222話(第2部1話『セットアウト・オナ・ストレンジ・トリップ』6)
ここはだだっ広い平野……ところどころ田園や農園が点在する地域
そこにひとりの腐った男……魔王レラジェがずるずると歩いていた
「ハァー……ハァー! 今頃……列車は衝突してるはず……」
レラジェは骨が見えてしまっている口を歪めた
「ヒャヒャハ、ざまあないぜ! ムカつくガキどもも、成金のジジイもまとめてオダブツだ! そして!」
その服の下にプラケースに覆われた電子部品が隠されてある……どさくさに紛れて盗み出したのだ!
「最後に笑うのは俺様よ! あの会社を裏切ることにはなるが……ハァハァ、問題はない……」
レラジェは懐から白い石製のプレートを取り出した
「この傷を癒やして……コイツに魔力を込めれば魔王世界に戻れる……この電子部品を売った金でこっちの世界の物資を買って、荒廃した魔王世界で売りさばけば俺様は大金持ちだ……」
ぐじゅぐじゅ……自分の毒で腐った彼は這うように歩く
傷を癒やすための栄養をとるため、人間の肉を食らうために……
しかし彼は遠くから奇妙な音が近づいてくるのに気がついた
ッブゥーーーーン……ッブゥーーーーン……
「この音は……!?」
ギャギャギャギャ!
電子バイクが猛烈な勢いでレラジェに突進してきた!
「オオオオアッ!」
死に物狂いでよける!
「なんだてめぇはァァァァァ!」
乗り手は電子バイクから降りた……
そしてヘルメットを取った
「私の名前はキャサリン……」
それはサイバー・ライダースーツを着た、白い肌、金色の長髪、女豹じみた鋭い目の女……
「マジックカンパニーの元研究員よ……貴様の持つ特殊魔法基盤は我々の所有物だ、返還しろ」
レラジェはプラケースを取り出した
「ハン、負け組魔王の亡霊が……取り返しにきたってわけか! ああいいぜ! ほらよ!」
ケースをキャサリンに向けて放り投げた!
「ッ!」
地面に落ちれば壊れかねない!
彼女はケースに跳躍し、掴みかかる!
「このまぬけがぁぁぁ!」
レラジェは一瞬で矢を構える!
この隙を狙ったのだ!
「くたばりやがれぇー!」
矢を打ち込む!
「ヒャア! ヒットォ! ……ッ! 何だと!」
「ありがとう、素直に返してくれて……」
キャサリンは無傷!
「驚いた顔をしているな、私達は科学の先端に立つ人間だぞ? 弓矢など原始的な武器が通用すると思ったか?」
彼女は服を手で払った……傷一つ無い
「この服は薄くても頑丈にできていてるんだ」
「なぜ溶けない!腐らない! 俺様の技がなぜ効かない!」
キャサリンは見下すような笑みを向けた
「ハ、私達がどれだけ、何十万人の魔王を実験したと思ってる? ウィザード様の支配にも従わず、抗いもせず人間世界に逃げた雑魚魔王など敵にすらならないんだよ」
「てめぇ……!!」
「ちなみに種明かしをすると、この服は魔王アーマーの技術を流用して魔法を無効化する機能が付いている」
「卑怯な……!」
怒りの目を向ける魔王レラジェ!
「一般に向けて販売されるはずだったんだが、どっかの馬鹿どものせいでそれもご破算になってしまったよ……ああ、腹が立つ……」
彼女の表情に影が差す……
「アアアアア! 不愉快不愉快不愉快不愉快! あの野蛮なジャンクどもが!」
突如キャサリンがキレた!
「どいつも! こいつも! 私達にたてつきやがって! 貴様のようなハイエナ共もフラストレーションが溜まる!」
キャサリンはレラジェに蹴りを叩き込んだ!
「グワーッ!」
「クソクソクソクソクソ! ウィザード様に歯向かうジャンクが! お前らは! 全員! この私がデリートするぅぅぅぅぅぅ!!」
「ガアアア、た、助け、ごっばァァァァァァ!」
魔王レラジェは力尽き全身が爆ぜて死んだ!
「フゥー……」
キャサリンは深呼吸をした
「はぁ。少しは落ち着いた……まぁ良い、回収は済んだ……」
キャサリンは電子バイクに乗ろうとし、少し考えレラジェの死体に近づいた
「このジャンク……ハンムラビとかいう組織の犬だったか……何か情報を残しているかもしれん」死体を漁っていく
「特にないか……やはりゴミか……ん? なんだこの白い板は……」
彼女は謎めいたプレートを手に取る……不思議な力を発しているのを感じた
「私のデータベースに情報は無いな……あとで分析するか」
そしてキャサリンは電子バイクに乗り、西へと走り去っていった……