49.予選(団体戦):謎(笑)の覆面集団、爆誕
もしかしてピクニック回かと思われたひとー……
→ 残念、はずれです!
さあ、予選の試合がはじまりましたよ?
篩い落としも兼ねた予選初日の障害レースも終わり。
かなりの数がどうやら魔族さん達の用意した障害の前に敗れ去っていたようで。
それなりの数に調整された参加者さん達の予選が本格的に始まりました。
そう、ようやっと『試合』らしくなったというべきでしょうか……
そんな最中、勇者様はかなりの激務と化した毎日を過ごしておいでです。
理由は言うまでもありませんね?
原因は、全ての部門に参加者として名を連ねているから。
複数部門への参加者はあまり珍しくありませんが、勇者様のように部門を網羅している人は少数派。
それも殆どは魔族の人で、多種族からの参加者ではかなり珍しいといえましょう。
一応、そういう人の試合日程が重ならないよう、予選の日程は部門ごとに日を分けてあるんですけれど……
つまり勇者様は、連日何かしらの試合が組まれた日程をこなしているわけです。
わあ、勇者様が擦り切れちゃう。
余分な暇など皆無です。
ちなみに予選一日目に取り付けたピクニックのお約束は予選が全部消化されてから、本選が始まるまでの間にある空白期間を予定しているので問題はありません。
それまでに勇者様が擦り減り過ぎて消滅しないことを祈るばかりです。
勇者様、本当にお忙しいですからね!
昨日は個人戦(武器なし)の部、一昨日は個人戦(武器・魔法あり)の部……と連日様々な分野で武闘大会出場に臨む猛者達と激戦を繰り広げておいでなんですから。
本当に色々な人が……中には異色性の強い挑戦者達が勢揃いで。
目にも鮮やかに、見事な試合運びを披露しているようです。
勇者様が頭一つ飛び抜けて強いのは確かですが、それ以外にも様々な戦士達が集結し、個性的な戦いを見せてくれる。
試合の観戦を楽しみにしている純粋な観衆達にもそれぞれに贔屓の選手達が出てきて、自分の応援する選手が試合を勝ち抜くかどうかで一喜一憂。
見事な試合を見せる他の選手を見て研究する挑戦者達も、感心したり慄いたりと、暫く話題は試合のことでもちきりのようです。
こうして人々の中に紛れて耳を澄ますだけでも、色んな選手に関する噂話や予想が耳に届いてくるんですから。
「おい、聞いたか? 紅薔薇のこと」
「ああ。試合の相手が毎回試合前に求愛しちまうんだろ? 一体どんな顔をしてるってんだ……」
「あの距離に、顔を覆うヴェールだろ? 対戦相手くらい近くに寄らないと顔なんてわからないって」
「一言も喋らず、ゴミを見るような蔑んだ目で見下してくるとか……まあ、ご褒美だっつって試合の相手は喜んでるらしいが」
「噂じゃ、紅薔薇に勝てたら付き合ってくれるとか……」
「マジか!」
「はぁあん……白百合の騎士さまぁ❤」
「この間の試合、凄かったよね!」
「あの絶対不可侵を思わせる凛とした佇まい! しかも紳士的な態度! 顔が見えないくらい何でもないわ……雰囲気イケメン、大いに結構よ!!」
「でもスタイルすっごい良いよねぇ……大きな帽子を被ってるから、観客席から見下ろしても顔なんて見えないけど」
「唯一見えるのは顎の線くらいね。でも、気品溢れる輪郭だと思わない?」
「あんな格好良い方が白馬にでも乗って現れたら……」
「やだっ やめてよ! 想像したら胸がきゅんきゅんしちゃうじゃない」
「あの方から花の一つも捧げられてみたいわぁ……」
「やだぁっ そんなことされちゃったら……私だったら身悶えて挙動不審になっちゃう!!」
……人々の注目を集めずにはいられない、色んな選手がいるようです(笑)
注目を浴びて、話題をさらって。
みんなの関心を集めれば集めるだけ、賭けの配当金が偏って行きます。
様々な思惑も込みで、みんなは試合の行方を見守りました。
そして、今日は。
個人の武力が目立つ魔族には珍しい、団体戦の部。
その予選一回戦が行われようという日で。
私とせっちゃん含めた愉快な仲間達の、武闘大会デビューの日でもあります。
そう、私達が出場するのは団体戦の部。
勇者様とは万が一にもはち合わせないよう……裏から手を回して、時間は丁度勇者様の試合と克ち合うように調整しています。
私達が参加するのは団体戦の部Aブロックの一試合目。
勇者様が参加するのはBブロックの一試合目。
ほら、こうやって試合の時間を合わせれば見られる心配も皆無です!
……代わりに、私も勇者様の試合が見られないんですけどね?
