232話(第2部2話『バーニング・ダウン・ザ・テンプル』9(完))
アーク神主とククの戦い
「く、そう……まだまだだ……」
「ホホホ、悲しいほどに弱いですねぇ……これなら天皇の力をお借りする必要はありませんね」
アーク神主は嘲笑を隠しもしない……
そして生き物のように、パイプが張り巡らされた工場地帯……視界の果てまで工場は増殖していく……
絶対的に不利な状況下、ククは屈することなく、アーク神主に反抗の意思を向けた
「あたしが、お前を、潰す……! オオオーッ!」
ククは目にも留まらぬスピードで駆け出す! 瞬きする間の一瞬でアーク神主の間合いに迫った!
「断ち切る!」
白光の一閃! ククは神器光の剣をスイングさせる!
「単純明快弱肉強食! ホホホホ!」
なんと、アーク神主の腕が伸び、ククの体を拘束した!
「これでは剣がとどかない……とでも言うと思ったかぁ!」
スイッチを押すことで、光の剣がレーザーじみて伸びた!
「予想通りでえす!」
なおも侮るアーク神主! 神主はククの体を建物と建物の隙間に放り投げた!
「しまったッ」
放り投げられたククのむなしい叫びが工場に響き渡る!
「では神器を受け取らせて頂きますよ!」
アーク神主は闇に腕を伸ばし、ククから神器を回収しようとする……しかし!
「い、いない……!? 奇想天外暗中模索……いや!」
とっさに振り向く! そこにはククの姿が!
複雑な工場やパイプの構造を利用し、壁を蹴ってここまで戻ってきたのだ!
「今度こそぉ!」
光の剣を振り下ろす!
「祈祷オブパワー!」
「この剣に切れないものは、ない!」
「グ、グワーーッ!」
光の剣はお祓い棒をすり抜けるように切り裂き、そのままアーク神主に一直線の傷を造った!
「覚悟しろ!」
さらに光剣を振り下ろす!
「アババババーッ! 驚天動地前後不覚ーーーッ!」
アーク神主の腕が切断! 光剣は瞬時に肉を焼き、血の一滴すらこぼれない!
「孤立無援不撓不屈! て、天皇様! デューモス様! お助けをーッ!」
プライドを掻き捨て助けを求めるアーク神主!
「呼ばせるか! 今すぐ倒しウワーッ!」
突然パイプからガス状の腕が発射され、ククは吹き飛ばされた!
「ったく、実体化するとダメージ入るようになっちまうんだからよぉ。こんな子供一人にズタボロになってんじゃねぇよ、情けねえなぁ」
もくもくと煙が集まり……人型になると、それはデューモスの姿になった!
「私は善戦しました! しかし光の剣が強すぎたのです!」
「仕方ねぇなぁ、直してやるよ、その腕」
デューモスがアーク神主に手をかざすと、その切断された体がガス状に分解された!
「おお……これは……」
そして再び固形化すると、傷一つ無い元の腕に再構成されたのだ!
「嗚呼! これぞ神の奇跡なのですね……まさに余裕綽々福徳円満!」
「……ま、ここらで遊びは終わりにしちまおうぜ、めんどくさくなってきた!」
デューモス様は近くの施設を分解し、黒いガスに再構成した……
「これで、死ね!」
黒煙は無数の無数の蛇の形となり、ククを取り込んだ!
「うっ……ぐぁ……」
ガスに取り込まれたククは光の剣を振り回すが、無意味であった……息を止めても、ガスの毒が肉体を破壊していく……
このままククは死んでしまうのだろうか!
「ハハハハ! 楽勝ってのは気分いいぜ!」
「さようでございます!」
「フハハハハハ……ア?」
デューモスの表情が凍る……その目に映ったもの、それは……ダルスたちの放った超エネルギー攻撃だ!
高濃縮エネルギー波動がデューモスを飲み込む!
「ガ、ガス化が間に合わなアアアバババババババーッ!!」
南無三宝! ククにトドメをさすためガス化を解除したのが仇となり攻撃を許してしまったのだ!
「う……!」
黒煙の蛇が霧消! ククは攻撃から解放され、地面に落ちた……
「アアアアアアーーッ!」
「か、神! 私はどうすれば!」
エネルギー弾は蒼炎じみた形状に変化し、ターゲットを逃さず焼き尽くす!
「う、動け……」
うつ伏せに倒れたククは取り落とした光の剣を握ろうとするが、できない!
