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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
試合開始のゴングが鳴った
62/122

60.予選(魔法なし)の部:逆鱗

ついに、とうとう。

奴が直接制裁を受ける局面が巡ってきつつあります。

果たして彼の運命は……!?




 さて、どうしたものか。

 

 私は少し、困っていました。

 なんだか成り行きで、サルファから勝ち星を奪ってしまった……ことは、ちっとも胸が痛みませんが。

 でも私が試合を勝ち進んでしまっても困ります。

 だって私は、戦闘能力激低なんですから。

 そもそも強さを必要としてもいませんし……誰かが戦う時にお手伝いとして補助をするのなら、まだしも。

 私一人が単品で戦おうだなんて、いささか無理が過ぎるというものです。

 

 『武器』として【魔王(まぁちゃん)】の使用が認められるのなら話は別ですけどね?


 なので折角のお話ですが、棄権させてもらおうと思います。

 試合の消化もかなり進んで、次の試合日程は今日の午後。

 その試合で本選に進むBブロック代表が決まるとのこと。

 Bブロック予選の決勝が片方の棄権なんて終わり方じゃ盛り上がらないと思いますが、敢えてわざわざ盛り上げて差し上げる必要性も感じられませんし、楽しみにしている方々には諦めてもらいましょう。

 この上はせめて期待する時間を少しでも短くさせてあげようと、私はすぐに棄権を伝えるべく運営の詰め所に向かったのですが……


 その途中で、私は見てしまったのです。

 予選、魔法なし個人戦の部のBブロック対戦表……つまりは、次の試合の相手を告知する張り紙を。

 何気なく見上げて、棄権しなかった場合に次の試合で誰と戦うことになるのかを確認したのが運の尽きでした。

 ん? 誰の運がですかって?


 勿論、対戦相手のです。


 そう、私は見てしまったのです。

 そして聞いてしまったのです。

 試合の結果予想による、悲喜交々。

 賭け事に熱中する方々や、自分の次の試合相手を確認する声に混じって聞こえてきた、次の試合相手に関する噂話。

「おい、聞いたかよ? この人間(・・)の話!」

「どいつのことだ? 人間なんてそこそこいるし、主語言えよ」

「こいつだよ、こ・い・つ! ほら、順当に行けば次の試合で魔王陛下の従妹君と当たるヤツ」

「そいつ終わったな」

「終わる前に話聞けって!」

「いや、せめて屍になる前に冥福を祈ってやろうぜ……Amen」

「はっ……神なんざ信仰もしてねぇくせに何言ってやがんだか。けどな、この話を聞いたら祈ってやろうなんざ思わなくなろうだろうぜ」

「は? なんだ、そんなに嫌な野郎なのか?」

「嫌な野郎っつうかなー……こいつ、どうやら人間の小国で騎士として叙勲されてるらしいんだけどよ」

「……それじゃあ、人格に問題はないんじゃね? それとも高慢で鼻もちならねーとか?」

「性格だのなんだのは問題じゃねーよ。問題は、素行の方!」

「なんだよ、何かやらかしたってのか?」

「ああ、こいつな? なんと、羨まs……けしからんことに、


魔王城の衛生兵ラヴェラーラちゃんにセクハラ敢行しやがったんだ!!」


「な、なんだってー!?」

「際どいなんてレベルじゃねぇ……モロ痴漢的ボディタッチを実行した挙句、ラヴェラーラちゃんを泣かせたらしい!」

「なんてヤツだ!! ゆ、許せねぇっ!」

「本当だぜ! あの痴漢野郎……!」

「……この上はリアンカ嬢が惨たらしい結果を奴にもたらしてくれることを祈ろうぜ」

「ああ、Welcome 惨劇」

「俺らの無念を昇華してくれ、リアンカ嬢……!」


 若干、噂話に興じていた2人組が私のことをどう認識しているのか気になりましたが……今はそんなこと、問題じゃありません。

 そう、それよりも重要な案件が私の前に立ち塞がったのです。

 私はふつふつと胸の奥から湧き上がってくる、激情ともいえる衝動にたゆたいました。

「……リアンカ? お前、そんなに慈愛に満ちた顔で……どうした」

「まぁちゃん……ふふふ?」

 対戦表を見上げれば、サルファの名前が潰されて私の名が。

 そして対戦相手の欄に、見知った名前が書かれています。


  『 騎士ベルガ・モード 』


 ええ、どっかで見た名前ですね!

