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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
ピクニックに逝こう!
72/122

70.森の木陰でどんじゃらほい

今回は移動ばっかりです。

勇者様の軽い受難をどうぞお楽しみ下さい。



 青い空をひゅるりひゅるりらひゅるひゅるひゅる。

 勇者様が落ちていくー……

 

 やばい、勇者様が落ちた。


 現在、私達がいるのは遙かなる高空。

 愛らしいムササビに、運んでもらっているところです。

 滑空の飛距離で、移動距離を稼ごうと思ったんですけれど。


 まさか勇者様のキラキラ☆金髪に烏の群れが(たか)ろうとは……きっとお天道様も思うまい。


 いえ、勇者様に輝かんばかりの加護を与えたのは陽光の神様なので、予想してたりするんですかね?

 どちらにしろ、勇者様本人は想定していなかった様ですけど。

 太陽のように光り☆輝く、勇者様の金色の御髪(おぐし)

 それが空にあってより一段とキラキラ輝いていたとなると……光モノ大好き❤な烏さん達が襲来するのも一つの予定調和なのでしょうか。

 烏は太陽神の眷属とする神話も多いので、陽光の神に目をかけられている勇者様に殺到するのも仕方のないことなのでしょうか。


 結果として、勇者様はムササビから落ちたんですけど。


 今まで勇者様が空を飛ぶ時は、神獣だの魔王だのロック鳥だの竜だのが側にいたから、野生の本能で烏も近寄らなかったのかもしれません。

 きっと勇者様も、今になって自分が烏に襲われるとは思いもしなかったでしょうね……

 太陽光に反射して、勇者様の髪がキラキラキラキラ……

 落ちてます。

 思いっきり落ちています。

 その光景を見ていて、はっと我に返りました。

 しまった、勇者様を回収しないと――……!


 高空から落下しても、勇者様が死ぬような気はしませんでしたが。

 流石にはぐれてしまっては面倒です。

 合流するまでに時間を浪費することになってしまいますから!

 私は自分を運んでくれていたムササビの首元をぽんぽんと叩くと、その背中から飛び降りました。

 気の遠くなるような青空へ、身を投げ出します。

 勇者様、落ちるのはちょっと待って下さーい!


 夜明け前に出発したので、今日は勇者様の傍にカンちゃんがいません。

 あの神獣、鳥目だから夜は身動き取れないんですよ。

 置いてきたのが今になって悔やまれました。

「勇者様、はろー」

「リアンカ!? な……っ君まで落ちたのか!?」

「いいえ、飛び降りちゃいました!」

 落ち方をちょっと工夫して、真っ直ぐ素早く落ちていく。

 空で何とか助かる術はないかと、わたわた足掻いていた勇者様。

 彼の元まで、追いつくのに苦はありませんでした。

 最初から勇者様の傍まで落下できるよう、位置を調整して飛び降りましたからね!

 空の上は風が激しくて、上手く辿り着くのはちょっと大変でしたけど。

 そこは今までの人生で培った経験が活かされました。

 私は上手くいったと得意顔。

 だけど勇者様は真っ青になり、絶望を絵に描いたような顔をしました。

「なんてことを……! 君みたいなか弱い女の子が、飛び降りて無事で済むと思うのか!?」

「挽肉になるまで後どのくらいですかね……」

「マリエッタは!」

「今から呼んで間に合う訳ありませんよ?」

「わかっていて、なんで飛び降りるかなー!? くそっ、こうなったら俺の身体をクッションにして、何とかリアンカだけでも……!」

 なんということでしょう!

 勇者様は自己犠牲と献身の塊のような悲壮な決意を固め、私だけでも生き延びる道はないかと模索し始めましたよ!?

 本当に自分の身を呈して私を助けようというのか、勇者様が……あの! 勇者様が! 私をぐいっと引き寄せると、まるでアルマジロみたいに私を抱き込んで身を丸めました。

 勇者様の背中を、下にして。

 そんな、勇者様……!