仕方がないので、まぁちゃんに映像の記録を頼んであります。
「リャン姉様! いよいよはじまりですの!」
「うん、そうだね。せっちゃん☆」
チーム名はある意味で直球に、『おうまい』。
魔族の王妹であるせっちゃんを意識した名前で。
なのにリーダーは何故か私だったりします。
せっちゃんと私の二人だけで参加するのも勿体無い。
そう思ったから、心当たりに声をかけて更に三人の仲間を追加しました。
結果的に五人で参加……ってなったんだけど。
私が最年長って訳でもないし、リーダーシップがあるって訳でもない。
それなのに、なんで私なんだろう。
何故に?とも思ったけれど、他の仲間にもそれが適任と押し切られました。
そのままよいよいと準備に駆り出され、気がついたら有耶無耶にされていたような気がする。
でも準備は準備で楽しかったので、疑問に思いつつも「もういっかな」という気がしなくもない。
折角のチーム戦なんだから、衣装は同じモチーフで統一しようとか。
どうせだったらいっそ御揃いで衣装作るか、とか。
全く戦闘に関係ない準備だったことは予断です。
相談したら、友達の中でも美意識の高いめぇちゃんがこれまた素敵な衣装をデザインしてくれたから……
ついつい、衣装製作の余裕なんて皆無だったはずなのに、張り切って針と糸を手に取ってしまいました。
立体縫製による、ボディラインがはっきりと出るくらいに体に沿ったシルエット。
派手な色使いなのに、不思議と調和する色彩感覚。
デザインしためぇちゃん曰く、『チャイナドレス』という少数部族の民族衣装を参考にしたそうな。
一から仕立てるにも圧倒的に時間が足りなかったので、最終的にりっちゃんや画伯、最後の仕上げに至った時にはまぁちゃんまで動員して修羅場を駆け抜けました。
お陰様で五人分、衣装もきっちりと完成して万々歳です。
貫徹だったので最後の方にはりっちゃんが偏頭痛を訴え始めていたけれど……安らかに眠れ、りっちゃん。
お陰でとっても素敵な衣装が完成したよ?
ちなみに衣装はモチーフを統一しつつ、細部のデザインは個々で違うという手の込みよう。
アクセントの部分や飾りなんかも個人のイメージを大事にしたとは、めぇちゃんの談。
そして顔を隠すための覆面も、それぞれの衣装の色に合わせて揃えました。
衣装の生地そのものは、全員の色を合わせましたけどね?
差し色を個々で違うものにして変化を出しました。
それぞれの差異が楽しめるよう、一人ひとりベースが同じでも大分雰囲気がガラリと変わって、印象も違って。
そのあたりは流石とめぇちゃんを褒め称えちゃいました。
衣装を着込み、顔を隠す為の『覆面』をつけ……
忘れちゃいけない手袋に、お手製の試験管ホルダー。
厳選に厳選を重ねた、選りすぐりの硝子瓶たち。
さあ、準備はOK?
チーム戦はどっちかのメンバー全員が戦意喪失するか意識を刈り取られるか、チームリーダーがチームの棄権を宣言するまで続きます。
なんだか重要な判断を任されたみたいで、ちょっとだけ緊張します。
でも今更うだうだ言うつもりもないので――
私達は万端に準備を整え、試合に赴きました。
さて、どうやら第一試合の相手はレイちゃん……
私やせっちゃんの従弟、レイヴィスの率いるチームのようです。
彼らは力試しの為に来ているので本腰を入れているのは個人戦の方らしいけれど……折角気の合う仲間達で来たのだからと、記念にチーム戦にも登録していた模様。
さあ、従弟といえども容赦はしませんが。
レイちゃん達はどんな反応を見せてくれるのかな……?
試合場へと私達が足を踏み入れると、審判が高らかに声を張り上げました。
あ、ちなみに審判はベテルギウスさんです。
何だかとことん縁がありますね?0
「――さあ、皆様お待ちかね! 団体予選の第一試合目は魔境でも少数派とされる獣人の若手グループ『豆』!!」
レイがあらわれた!
ジルがあらわれた!
ペリエがあらわれた!
ラスがあらわれた!
西コーナーよりチーム『豆』があらわれた!
わぁぁああああああっ
観客席から、歓声が聞こえます。
……っていうかレイちゃん、チーム名『豆』って。
レイちゃん自身の背は大きいのに、その命名センスはどこから来たんでしょうか。
マメジカ? マメジカからきたの?
まあ、私達も人のことは言えませんけど!
「それに対するは、魔境の地雷一号二号が率いるとんでもチーム……危険すぎる彼らの名は、『おうまい』!!」
ガスマスクAがあらわれた!
ガスマスクBがあらわれた!
ガスマスクCがあらわれた!
ガスマスクDがあらわれた!
ガスマスクEがあらわれた!
東コーナーよりチーム『おうまい』があらわれた!
わ、わぁぁあああああああっ!?
……あれ、何故か歓声に疑問符が?
試合会場へと躍り出た私達の姿を見た観衆の間に、戸惑いと怯えの混じった雰囲気が……
はて? まだ何もやっていないんですけれど、何か不審な点でもありましたかね?
ガスマスクの集団があらわれた!
わあ、超あやしーい……
不審者路線、まっしぐらです。
はてさて、リアンカちゃんのお仲間たち……その、中の人とは?
ヒント:二名を除き、全員人間です。




