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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
魔境にただいま☆
7/122

5.ぶらり村めぐり ~勇者様とセクハラ~

作中の伏せ字には好きな単語をお入れください★




 父を前に汗だっらだらな勇者様。

 見事に蛇に睨まれた蛙状態。

 それで良いんですか、人類最強勇者様(笑)

「その…お嬢さんを方々連れ回したことは、大変申し訳なく………」

「むしろ連れ回したのは私とまぁちゃん、むぅちゃんだけどね!」

「そもそもご厚意で、俺を心配してついて来てくれたものを長々と手元に留める行為は、あまりに不誠実だったと思います…」

「実際には連絡忘れてたのって、明らかにまぁちゃんの方だと思うけどね! 勇者様、連絡手段持ってないし」

「……………リアンカ、気持ちは嬉しいんだ。嬉しいんだけど、人が誠心誠意謝意を示している横で、茶化すようなフォローの入れ方は止めてくれないか?」

「じゃあ、不名誉な事実の数々を羅列して信用を失墜させた方が良いですか?」

「頼む。それだけは…それだけは止めてくれ!」

 途端、必死に懇願する勇者様。

 その必死さに、父さんの片眉がぴくんと跳ね上がります。

「えっと、勇者様………私、適当に言っただけで心当たりなかったんですけど、何か心に疾しいところでもあったんですか?」

「カマかけられてた!? これ何の罠だ…っ! というかリアンカ、本当に心当たりがないって言うのか…?」

「え、何かありましたっけ」

「………リアンカ、君は本当に女性の慎みや恥じらいについて学んだ方が良い」


「ほう、つまり一般的な女性が恥じらい、慎みを見直すようなことがあった…と」

「!?」

 

 あ、勇者様ったら…動揺の余り、父の存在を忘れてましたね?

 父の瞳は氷点下。

 凍えるブリザードの幻視の中、勇者様は震えて怯え惑う子羊のよう。

 父の厳しい眼差しに晒されて、今にも凍死しそうです。

「勇者様ファイト!」

「墓穴掘った最大の要因は何か、思い返してくれないか!?」


 そうして、問答無用とばかりに。

 勇者様は悲しい瞳でドナドナされて行きました。

 勇者様が生きて帰ってきますように…その前途に幸あれ!

 思わず合掌する私の横で、のっほほ~んと長閑な声。

「あら、お帰りなさい」

「あ、母さん! ただいま!」

「あらあら頬っぺが真っ赤で可愛いわ。イキイキしているのね。…広い世界は楽しかった?」

「うん、とっても…!!」

「そう、それは良かったわねぇ」

「………母さんは、父さんみたいに私の心配はしないの?」

「あら、心配してほしかった?」

「そうじゃないけど…私のこと大事にしてくれてるの知ってるよ。だけど全然心配しなかったってのも信頼されているのか気に留めてもらえてないのか…」

「勿論、信頼している方ですとも。貴女は昔から、私達の手がかからなくて…ずっと見ていなくても、自分達で方々遊び回っては、それでもちゃんと大丈夫だったんですからね」

「確かに母さん、私達が魔境中で遊び回っても全然心配しなかったけど…危険な場所は少なくても、人間の国々がある大陸の西側って、私にとっては未知そのものの場所なのに。それでも心配しなかったの?」

「お母さんは、貴女のことは頼もしいまぁちゃんや勇者くんが何とか見ていてくれると思って安心できたもの。やっぱり気心のしれた子が監督についていたら心配なんてする余地もないわ。特に相手はまぁちゃんだもの」

「そういうものなのかなぁ…」

「それに、ね?」

「…ん?」

 ほほほ、と優雅に笑う母さん。

 呑気で、平和で。

 ぽやぽやした空気に感染されて、私もぽやぽやしていたんだけど。

 何だか、意味深な物の言い方………。

 母さん…何か、含むものを隠していませんか?

 思わずじっとりと、疑問顔で眺める私。

 お母さん、何か隠していませんか…?


 じとーっと半目で見つめる私。

 そんな私に、母は全く悪びれずにさらっと。

 本当に何でもないように、さらっと寝耳に水なことを喋ってくれました。


「それに、もし万が一リアンカちゃんに何かあって、身体に傷でも残ろうものなら………その時は責任を取って、まぁちゃんか勇者くんのどちらかにお嫁さんにしてもらうだけだし♪」


「ぶふぁっ!?」

 思わず吹き出し、そのまま急きこんじゃう私。

 やだ、勇者様みたいな反応しちゃった…!