今ならデューモスを切り裂く絶好の機会……しかし、天皇の毒は僅かな時間とはいえククの体に重篤なダメージを与えており、体が動かせない!
「ナメやがって……! 俺はこの力で、楽に……」
デューモスは怨嗟の声を呻く
「金、権力、全部手にすんだ……こんなしんどいのは、全部! 避けて通るんだよ!」
叫びと同時に、デューモスから極彩色のエネルギー光が弾けた!
エネルギーの蒼炎が消し飛ぶ!
「ハァー……手間取らせやがってよぉ……」
「おお、神よ! 無事でありますか!」
アーク神主は喜びにむせび泣いた!
「ハッ! たんなる魔法にそれなりにダメージくらうとは、神の力も案外大したもんじゃねぇのかなァ? アア?」
デューモスは自身に宿る何か……今は精神内で眠りにつく魂に悪態をついた
「ハァ……ムカつくぜ! とにかく今の恨みをきっちり倍返ししねぇとなぁ!」
デューモスの肉体が再びガス状に変化する!
「この地帯は今、俺の庭! どこに隠れようと逃げられ……」
言い切る前に、彼は再びその身が焼かれる感触を味わった
「ア……?」
一本の光の線が、闇の天皇の心臓を貫いていた
「何が楽だ、何が金だ……」
地に倒れるククはデューモスを睨む……その手に光の剣!
「そんなことのために!」
デューモスの身勝手な怨嗟は、貧民スラムに暮らす少女に怒りのパワーを与えたのだ!
「ガキがぁ!」
デューモスは再度ガス化を試みる! しかしククの動きの方が早かった!
「アアアアアアアア!」
光の剣を振り回す!
「ギッ! ごぼあ! げげげぎゃぎゃぼーー!!」
デューモスはフードプロセッサーにかけられたようにバラバラに切断された!
「か、神ぃ! 神ーーっ!」
アーク神主が狼狽!
「お前も死ね!」
光の剣をスライドさせるだけで、長大なる射程を持つ光線はアーク神主を一刀両断した!
「ボッギャパーーッ!! ……四苦八苦……悪戦苦闘……」
アーク神主は死んだ!
「ッラァァァ! 終わらせる!」
ククは再びデューモスに迫る!
その手の光の剣から発せられる不可思議なるパワーが、少女の肉体を動かした!
ビームの剣身を振り下ろす!
「アアアアアア! お、俺を! 助けろ! 神ぃ!」
人形の黒いシルエットと成り果てたデューモスは、内なる神に救いを求めた!
((愚かなり人間よ!))
デューモスの精神内におぞましい神の声が響いた!
((ひ、へへ! 聞こえてんじゃねえか……助けてくれよぉ、神様よぉ!))
デューモス……否、この精神世界に浮く卑下した人間の男は目の前の気体状の超自然存在にへりくだった
((神の力を持って矮小なる人間ごときに敗北するなど、愚かにも程がある))
((へいへいわかってますよぉ……でも俺が死んだら、あんたも消えちまうんでしょう? エエ?))
人間の男は卑しい目を神に向ける
((……))
揺れ動く黒煙は、不満気な沈黙を示した
((確かに、あの憎き魔王ウィザードの狂気により生じた次元の崩壊によってこの第三層世界に貶められ、物理体は実在の危機に陥り、たまたま素質のあった貴様のような人間を間借りしている状況だ……だが))
黒煙の神はツタじみて影の手を人間の男に絡ませていく……
((ヒヒ、ヘヘハハ……力が、くるぜ……))
((神の国への帰還がなされる暁には、貴様のような愚民など切り捨てるということを、覚悟せよ!))
ゾゾゾゾゾゾ!
「ッ! 何、これは!?」
ククが光剣を振り下ろす寸前で、天皇デューモスから暗黒の瘴気が噴出!
ククは吹き飛ばされた!
突然、強さが、変わった……!?
「神の万分の一にも満たぬ人間風情よ」
デューモスは不気味に変形……その姿は肉で作られた暗黒蒸気機関じみた異形のフォルム!
「貴様に罪は無い……だが! 我、煙神デューモス復活のため! 踏みにじられて死ね!」
異形デューモスから、大地を震わすほどに力が集中!
その圧倒的な力の差を感じ取り、ククは恐れることすらできず動けなかった
ここまでか、そう少女が悟った……その時!
