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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
魔境にただいま☆
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4.ぶらり村めぐり ~村の中でENCOUNT!~

リアンカ

「勇者様は珍種で貴種で、希少種ですよね!」

勇者様

「リアンカ、ツチノコと同列に語るのは止めてくれないか………」


勇者様、村の中で(ある意味)最強の敵と遭遇するの巻。



 めぇちゃんが言いました。

「ところでそこな殿方だれ?」

 めぇちゃんの眼差しは、真っ直ぐモモさんを射抜いてました。

 …なんか若干ハンターの目に見えるけど、何か不審なことでもあったかな?

 あ、そういえば紹介してないや。

 むぅちゃんと目を見合わせると、『リアンカ(わたし)に任せる』という目配せ。

 うん、任されましたー。


 と言う訳で、私がモモさんを紹介します!

「めぇちゃんめぇちゃんめぇちゃん!」

「なに、リアンカ?」

「こちらはモモさん! ピンクの首輪がチャームポイントな、私達の専属『下僕』に堕ちた本職忍者だよ☆」

「リアンカ、その紹介物凄く偏ってないか!?」

「そう言いつつも、勇者様も否定しないあたりが嘘を言っていない証拠かな!」

 私、基本的に正直者だと思います。うん、思いますよ?

 ただ、言葉を選ばない…ううん、選びすぎちゃってるだけで。

「え、下僕?」

 めぇちゃんが目をぱちくりとさせました。

「ほら、リアンカ。ほら! いきなりとんでもないことを言うから、メディレーナさんが驚いているじゃないか」

「甘いですね、勇者様…めぇちゃんとの交流が薄い故の、かいかぶりですよ」

「うん。僕らの同僚…三人ワンセットで呼ばれる意味をよく考えたら?」

「え」

 私達の言葉に、固まる勇者様。

 自分の紹介という状況に緊張しているのか、固唾を呑むモモさん。

 そんな彼らを前に、めぇちゃんは首を傾げて問うてきます。

「忍者…ってことは、南方小国家群の出身?」

「そうそう、そっちの方じゃないかな。正確にどこかは聞いてないけど」

「そう………じゃあ、魔境とは関係のない土地で育った人なのね」

「うん、そうみたい。今後の永住は半ば決まったようなものだけど」

「へぇ…?」

 めぇちゃん、とっても興味深そうだね。

 何だか矯めつ眇めつしつつ、モモさんの全身をたっぷりと見回しています。

 じっくりと見定めるような目は、吟味という言葉を思い起こします。

 やがてめぇちゃんは、一つうんと頷きました。

「下僕ってことは、私達の手元で雑事に専念してくれるってことよね?」

「うん、人権侵害ギリギリのお願いもイケるよ☆」

「まあ素敵。何をお願いしようかしら」

「って、おい! 人権は守ってやろうな!?」

「ちなみにギリギリアウトの方向で」

「リアンカ………自分だってそんなことをされたら嫌だろう? もう少しモモのことも労わってやろう?」

「大丈夫☆ モモさんはその気になれば従順なイエスマンになれるから!」

「まあ…忍ですから。大概の事には耐性もあるし、それこそ耐え忍ぶ自信はある」

「へえ? 私達を相手にそんなことが言えるなんて………頼もしいわね?」

「半年間私達と一緒に居てへこたれてない時点で、おススメだよ♪」

「リアンカ、堂々と何を言ってるんだ!? モモも、こんなタイミングで肯定するんじゃない…っ! 本気でどんな目に遭うかわからないから!」

「勇者様、私達のことそんな目で見てたんですね…悲しいです。まあ、概ね理解されているんだなぁとも思いますけど」

「被害の第一人者が言うと説得力が違うね」

「誰が第一人者だ、誰が………そんな物になった気はないからな?」

「………勇者さん、自覚ないんだ」

「しっ 違うよ、むぅちゃん。勇者様は認めたくないだけなんだよ」

「ああ、なるほど?」

「貴方達、随分と仲良くなったのね。リアンカは元から勇者さんと仲良かったけど………ムー、貴方、半年で随分勇者さんに懐いたじゃない」

「これで懐いてたのか…!?」

「心外だね、メディレーナ。勝手なことを言わないでよ」

「あら、外した?」

「良くて、僕は勇者さんを興味深い新種の超人類くらいにしか思ってないよ」

「…って、おいぃぃいっ! その『珍種発見!』的な言い方はわざとか!?」

「珍種発見」

「…人のことを指さすのは止めよう。な? そして俺は珍種でも何でもないから」

「そうだよ、むぅちゃん。勇者様は珍種も珍種、珍種の中の『貴種』なんだよ。珍種と一言で片づけたら、精々ツチノコ程度のレベルだって皆が誤解するでしょ!」

「フォローかと思ったら全然フォローになってない…!! むしろ凄い勢いで貶められてる気がするのはなんでだ!」

「あれー…本当に随分と仲良くなったのね、貴方達?」


 私達は、声を上げてぎゃいぎゃいと。

 やがて勇者様が叫び疲れて虚ろな目を始めるまで、じゃれ合い続けたのでした。



 打って変わって、その後。

「そう言えばリアンカ、家には帰ったの? 村長がやきもきしながら、家の前で娘の帰りを待ってたらしいけど」

「「「あ」」」

 ………というやりとりが、あったので。

 私は急遽、家に向かうことになりました。

 そういえば、魔境に戻ってからまだ家に顔を出していません。

 お父さん、ずっと待っててくれたのかな………ちょっと、申し訳ありません。


 元々薬師の房に寝泊まりしているむぅちゃんは、放流して。 