 いえいえ、それよりも、母さん!

 なにそれなにそれ、なにその黒い思惑!

 は、初耳なんですけーどー…っ!!

「か、母さぁん!!?」

「うふふー♪ まぁちゃんも勇者くんも、どちらも格好良くて素敵よねぇ。義息子にしちゃいたいくらいには❤」

「え、ええぇぇええええっ!?」

「あら、貴女は格好良くないって思うの? あの顔に対してそう言えちゃう?」

「え、いや、い、言えないけど…っ! というか待って、待って母さん! なにその思惑! まぁちゃんや勇者様に無断で何決めてんの!?」

「あら? 人の娘を預かるんだから、そのくらいの覚悟はあってしかるべきよ?」

「う…っそれは確かにそうかもしれないけど!」

「まぁちゃんも勇者くんも格好良いし、お母さんはどちらでも大歓迎よ❤ あんな格好良い男の子が欲しかったのよねぇ…」

「うわぁ凄く期待されてるー…一人娘の弊害がこんなところで!」

「あの二人との外出なら、出先でどんな過ちを犯そうと怪我を負おうとお母さんは責めないからね? リアンカちゃんも結婚したくなったのねぇっていう意思表示と見なして、ガンガンごり押しで結婚させてあげるから、安心して取り返しのつかない事態に陥ってきなさい」

「そんな遠回しに脅されるくらいなら、素直に直球で『危ないことはするな』って言われた方が良かったな…」

「脅し???」

「え、もしかして本気で推奨されてる…?」

「リアンカちゃん、お母さん本気よ!」

「聞くなかった意思表明…!!」


 ………うん、今後二人と外出する時は、今まで以上に身辺に気をつけようっと。

 下手に怪我でもしようものなら…

 私の人生、まぁちゃんか勇者様のどちらかを巻き込んだ強制ルートに突入しそうな気配がひしひしに身に迫って来るのを感じます。

 おっとりのほほんな我が母の、かつてなく輝く目が怖い。

 私はそっと母から目を逸らし、勇者様の連れていかれた方角へ遠い目を向けるのでした(マル)



 どこに連れていかれていたのかよくわかりませんが、勇者様がお戻りになったのはそれから3時間後のことでした。

「勇者様、無事の生還おめでとー!」

「ああ、ただいま」

「え!? ゆ、勇者様からのツッコミが入らない、な、んて…っ!?」

「そんなレベルで祝われても気にならない恐怖体験だった…」

「勇者様…一体、どんな目に遭ったって言うんですか」

「……………それだけは、何があっても言えない」

 そう言う勇者様の顔は、何故か真っ赤でした。

 え、何やってたの?

 思わず怪訝な目でじっとりと見上げてしまいます。

 すると、勇者様の顔がますます真っ赤に………

「えーと、勇者様?」

「なっななな、なんだ!?」

「…見るからに挙動不審なの、わかってます?」

「……………」

「一体何をやって来たんですか」

「………ペナルティとして、俺の精神に一番打撃の強い雑用を」

「勇者様に効く、打撃力のある雑用?」

 それって一体何でしょう?

 首を傾げる私。

 私の面前で、勇者様はまるで初恋を覚えた乙女の様に恥じらっておいでです。

 うん、ぶっちゃけ可憐ですね。

 私よりずっと初々しい魅力を放出なさっています。

 うん、本当に何なのでしょうか、この恥じらいぶりは。

 でも勇者様は、私が正面から尋ねても素直に返してはくれなさそう…。

 ………うん、仕方ないよね!

 ここは、真相を知っているだろう相手にお尋ねしてみましょう。

「父さん、勇者様の様子が変なんだけど?」

「ふむ…ここまで影響を及ぼすとは。ある意味、予想以上だ」

「えっと何やらせたの?」

「大したことは何も…強いて言うのであれば」

「強いて言うのであれば?」

「忙しくて手が足りないという声があったので、


魔王城(おとなり)のヨシュアン君に副業の手伝いとして貸出したくらいか」


「「……………」」


 えっと、それって………その、思わず口籠っちゃうけれど。

 それって、それって…もしかして。

 えーと………ピンク的な?

