通りを過ぎ、住宅地へシャンスとルナは歩いて行く。

シャンスの家に到着したのは昼過ぎの3時頃。家の前にある柵を越えて、シャンスがどうぞ、と家のドアを開けた。

「おかえりなさーい!」

ドタドタと家の奥から走ってくる女の子がいた。シャンスに飛びついて言う。

「リコ、ちゃんとお留守番してたよっ。知らないおじさんが郵便を届けに来てもちゃんと追い返したし。」

シャンスは、郵便やさんは追い返しちゃだめなんだぞと、自分の妹であるリコに言い頭を撫でた。

「こんにちは。リコちゃん。」

リコはルナに名を呼ばれきょとんとしたがすぐに笑顔になりルナに抱き着いた。

「ルナだー!久しぶり~。この前作ってくれたクッキー、全部食べたよ!すごく美味しかった。」

リコはルナの名前を連呼し笑っていた。玄関先で話しているのもなんだからと中へ案内しようとした所へ空から大きな魔女、ウーシェが下りて来た。

「やれやれ、やっと到着だね。」

リコは大きな太ったおばあさんが、ホウキで空からやって来たのを見て目を輝かせた。

「しかし、電車ってのは早いもんだねぇ。アタシのホウキも相当な速度が出るってのに。あれかね、アタシもホウキもよる年並みには勝てないって奴かねぇ…ってこのちょろちょろしている小さい子は誰だい?」

リコはとびぬけて大きな声で自己紹介した。その後ウーシェの胸に飛び込んで楽しそうに笑った。ウーシェは小さい頃のルナのようだと大声で笑った。


家の中にある暖炉の前で、ウーシェはくつろいでいた。他の3人はお茶をいれる準備をしていた。

暖炉の上の壁にはシャンスら両親の写真を飾っていた。写真には幼い頃のシャンスとリコが写っている。

「いい家だねぇ…暖炉の炎妖精も良いのを使っているじゃないか。シャンスのお父さんは…国を守る仕事をしてるんだねぇ。そうかそうか。」

ドアを開けてシャンスが入ってくる。ルナが紅茶とクッキーを運び、リコはそのお手伝いをしている。

「おまたせ、ウーシェ。ちょっと台所がすごい事になっちゃって。」

シャンスがいたずらっぽく笑う。

「あーっ、言わないでねって言ったのに!」

と、ルナが怒る。リコは、爆発したんだよ!どーんって!と兄のように笑う。ウーシェはあとで片付けの魔法を見せてやるよとウインクした。

クッキーを食べ紅茶を飲み、4人はしばらくお互いの話をした。ほとんどはルナとシャンスの町の冒険談であった。リコとウーシェは相槌を打ち、リコにいたっては大きなリアクションを何度もとった。

ゆるやかに時間が過ぎ、時計は5時を告げた。

「ところで、見せたいものがあるって?何なんだいシャンス。」

ウーシェに言われシャンスはそうだったと手を打ち、取ってくると言い走って部屋を出て行った。

「リコ、眠くなってきた。」

リコはウーシェの腕の中ですやすやと眠り始めた。ルナとウーシェはしばらく無言で暖炉の前に座っていた。そこへシャンスが戻ってきた。

「見せたいものはこれなんだ。」

シャンスが見せたものは鉄で出来た人型の機械。10cmほどの大きさだ。

「シャンス、なあにこのお人形。」

ルナが尋ねると、シャンスは蒸気式守護人形さと答えた。

ウーシェは眠るリコの頭を撫でながら、お父さんの仕事を継ぐのかい?と尋ねた。

「うん。将来、みんなを守る仕事につきたいんだ。」

ウーシェは目を細めて言う。

「アタシはシャンスに長生きしてほしいね。その本物をよその国で何度も見たよ。真っ赤に焼けた鉄の人形が爆発して消えて行く様を。」

ルナは黙って聞いていた。守護人形の本物と言われ、昔聞いたおとぎ話を思い出した。火を吐く鉄の巨人の話を。魔女の森ウイッチガーデンにもその巨人はやってきたという。大勢の犠牲者が出た忌まわしい過去のお話。