「こんだけたっかいところから飛び降りて、勇者様お一人を犠牲にしたところで無駄だと思います。軽く衝撃だけで死ねますよ?」

「リアンカ、君はなんでこんな時にそう冷静なんだ……!」

「慌てない、慌てない。ひとやすみ、一休み……」

「一休みしている間に死んだらどうするんだー!!」

「だからって焦っても何も出来ませんよ? 勇者様の身体を私の為に犠牲にしようっていうのも無駄です」

 いや、でも勇者様ですよね。

 もしかしたら勇者様のお身体なら、緩衝材にしただけでも本当に効果あるかも……?

 勇者様の頑丈さを思えば、なんか私まで助かりそうな気がします。

 でもそんな無謀な賭けで、私は自分を危険に晒すつもりはありません。

 私は勇者様の身体を、べりっと引きはがしました。

 くっついていることは嫌じゃありませんけど、身動き取れないのは問題です。

「無事でいられないなら、無事で済ませられるよう工夫するのみです」

「はい!?」

 私は勇者様の上着をわしっと掴みました。

 このまま離れ離れにならないよう、捕まえておかないといけません。

 勇者様が私の意図を察してか、手を握り返してくれました。

 それを見届けてから、私は腰のポーチを漁ります。

 以前、ドラゴンのタナカさんにお空まで連行されちゃった時。

 あの時、充分すぎる程に落下の恐怖は味わいましたから。

 あれ以来、同じようなことが起きた時の対策は準備していたんです。

 まさかこんな所で披露する羽目になるとは思っていませんでしたけど!

「……あった!」

 見つけたのは、布に包んだ楕円形の物体。

 私の手を三つ広げたくらいの大きさ。

 くるっと布を取り払うと、出てきたのは……


 魔境原産、巨大たんぽぽの種!


 布に圧迫されて縮小していた綿毛が、ぽんっと軽やかな音を立てて広がりました。

 一気に広がった綿毛は、人間よりもずっと大きい。

 風にふわりと乗って、綿毛を掴んでいる私達も便乗して。

 落下速度が、一気に緩和しました。

 唖然とする勇者様の手も、タンポポの種に導きます。

 二人は正直、ちょっと厳しいかと思いましたが……どうやら大丈夫みたいですね!

「勇者様、命拾いしましたね!」

「まさに読んで字の如くな……!」

 未だ血の気が引いて真っ青な勇者様。

 余程精神的な圧力を感じていたのか、タンポポの綿毛を強くギュッと握りしめておいででした。

「綿毛は風に乗るままなので、方向を操作できないのがちょっと不便ですけど……まあ、無事に着陸出来てから先は考えましょう」

「リアンカが頼もし過ぎる……俺の存在意義って、一体」

「勇者様ったら落ち込まないで下さいよー。此処は魔境ですよ? 魔境に暮らし馴染んだ私の方が適応しているのは当然じゃないですか」

「なんでリアンカと一緒にいると、烏に襲われないんだろうな……」

「それは私からまぁちゃんの魔力が感じられるからじゃないですか? まぁちゃんは昔っから、移り香ならぬ移り魔力で私の安全確率を上げてくれてるみたいですから」

「……流石だ、まぁ殿」

  

