とある町の小さな魔女ルナ
幼い魔女ルナの物語。
とある町のとある店に10歳くらいの魔女が住んでいた。
魔女の名前はルナ。月あかりが差す晩に生まれた魔女だ。
彼女は魔女が数多く暮らしているウイッチガーデンを単身飛び出し、人間たちの町へ修行にやってきた。
ルナが持つ魔法はダイスロールと呼ばれる系統の魔法で、10面体のサイコロを幾つか振ることにより、魔法を発動させる代物である。
今日の昼頃、ルナは窯焼きパンの作成を使用し、古来からの伝統でこの魔法発動の必要な数値は、10である。ルナはダイスロールを使用し、二つのサイコロを振った数値の合計は9であった。パンを普通に作った場合、焦げたり生焼けだったりするものだが、これは魔法。結局、何も生み出せなかった。ご丁寧に魔法失敗の小さな爆発が起き、その日は部屋の片づけで一日が終わった。
ルナが町に来て、一年がたった。その頃には友達や、仕事の依頼主も増え、使えるダイスロールも成熟の域に達しかけていた。成熟したダイスロールは、サイコロの目に+1~+2の修正が加えられ、魔法発動が起きやすくなる。ただ、これにも経験が必要なため一朝一夕にはいかない。簡単な品物の作成はあらかた+1の修正を受けていたため、この頃のルナは様々な品物を作れる魔女になっていた。
ルナは雑貨屋の一角に場所を借り、ルナの魔法堂という店を開いていた。その日は開業一年目ということで全品1割引きで販売をしていた。定番の品物は魔女の塗り薬。人間の製薬会社が同じようなものを作ろうとしたが、作れなかったという。この薬は少々のケガならばたちどころに治る優れものであった。ルナのようにウイッチガーデンから旅立ち、人間の町で商いをする魔女は、まずこの魔女の塗り薬を極めるのが主流である。ルナの場合、塗り薬の作成中のダイスロールでサイコロ二つを振り20の数値を得たため、大成功を修め、塗り薬の品質が一段階上がっていた。そのためひどいケガでも治る、例えば骨折の治療や火傷の跡の修復といった効果を得られた。
ルナの魔法堂に勢いよく入店してきた少年がいた。名前をシャンスという。以前、魔法街の冒険を行ったとき、ルナのピンチを救った、勇敢な少年だ。シャンスはルナの開業一年目を友人10名で歌を贈ることで祝い、バイトで貯めたお金で買った花束をルナに手渡した。
「ありがとう。シャンス。みんな。」
ルナははにかんで小さめの声で感謝を述べた。ルナは来た当初人見知りが激しく、人付き合いがあまり出来なかったが、シャンスとその友人たちのおかげもあり、今では笑い話もできるようになっていた。
開業一年目の昼からは突然の雨だった。風もびゅうびゅう吹き、人は足早に家へ帰って行った。大きな突風が町通りを吹き抜けた。
「じゃまするよ。」
太った白銀の髪の毛を生やした老婆が、ルナの魔法堂へやってきた。シャンスは大柄な老婆を見て、大きい~と口走った。
「おばあさま!」
ルナは老婆の胸へ飛び込んだ。老婆はルナを優しく抱きしめ、そのあと両腕で高々と掲げた。
「ルナ。久しぶりだねぇ。前より少し品のあるレディになれたみたいじゃないか。家を出るとき着ていたローブは脱いだみたいだね。アタシが察するに今着ている服は…自分で縫った服だろう?」
ルナはこくこくと首を縦に振り、嬉しそうに笑った。
「私、色々なものを作れるようになったのよ。昔みたいに爆発の魔女なんてもう言わせないわ。」
二人の様子を眺めていたシャンスが、二人の前に歩み出て言った。
「こっこんにちは。おばあさん。シャンスと言います。ルナと仲良くさせてもらってます。」
老婆はシャンスをしばらく無言で見つめ、18か…と呟いた。
「おばあさんはよしとくれ、アタシはウーシエンダーっていうんだ。ウーシェと呼んでおくれ。」
ルナとシャンスはほぼ同時にウーシェに尋ねた。
「18って?」
ウーシェはシャンスの頭をつつきながら、二人に答えた。