 具体的に言うと、かつて私に屈辱を味あわせてくれた名前です。

 自分で言うのも何なのですが、私は謝罪をもらえるまでは受けた(おん)を忘れないタイプですよ?

 俄然、相乗効果で私のやる気が増していきます。

 いつのまにか私の頭からは、棄権の二文字など消え去っていました。

「騎士B……Bの分際でラーラお姉ちゃんを泣かせるなんて身の程知らずにも程があります。かつてラーラお姉ちゃんに振舞ったという無礼行為も合わせて、許すまじ……これは棄権なんてしていられませんね」

 私は、慕うおねえちゃんが泣かされたと聞いて頭に血が昇っていました。

 そんなことがあったなんて……私がいない場面でのことであったとしても、把握できていなかったなんて不覚!

 この落し前をつけずして、どうして怒りを収めきれましょう。

「こうしちゃいられません……! 正々堂々正面から叩きのめす機会を折角与えられたからには、ちゃんと活用しなくては」

「あ? ……リアンカ、お前、棄権するんじゃなかったのか?」

 まぁちゃんや他の皆が、怪訝そうに見てきます。

 でも今は構っているような心的余裕もなく。

 むしろ未だかつてなく、戦意が燃え盛っていますので。

 衝動に突き動かされるまま、私は早足に歩き始めました。

「まずは運営に行かないと!」

「やっぱ棄権すんのか?」

「違います! 運営に、武器の規定(・・・・・)について確認する必要があるからだよ、まぁちゃん!」

「え、マジで出場すんの?」

 急に意見を変えた私に、まぁちゃんはとっても不思議そうにしていました。

 でも碌に武器らしい武器も扱えず、戦う手段のない私のことですから。

 戦闘に関する選択の幅を確認する意味でも、規定を曖昧にしている訳にはいきません。

 どんなモノまで武器として使用許可が下りるのか、きっちり使える手札は把握しておかないと!

 重ねて言いますが、私はかつてなく戦意に燃えていたんです。




 試合開始までの、限られた時間で。

 私は最大限の努力を以て、用意できる限りを準備万端に整えました。

 憎いあん畜生を、叩き潰す為に。

 運営にちゃんと確認して、武器(・・)だって揃えましたから!

 

 そうして、試合が始まる訳です。


 魔法なし個人戦の部、予選Bブロックの覇者を決める戦いが。


 私がこの場にいるのは限りなく成り行き同然のことでしたが。

 この機会に感謝して挑みます。

 相手は騎士……馬に乗っていない現状は、接近戦こそを得意とする。

 だったら私の勝機は、如何に相手を近寄らせずにいられるかにかかっています。

 逆に近寄られてもすぐに試合終了とならないよう、準備はしましたが。

 かつて奴のご両親には随分と良くしてもらいました。

 でも今回は……


『予選Bブロックの最終戦、本選に進むのは誰なのか……! 今後の行く末を決める最後の戦いを征するのは!』

 

 試合前に場を盛り上げようと、賑やかな審判の声が聞こえます。


『それではBブロック最終戦、選手の入場です!!』


 ――さて、それでは騎士Bの試合を終わらせてこようと思います。

 一瞬、その役目はアルビレオさんがやりたいんじゃないかとも思いましたが……聞くところによると、騎士Bは他の部門にも出ているそうなので。

 この試合くらいは、譲ってもらっても構いませんよね?


「君は……」

 審判の指示に従い、試合場に上って来た騎士Bが目を見張ります。

 どうやら私の姿を見て、驚いている様子。

 私も新鮮な驚きを感じていました。

 ――うわ、騎士Bが壮健なとこ久々に見たよ……と。

 うん、言っては何ですが半年ぶりに彼が立って歩いている姿を見ました。

 凄い! 凄い新鮮!