「シャンスは、もっと風に愛された人と思ってた。」

ルナはぽつりと言う。自由に生きて風のように自由な明るい子だと。

「難しい話はお前たちにゃあ分からないだろうが、シュナスの国を初めとし戦争をしたい連中がたくさんいる。そういった、悪く言えば野蛮な連中からシャンスのお父さんはみんなを守ってきた。シャンスも父のようになりたいのだろうが。」

ウーシェは暖炉に薪をくべて言う。

「シャンス、まだお前は若い。他の道を考えてもいいんじゃないのかい。」


7時前、ウーシェとルナは、シャンスの家を後にした。トボトボ歩くルナのあとをウーシェはホウキに乗らずついて歩いた。二人は駅でしばらくシャンスの話をし、ホウキに乗って雑貨屋へ着いたのは8時を過ぎたあたりであった。雑貨屋の主はルナが元気が無い理由をウーシェから聞き、何も言わず遅い夕食をルナとウーシェにとらせた。その日、ウーシェはルナの魔法堂に泊まる事にして、ルナが言いたいことを聞き、ルナが疲れて眠るまで優しく背中を撫でていた。


「おはようございます。レディ。」

翌日ルナは、男性の野太い声で目を覚ました。ベッドの側には大きな黒豹が一匹いて、じっとルナを見つめていた。ルナは声にならない叫び声を上げて、飛び起きた。雑貨屋の主人夫婦がルナの叫びを聞いて駆けつけるとそこには大きな黒豹がいて、黒豹はにかっと主人夫婦に笑いかけた。

「はじめまして。皆さま。わたくし、グラーフと申します。この度、ウーシェ様からの命令でルナ様の召使いになることになりました。以後よろしくお願いします。」

ルナと雑貨屋夫婦は顔を見合わせて苦笑いをした。


「黒豹をペットにか~。」

町の警備局の受付担当者は困った顔をしていた。

「ペットとは失礼な。わたくしはペットなどでは無い!」

しゃべる黒豹を初めて見た担当者はとりあえず上司を呼び前代未聞の事に四苦八苦していた。

警備局の古顔が資料庫で調べた結果、かつて黒豹を従えていた魔女に対して行ったことは、黒豹に首輪をつけて、リードをつなぐことであった。黒豹が暴れた場合魔女の責任となる。

「なぁんたる侮辱!」

黒豹のグラーフは首輪でつながれ激しく憤慨していた。ルナは必死にグラーフをなだめ、とりあえず家に帰ることにした。しかし、通りを走って来た車に乗っていた男性に声をかけられる。

「やあ、ルナちゃん。どこへ行くんだい?車に乗せてあげようか…ってうわあ!」

男性は大型犬くらいに思っていたが、目の前にいるのは黒豹。悲鳴を上げて車を走らせ行ってしまった。

ルナとグラーフは顔を見合わせ、魔法街から帰ることに決めた。


魔法街。それは人間の町にこっそり作られた秘密の町。古いものは力がある魔女がゆっくり長い年月をかけて作ったものであるが、新しいものは魔物が生み出した迷宮であることが多い。町で起きる行方不明事件のいくつかはこの新しい魔法街に人間が迷い込んだことにより起きている。魔女たちは秘密の入口を知っているため迷宮に入ってしまうことはない。しかし、幼い魔女にはそれが分からない場合があり。

「ねえ、グラーフ。ここってもしかして迷宮じゃない?」

魔法街を歩いていたルナは、異様な街並みを見て、グラーフに尋ねた。

「ですな。いかにもここは迷宮。ルナ様は知っていて入ったものと思っておりました。」

ルナはいじわるな事を言い鼻で笑うグラーフを見ながら出口を探して歩いた。

ルナとグラーフは魔法街を足早に進んでいたが、乾いた羽の音を聞いて上を見上げた!

今晩は。桃園です。


第2話を書きました。シャンスの事に少し触れてみました。

場面を明るくするため、そのあとでグラーフを出してみました。

次話は戦闘を描こうかと思っています。

はてさてどうなることやら。


4月吉日 桃園夕祐

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