「アタシくらいの魔女になるとね、人々のつながり、縁ってものが数値で見えるのさ。ここにサイコロが2個あるだろう。これをルナが振って、18以上が出ればルナとシャンスは縁で結ばれる。」
シャンスは見慣れない10面体のサイコロを眺め呟く。
「一番大きな目で20か。ボクは18なのか…それって凄く難しいんじゃないかな。」
ウーシェは二人を抱き寄せて言った。
「世間知らずでぶっきらぼうな魔女の娘っこと、この町で大きなつながりを持った少年が出会ったんだ。多少難しい方がありがたみがあるというもんさね。シャンス、あんたがいなかったらルナはこんなに明るく笑えなかったろう。本当にありがとうよ。」
それを聞いてシャンスは、ルナがいなかったらこんなに毎日が楽しくなかったことを告げ、ウーシェとルナに見てもらいたいものがあると言う。二人の魔女は快諾し、シャンスの家に向かうことにした。
「でも、こんな大雨じゃ家まで帰れないかなー。」
シャンスがため息をもらす。ウーシェが忘れてたと呟き、指をパチンと鳴らしダイスロールを行う。
途端に雨が止みお日様が顔をのぞかせる。
「ウーシェって雨を止めることが出来るの!?」
ウーシェはそれを聞いてガッハッハと笑い、シャンスに微笑む。
「降らせてた雨を止めただけだよ。」
ルナとシャンスは顔を見合わせ、くすっと笑った。
通りを歩く大きな老婆と、町の有名人になっていたルナは人々の注目を浴びていた。シャンスが元気よく二人を案内する。太った老婆、ウーシェはもっとゆっくり歩いておくれと注文し、ルナが杖代わりになって家へ向かった。
「おばあさまは本当はホウキや杖に乗って空を飛べるのよ。でも前に言ったように二人以上が乗っちゃうと制御が難しいの。前にシャンスが乗ったときは、たまたまうまくいっただけなの。本当だったら今頃二人とも落っこちて大ケガをしていたと思うわ。」
シャンスは後ろ歩きをしながら笑って言った。
「もしかして、やった!19ってさっきの18と似たような感じなのかな?建物から落ちかけて、空中で言われたとき何のことだろうと思ってたけど、サイコロで19を出したってことなのかな~。」
ルナはそうよと笑いながら言い、路面電車の駅へ歩いて行く。
「もしかして、電車に乗るんじゃないだろうね?アタシはこういった文明的なものに乗ると酔っちまうんだ。しばらくしてルナの生命力を辿って飛んで行くことにするよ。」
ウーシェはそう言うと瞬時に姿を消した。
「ははっ、ルナのおばあちゃんって凄い魔女なんだね。ボクの発明なんて見たらどう思うかな?魔法にかなうのだろうか。」
二人は駅に入って来た電車に乗り席に腰かける。ルナはバスケットからお茶の水筒を取り出しシャンスに手渡す。小さなコップに二人分注いで、喉をうるおしてシャンスに言う。
「さっきの話なんだけど、魔法でも出来ないことはあるのよ。前にシャンスが乗せてくれた蒸気自転車とか思いつかないもの。おばあちゃんだって、古くからある魔法で出来る範囲のことしかできないし。大きな声じゃいえないけど、痩せる魔法は未だ生み出されてないのよ。」
二人はくすくす笑い、ルナが持ってきたパンを二人で食べた。電車は海猫通りを過ぎ、シャンスの家の近くの駅で下り、家へ向かった。
今晩は。桃園です。
魔法少女の冒険を描きたくてこの物語を考えました。町で生活して幼い魔女が成長する過程を描いた作品といえば、有名なあの作品がありますよね。
でも自身の中に湧き上がる魔法少女の形は違ってて。
今後、魔物や獣人などがぞろぞろ出てきます。第一話でちょろっと出てきた、魔法街。いわゆる冒険物語でいうところの迷宮です。
戦闘シーンを描きたいですね~。難しそうですけど。
このお話を見て頂けたらあなたの中にも違った魔法少女の形が出来るかもしれません。
ではでは、次回の冒険をお楽しみに。
4月吉日 桃園夕祐