 あれから何度かラーラお姉ちゃんのとこに遊びに行った際、医療棟の寝台に釘付け☆状態の彼は見ていたのですが……。

 その印象が強すぎて、包帯の一つも巻いていない姿に違和感を覚えます。

 腕か足かに包帯の一つも巻いていたら、情けをかける気が一っ欠片もない今の私は狙って攻撃しちゃいそうな気もしますが。


 でも、こうやって五体満足な方が良いかも……。

 

 そっちの方が、這い蹲らせ甲斐があるというものです。

 

 私が脳内で割と酷いことを考えているなんて、露知らず。

 愕然といった様子の騎士Bは狼狽中。

 眉をぎゅっと寄せて、厳しい顔をしています。

「確か、アルディーク嬢だったか……君みたいなお嬢さんがなんでこんなルール無用の試合に参加しているんだ。危ないじゃないか」

 と、言った具合で。

 そんな、まるで私を案じるかのようなことを言うのです。

 ……何だか勇者様以外からは、新鮮な反応ですね?

 まぁちゃんだったら心配する以前に、私が危険行為に望む時は自ら率先して関わることで私の身の安全を確保、危険を遠ざける方向に動きますし。

 こんな風に私の身を案じるという方向で反応を示すのは、身の周りでは本当に勇者様ぐらいだったんですけれど。

 多分、騎士Bの印象としては、去年の狩祭(「此処は人類最前線4」)で私を保護(笑)した時のイメージが強いんだと思いますけど。

「悪いことは言わん。君の様な女性がどうやって此処まで勝ち上がってこられたのかは知らないが……前の試合では、かなりのイレギュラーが生じたと聞いている。もしも実力で上がってきたのでないのであれば、ここで試合に挑むのは止めるんだ」

「余計なお世話です! それよりも私は怒ってるんですからね!」

「は……?」

「私を怒らせる心当たりなんてないって顔ですね……でも私じゃない人には心当たりの十や二十あるでしょう!?」

「アルディーク嬢? 何を言って……」

「今ここで宣言します! 騎士b……ベルガ・モードさん!


私が勝ったら、マッパ……はお姉ちゃんがきっと嫌がるから…………マッシュルームカット+鼻眼鏡でラーラお姉ちゃんに土下座してもらいますからね!! 」


「は…………はぉ!?」


 気付こう、騎士B。

 確かに私は戦闘能力が皆無と言って良いくらいです。

 ちょっと薬師なんてやっちゃってますけど、所詮はただの村娘。

 でもそれでも私だって、魔境育ち。

 例えまぁちゃんに庇護されてぬくぬく育っていたとしたって、一筋縄で終えるつもりはありませんよ!

 容易く私に勝てるなどとは思わないことです。

 ルール無用の試合に出ている時点で、貴方の心配は無用の長物。

 むしろ魔境の基準をあれこれ駆使して、試合前から反則ギリギリに走る気満々です。


 むしろ今の私は怒っています。

 だから貴方は、自分の身を案じた方が良いと思いますよ?



 

 そして、私は。

 難しい顔をした騎士Bをぴっと指さして。

 審判が試合開始を告げるや否や叫びました。


「――『カリカ』ちゃん、GO!!」


 瞬間、獰猛なネコ科の珍獣が解き放たれた。







 リアンカ・アルディーク

  武器:カリカ

      ???

      ???

      ???

      ???

      ???

  防具:エプロンドレス

  アクセサリ:魔王の加護




 次回、騎士Bを酷い目に遭わせます。

 でも具体的にどんな目に遭わせるかは思案中。

 ↓現時点での惨劇候補は以下の通り

  a.腹を貫かれる

  b.喉笛を引き裂かれる

  c.頭にキノコが生える。

  d.耳からお花が咲く

  e.玩具にされる


 さあ、やるならど~れだ♪


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