247話(第2部5話『デスパレート・バトルズ』3)
20メートルに迫る体躯、獅子の顔、裂けた口にはノコギリのように鋭い歯が数百本生え並び、胴体は猿のようなシルエットだが全身が鰐のような鱗に覆われ、不格好なほどに肥大化した手足は鋼鉄の爪が光っている……!
「情報よりも更に進化したか……!」魔王アドミラルは怪獣を睨み、静かに戦闘態勢を取った「捕獲する」
するとその時「御用だ御用だ!」「そこの怪獣! 手を後ろで組んでひれ伏して死ね!」「射殺されなさい!」がやがやと武装警察が現れた!「ガルルゴ?」プーカが疑問の鳴き声だ「ここはワクワク外だからな……カーディナルの支配下に置かれてないのだ」
「ARRRRRRRRRRGH!!!!!!!」超獣の咆哮と共に破壊光線が放たれた!「うわーーーー」武装警察が全滅し消滅!
「この威力、魔王であろうとひとたまりもないか」「ぎぎぎばう……」「怯えるなプーカ、戦わねば私が貴様を殺すぞ」「ググググ……!」プーカは一瞬硬直した後、うやうやしくひれ伏した「変身しろ、作戦通りに」「ぎゃうぎゃうぎゃうばーーっ!」あやふやなる黒い獣はガス状に変形し、アドミラルに取り憑く……その形状は全身を覆うローブとなった!
「grrrrrr……!」巨大怪獣は唸る!「始めるぞ」魔王アドミラル立つ地面が弾ける!とてつもない脚力によるダッシュだ!「ARR…」敵が叫ぶより早くアドミラルは蹴り込む!「ARRRRRGH!!!」獣の歯が破壊される!怒りの咆哮をあげ、怪獣はアドミラルを睨む!「ARRRRRRRRRRRGH!!!」その巨体からは予想できぬロケット砲めいた速度で獣はその拳を振りかざした!
「チィッ……!」アドミラルはプーカのローブで攻撃を受け流すが肉が削げた!「ガルガー!?」プーカが叫ぶ!「黙れ」「ガ、ゾガググ!」プーカは怯えながら体を変形! 漆黒の鉄鎖を形成し射出! 黒鉄の鎖が怪獣に突き刺さり全身に巻き付く!「ARRRRRGH!!!!」怪獣が悲鳴を上げる!
「ギギギギギガゴギゴ……!」ローブからプーカのうめきが響く「ARRRRGH! ARRRRGH! GRRRRRRRR!!」怪獣は叫び、暴れもがく!鎖化したプーカは全力で抵抗するが、鎖はきしみ、ひび割れが生じていく!「ぎぎべぎご……!」
「重畳だ、プーカ」魔王アドミラルはその腕を突き出す! 瞬間、背後の景色が歪み、三次元ノイズから重低音を立て巨大戦艦がその姿を現した!
「GRRRRRRAAAAAAAAAAAGH!!!!!」化物は吠え、拘束破壊!「げごバがごゾゾげッ!」プーカが悲鳴を上げる!「GRRRRRRRR!!」怪獣は口から青く光る破壊光線を照射!
「魔王結界」喰らえばひとたまりもない攻撃を前に、アドミラルは一つも同様せずに呟いた……「ッッッ!?」怪獣は悲鳴を上げる……アドミラルの背後から生じた空間の歪は瞬間的に肥大化し、あたり一帯を飲みこんだのだ!
刹那のブラックアウトの後に怪獣の視界に写る景色は一面黒の世界だった「ARRRRRGH!!???」それは彼方まで広がる海、地獄のような黒い液体に満ちた海だ!「ARRRRRRRGGGHHHH!!????」SPLAAAAAAAAAAAAASH!!!!怪獣は墨汁のように黒い海に沈む!
「撃ち方」冷淡な調子で、魔王アドミラルはその手を溺れもがく巨大怪獣に向けた「始め」KABOOOOOM!!KABOOOOOOOM!!KABOOOOOOM!!!艦載砲の嵐が怪獣を襲う!獣の叫びさえかき消す轟音!
「魔王結界は魔王の領地……非魔王に一切の自由はない」「ぐるる……」冷淡に呟くアドミラルに、プーカは自分が魔王であることさえ忘れるほどの畏怖を覚えた「撃ち方は終わらない」
「ARRRRRRRRGHH!!!」怪獣は砲撃の雨をまともに食らい続ける! その勢いは止まらず、迎撃破壊光線どころか呼吸すらも危うい猛攻であった!さらに!
プォーーー!プオオオォーーーー!黒き海に新たな戦艦が虚空から出撃する!砲撃!砲撃!砲撃!怪獣の四方を戦艦が囲み大艦巨砲主義的集中攻撃包囲網!
「ぐばげげぼぼろ……?」ローブ状態のプーカが恐る恐る問いかける「死なないのか、だと」アドミラルは淡々と答える「あれは瀕死に追い込まれば人間形態に戻る、それまでは死なんよ」
「ガ……ア……」骨が飛ぶ! 肉が燃える! 巨大怪獣の意思が薄弱するにつれ、少女の自我がおぼろげに浮上していく「……」赤い閃光、黒い、闇、熱いのか、寒いのかも、わからずに「ゴ……ボ……」肥大化した筋肉は縮小し、牙も鎧の皮膚も砕け散る……
「ア……」大怪獣は繊弱な少女の姿に退化し、無抵抗に墨色の海に沈んでいく……
「撃ち方止め」アドミラルが腕をおろし合図すると、四隻の戦艦は攻撃を止めた「無力化は完了した、回収しに行けプーカ」「らう……」魔王プーカはガス状に分解し、形状変化! 両手の生えたイルカに変身した! 「るぞばごごご!」プーカは暗黒の海にダイブ! 血と肉塊が浮かぶ水域の下に潜航する!
ゴボゴボゴボ!魔王プーカは猛スピードで獲物に迫る! 少女は全身から血を流し、眠るような表情で沈んでいる「るばげぞぜ!」プーカは肉体を一部变化させ、タコのような長い触手を形成! 少女にその手を伸ばす!
…………暗い……何も見えない……嫌な……ニオイ……狭い……硬い……出たい「あば!?ガボボボボぞんばげッ」赤い光……うるさい音……「……が逃げ出し……!」「……カーディナルの……」「……睡眠魔法を……」痛い……痛い……「あばばばばばずび!ぎゃおーーー!?」
何が、何が、何が! 暗い海の中で魔王プーカは狼狽する!「……」眼の前のそれは無言でプーカの首を掴む!「あば! グオオオオオオーーーーッ!?」引きちぎる!「……!」
水中に沈むその生き物は小さな少女の姿であった……だが、プーカは巨大怪獣以上の恐怖を直感した!逃げなければ、その意思のみが全身を支配する!
「……」数秒前まで人形のように沈んでいたそれは今、水晶めいた眼を光らせ、藍色の髪を揺蕩わせながら海中で敵を狩ろうと戦闘態勢を取っていた……「ぐ……ぐ……!」プーカは恐れる!
「……」言葉もなく、表情もなく……少女の意思は失せ、純粋な殺人兵器に変貌したそれは、狩りを開始した!