「ウオーッ! 拾った神器で不意打ちダルス辻斬りーッ!」
「アバーッ! 馬鹿な!」
突如現れたダルスがデューモス異形態の背後から光剣で真っ二つに切り裂いた!
これには煙神デューモスも面食らった!
「なぜ、神たる我がーー! こんな……」
「魔力は使い果たしたけど気合でここまで走ってきたらなんかこのビームソードが飛んできたからナイスキャッチして迷わず攻撃したんだぜ!」
「そんなことは聞いていない……神器……まさか! 神の力が宿っているとでも……それ故に愚衆共は欲しがって……」
「そして麻痺毒をくらいなさい!」
「アババババ!」
突如現れたネクロがデューもすい業態の背後から忍者兵器麻痺毒針を突き刺した!
「サソリ・モンスターとか蛇とか蜂とかの特性毒カクテルよ……」
「アバババババーッ! 神たる私が、苦しいだと! なぜ我がこんな……脆弱な人間ごときの肉体のせいで……!」
「そしてなんか……くらえー!」
突如現れたルーノンが煙神デューモス異形態を工場ビルから地面に叩き落とした!
「おのれーー! いつかこの借りは、絶対に晴らしてやるぞおおおおぉぉぉぉぐちゃ」
デューモスは地面の黒い染みになった!
「悪は去ったぜ……! 明けない夜がないようにやっつけられない悪はないぜ……」
「文学的ね……人間は人間風情じゃなくて人間風流ということね……」
「ククちゃん、大丈夫だったー?」
勝利の余韻に浸りつつ、満身創痍のククを助け起こす
「正直もうだめかと思った……でも、ありがとうな……おじいちゃんの仇は討てたよ」
「どういたしましてだぜ!」
「でも、まだ怪しいところはたくさんある……あんな恐ろしい天皇なんてのを操る、でかい闇が……」
「多分カーディナルじゃないの?」
「いま俺達が倒そうとしてる悪い奴らだぜ」
「そうか……だったら」
「ククも仲間になってほしいぜ! ビーム剣強いし!」
「……ハハっ、」
ククロメイデスは笑った
「先に言うなよ……よろしくな」
握手を交わした!
ダルスたちが去った後、未だ背景から浮いた工場群が存在したままの、寺だった場所……
「いやぁ。さすが天皇の天地開闢……物質を不可逆的に変えてしまうとは! まったく恐ろしい!」
高級ビジネススーツを着た男は地面に向かって話しかけた
「馬鹿にしてんのかぁ……くそが、さんざん自慢しといて普通に負けやがったよ、クソ神が……」
無残にボロ肉とかしたデューモスである
「そうお気になさらず! 神霊魂憑依……あなたが天皇と呼ぶその力はまだまだ未知数ですから! いくらでも伸びしろはあります! ネバーギブアップ!」
「うるせえよ……で、てめぇはなんのようだよ……カーディナルのしたっぱさんよぉ……」
「あなたは仕事を失敗しました! 光剣奪取の仕事を失敗、観光資源の寺にも甚大な被害を与えましたね」
「ッハ! だからどうしたよ? ここで殺すか? 一応言っておくが、お前を殺すくらいわけないぜぇ?」
「はい、そのとおりですね、死ぬでしょう」
スーツ男はあっけからんとしている
「天皇を処罰できる機関などどこにもありません……しかしカーディナルにはあなたの、あなたにはカーディナルの利用価値があるのは変わらぬ事実です」
「……」
「まぁとどのつまり……一度カーディナルに戻って仕切り直しましょうってだけですね」
スーツの男はかがみ、デューモスに手を伸ばそうとした
「いらねえよ、舐めんな……」
デューモスは一瞬黒い煙に変わったかと思うと、次の瞬間には完全な姿に回復していた
「良いですね……では、ヘリがありますので」
バロロロロロ! カーディナル武装ヘリコプターに彼らは乗り込んだ
「で? 次に俺は何をすればいい」
「それはアラシカーディナル長にじきじきに……さて、その前に……あなたの素晴らしい工場を破壊させてもらいます、口惜しいですが」
「勝手にしろ」
「天皇の痕跡を残したくないのでね」
武装ヘリ下部ロケット装備が発射!
ドゴーン! 有名観光地だった寺は、灼熱のドームに覆われ焼き払われた!
全てが赤く染まる中、歴史ある寺だったものは、全て消え去った……