 モモさんはめぇちゃんが欲しいと言っていたので、めぇちゃんに任せて。

 現在、私と勇者様は村の中をまったりと歩きながら家に向かっている最中です。

 ちなみにせっちゃんは既に魔王城に戻った後。

 ロロイとリリフは、実は私達を魔王城の前に降ろしてすぐ、【竜の谷】へ大急ぎで戻っています。

 急ぎ過ぎだとも、私達の家に寄ってご飯くらい…とも思いました。

 思いましたが、本人達が…

「側にいる間、みっちりまぁ兄さんやタナカさん、度重なる試練に鍛えられてきましたから! 親身に指導していただきましたから!」

「我ながら、この半年で結構実力も成長して強くなったと思う」

「だから」

 だから、と。

 二人が口々に言うのです。


「だから、【竜の谷】に戻って残りの試練を受けてくる」

「どこまでやれるかわかりませんが…波状攻撃のパターンも増やしましたし、私の方向音痴も少し…少し、マシになりましたし!」

「これも成長の第一歩。今よりもっと強くなって戻ってくるよ」


 ………元々、二人は成長の試練を受ける為、真竜族の里で修行中の身。

 本来なら、今のこの村にはいない筈の二人です。

 ちょっと寂しいけど、そう言われて私が引きとめる訳にはいきません。

 なるべく早く帰ってくると、そう言い置いて。

 二人は手に手を取って、帰って行きました。


 タナカさんを、連れて。

 

 ………何故に?

 そう思ったのは、きっと私だけじゃないと思うけど。

 竜種の頂点に立つ真竜的に、亜竜からここまで規格外に育った珍しい個体(=タナカさん)を、是非とも他の真竜にもご紹介したいとリリが言い出しました。

 というかロロは基本的に自分にとってどうでもいいことには我関せずなので、他に言い出すような者もいませんでしたけど。

 亜竜は強くならないという、里のお爺さん達のお説教臭い言い分をぶち破るのだと、とても朗らかに笑っていました。

 ………うん、何か色々と欝憤が溜っていそうな笑顔だったかな。


 そんな訳で。

 いま、私達はたった二人。

 てくてくと、村の中を歩いている。

 二人きりの、帰還です。

 半年ぶりだけど、父さんも母さんも元気かな…?


 その答えは、姿と態度で示されました。


「リアンカ!」


 …って、うおわぁっ?

 ほ、本当に父さんったら家の前で待ってる…!!

 

 私達が村に戻ってから、なんやかやで、既に二時間が過ぎていて。

 その間、ずっと家の前で待ってたの…?

 父の愛を目に見える形で示されて、流石に後ろめたいというか…怯みました。

 うわぁぁぁ…ごめんね父さん、罪悪感!

 村に戻って直ぐ家に向かわなかったことが、ちょっと申し訳なくなりました。

 普段何も言わないけど、私のこと大切にしてくれてるんだなぁ…

 こうして私のことをしっかり家で待っている姿を見ると、うわぁってなります。

 うわぁ…私、大事にされてる!


 だから。

 うん、だから。

 私を待っていてくれた、お父さんが相手だから。

 私は嬉しくなって、満面の笑顔で大きく手を振りました。


「おとうさーん、ただいまぁ!」

「………遅い。母さんが待ち草臥れている」


 だけど父さんのお言葉は、ちょっとつれない。

「え、えぇぇ…ごめんね、父さん!」

「母さんにそれは言いなさい。待っていられなくて、先に戻ってしまった」

「お母さんにもちゃんと謝るよ!」

「……………次から気をつけなさい」

 それじゃあとも言わず、そのままどこかに行こうとする父さん。

 私は慌てて、父さんの服の裾を掴みました。

「ま、まって、父さん! 私、ただいまって言ったよ!」

「………おかえり、リアンカ」

「うん、改めてただいま!」

「ただいま戻りました、村長さん」

「……………」

「そ、村長さんっ?」

 私に便乗して、隣で頭を下げる勇者様。

 帰還の挨拶に、何故か父が応えません。

 慌てたのか、焦るのか…勇者様が「!?」って顔してるんですが。

 半年前まで友好的で鷹揚だった父から、久々の再会で無言の眼差しを受ける。

 父は、感情を感じさせない凪いだ表情をしていました…。

「村長さん………その?」

 疑問に満ちた、勇者様。

 父はゆっくりと、本当にゆっくりと口を開きました。

「勇者くん…質問なんだが」

「はい」

「人の娘を数週間…数ヶ月、半年も連れ回し、その間、一切の消息を知らせない相手をどう思う?」

「…………………」

「未婚の少女を連れ出す時点でどうかとも思うが、連絡の一つも無かったのはどういった事情からなのか………そんな事態に陥った時、キミはどう思う?」

「…………………………………………………………」

 わあ、勇者様の額から凄い滝汗ー…。

 父は、じっと勇者様を見ています。

 まるでその反応、一挙一動を見逃すまいと。

 それを見定めることで、何かを掴もうとするように。

 勇者様…彼は、何かの試練に直面したかのような硬い表情で。

 きゅっと食い縛った口元は、何を思って引き結ばれているのでしょう。


 妙に緊迫に満ちた、緊張感に包まれている我が家の玄関先。

 そう、この状況を何かに例えるとしたなら………


  !! ENCOUNT !!

    村長さんがあらわれた!

    村長さんのじっと物言いたげな眼差し!

    勇者様は呪縛されて動けない!


 そんな状況下、果たしてどう切り抜けるのでしょうか。

 さあ、勇者様? どうしましょう?






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