 濃厚どピンク絵巻草紙的な、大人の絵本、の…?


 私は恐る恐る、何となく怯えてしまいそうな気持を堪えて、そろりと勇者様のお顔を見上げてみました。


 勇者様のお顔は、あまりに真っ赤で可哀想なことになっていました。

 何させられて来たんだろう。


 私がじっと見上げているのが、あまりに居た堪れなかったのでしょうか。

 勇者様は両手でご自分の顔を覆って俯いてしまい、弱々しい声で呟きました。

「………もう女性のこと、真っ直ぐに見られないかもしれない」

 勇者様…貴方は一体、何を目にしてこられたんですか………。

 

 具体的に聞きだしてみると、作品の制作を手伝った訳ではないようで。

 だけどだからといって、精神的負担の軽い作業でもなかったのでしょう。

 何しろ、画伯の今まで世に送り出してきた蔵書の数々の分類別整理と、画伯が創作活動に用いた参考資料の整理だったそうですから………

 いや、本当に何を見ちゃったんでしょうね。

「勇者様、敢えて聞きます」

「頼むから聞かないでくれ」

「わぁ、コンマ三秒で即答ですかー………で? 何を見ちゃったんですか?」

「だから聞くなって言ってるじゃないか…っ!!」

「まあまあまあまあ、うん、喋ったら楽になると思うな! 言っちゃえ☆」

「………リアンカさん? あの、その手に握っている試験官は何だ?」

「【全身に目玉の生える薬】ですが、何か?」

「ちょっと待てぇぇええええっ!!」

「さて、勇者様? どうぞ胸の内に秘めた悩みをどーんと打ち明けちゃってください! ええ、どーんと!」

「く…っ」

「で? 何を見たんですか?」

「………………………くそっ」

 勇者様はとても、それはもうとても言い辛そうなご様子でしたが…

 でもやがて、何故か観念してくれちゃったようで。

 ええ、本当に何故か(笑)

 やがて観念した勇者様は、心の痛みを堪えるような、辛そうな顔で。

 渋々と、ものすご~く躊躇いがちに勇者様が口にしたのは。


「鋭角に抉りこむように、ダメージを受けたモノは沢山あるが、」

「ええ、沢山あったでしょうね。それで?」

「一番キツかったのは……………『洒落にならない女体化シリーズ、NO.89』」

「なんばー………八十九って、ちょっと多すぎません?」

 もう、ヨシュアンさんってば見境ないんだから!

 思わずの苦笑いで、画伯ったら仕方ないなぁなーんて思っていた訳ですが。

 うん、次の言葉を聞いて、勇者様に本気で同情しました。

 勇者様はこちらが本気で心配してしまうくらい、常なら白いお顔を薔薇の様に赤く染めて、苦しそうに仰ったのです。


「……………『思いっきり***しちゃう☆ 桃色女勇者の****………』…って、それ以上言えるかぁぁぁああああああっ!!」

「………え?」

「ぅぅ…っも、もう、二度は言わない! 言えないから!!」

「…………………わー…」

 

 勇者様の言葉の一部は、あまりに小声の上に言い難い単語なのか凄くぼそぼそとした発音で、何と言っているのか全然聞き取れませんでしたが…

 多分、聞きとれなくて良い部類の、きっと卑猥な言葉でしょう。

 でも、そっか…そうかー………

 画伯…勇者様が魔境を離れている半年の間に、とうとう完成させちゃったんだ。


 勇者様をモデルにした、『洒落にならない女体化シリーズ』の新作を…。


 そしてそれをご自身の目で見つけちゃったんですね。

 ああ、なんて可哀想な勇者様…なんてえげつないお仕置き☆

 軽くトラウマレベルの可哀想さだよね?

 父さん………確かに心の清い勇者様には大打撃だと思うよ?

 でもね…それ、セクハラだと思うんだ。

 その不運ぶりを思うと…ああ、顔が引きつっちゃう。


「………リアンカ、顔が笑ってるぞ」

「わあ、ついうっかり☆」

 


 そんな、勇者様が可哀想だった昼下がりのハテノ村。

 どんまい勇者様☆


 




勇者様、アルディーク親子からセクハラに遭う…の巻。

セクハラに遭うこと事態は、女難勇者様にとっては割と頻繁に結構あること。

しかし魔境でセクハラされるのは珍しい事態かもしれない。

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