 それからも、そんな調子、こんな調子で。

 川を渡ろうとすれば、勇者様が鰐に襲われ格闘戦に突入し。

 森を歩けば、勇者様が沢蟹の集団に取り囲まれて立ち往生。

 山を越えれば、勇者様が吸血ヒグマに求愛される……。

 中々の珍事に見舞われ続けました。

 その度に私を襲う笑いの発作との戦いも結構辛かったです。

 きっと明日は腹筋が筋肉痛を起こす……そんな気がします。


「リアンカ、日が暮れてきたけれど……まだ歩くのか?」

「え? 夜通し歩くって言いませんでしたっけ」

「あれは本気だったのか……。いくら魔境に馴染んだとはいっても、リアンカ、夜の森は危険だ」

「大丈夫ですよー? はい、燐光一夜茸」

「うわっ」

 夕焼けこやけで日が暮れて、山の向こうに沈む夕日が見えます。

 ですが私達の歩みは、止まりません。

 暗くなり出したのに、更に真っ暗な森へと突き進もうとする私へと、勇者様が待ったをかけます。

 だけど私は、歩みを止めるつもりなんてありません。

 代わりに森の入り口近くで採取した、大きな茸を渡して上げました。

「これは……きのこ?」

「燐光一夜茸です。傘が開ききったら一晩で溶けて消えちゃうんですけど、傘が閉じた状態ならランプ代りに使えるんですよ」

「確かに、淡く光って周囲が明るく見えるな」

 私と勇者様の手に、一つずつ。

 燐光一夜茸は大型の茸なので、かなりの大きさがあります。

 私はまるで雨傘みたいに、千切った茸の根元を持ちました。

「傘みたいだな」

「流石に雨は防げませんけどね。でもこうすると、とっても明るいんです。それに楽しいと思いません?」

「確かに……こんなに大きな茸を傘みたいに掲げていると、なんだか絵本に出てくる小人にでもなった気分だな」

「この近くに邪小人さんの集落ならありますけど、会いたいなら出会いの場をご用意しましょうか?」

「いや、会わない。会いたくないから。小人は小人でも『邪』なんて枕詞の付く小人に会うつもりは微塵もないからな? 余計な気を回して遭遇を演出☆とかしなくて良いからな?」

「そんなに念を押さなくっても……でも、偶然の遭遇までは私のせいじゃありませんからね?」

「止めろ。そのさも直ぐにでも会えるみたいな言い方は止めてくれ」

 頭を抱える、勇者様。

 私はそんな勇者様の手を引いて森の小道を歩き出します。

「リアンカ?」

「ほら、森は真っ暗ですから。はぐれたら困ります」

「そ、そうだな……」


「何しろ、この森は…………いえ、やめておきましょう」


「ちょっと待て」


 がしっと。

 勇者様が私の手首を掴みました。

 おまけにその歩みを止めてしまわれたので、私の足も自然と止まります。

「勇者様?」

「よし、落ち着け俺。そして待て、リアンカ。今の間は何なんだ」

「いえ、そんな……気にしないで下さい、勇者様。ただ………………絶対、に、私の手を離さないでくださいね……? はぐれたら、洒落になりませんから」

「よし、この森を行くのは止めよう」

「もう足を踏み入れちゃったんだから手遅れですよ……もう、遅いんです」

「それどういう意味だ、おいぃぃぃいいいいいいいっ!!」

「この森はね、勇者様? 一方通行、なんですよ」

「何があるんだ! この森に、何があるって言うんだー!」

「何もありません、何も……ただ、いる(・・)だけです」

「リアンカ、君、わざとかおい! 俺をからかっているのか!?」

 うふふふふー……と含み笑って。

 私は勇者様の手を握って駆け出しました。

 真っ黒暗闇の、森の中。

 仄かに茸の燐光だけが照らす、森の小道を。

 木陰からこちらをチラチラ窺っているのは、邪小人さん達。

 でも勇者様は、邪小人さんにも気付く様子はなく。

 何故か引き攣ったお顔で、私だけを見ているような気がします。

 私の手を握る勇者様の手に、ぎゅっと力が入って強張っていました。

 邪小人さん達が、森の闇の中で太鼓を叩き、法螺貝を鳴らし……

 異様な音楽が風の唸りと共に聞こえては、勇者様の肩がびくっと跳ねます。

 心なしか勇者様の目が若干、潤んでいるような……勇者様、どうしたんですか?

「り、リアンカ……この森は一体何なんだ?」


「邪黒闇の森ですが」


「予想以上に禍々しい名前だなぁおい……!」

「名物は邪悪な小人さん達の歓迎ダンスと闇角鳥の串焼きです」

「そして予想外に友好的な雰囲気が!?」

「今は寄り道する暇もありませんけど……いつか改めて遊びにきましょうか!」

「遠慮させてもらう!」

「ふふ、遠慮は無用ですよ!」

「真剣に拒否しているんだと、お願いだから気付いてくれ!」


 真っ暗ながらもどこか幻想???的な森の道。

 勇者様と二人で小走りに駆け抜けます。

 さあ、この闇を抜けたら、そこは……エーリューズニル地方、ですよ?


 私は一晩中、森の中で勇者様を引っ張り回しました。


 




森ではぐれたら、高確率で森の邪小人さんに拾われてしまうらしい。

木のうろや茸のおうちに連れていかれて、養子にされてしまうそうな……

支給される洋服は、三角帽子と大きなボタンが特徴的な上下オンリー。

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