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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
魔境にただいま☆
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3.ぶらり村めぐり ~めぇちゃん~

勇者様とモモさんが肩身狭くて身の置き所のない思いを味わいます。




 色々と衝撃的なまぁちゃんの姿を存分に褒め称えた後。

 心なしか疲れた様子のまぁちゃんは、移動用の乗り物(魔鳥)を呼び出して飛び去って行きました。

 向かう先は勿論、大掃除です。

「リアンカは行かないのか?」

 首を傾げる勇者様。

 私がこの大掃除(イベント)を楽しみにしていると言ったからでしょう。

 ついていかなかった私に、心底不思議そうです。

「私が楽しみにしていたのは、まぁちゃんの麗し艶姿だからもう良いんですよ」

 ええ、もう充分に楽しめました!

 一年でこの時にしか見られない、レアなまぁちゃんの姿!

 とっても目の保養でしたよ、はい。

 あの姿を年に一回でも見ていると、どんな煌びやかな王侯貴族の前に引き立てられても動じる気にはなれません。

 実際に魔王様の豪華絢爛な姿を少なからず目にしてきた経験のお陰で変に萎縮したりはしないという事実確認も、勇者様のお国でばっちりです。

「そんな理由で楽しみにしてたのか」

「あ、呆れてますね? でも大掃除そのものの方は毎年変り映えがしなくって…三年目で飽きちゃったんです」

「変り映えがしないって…だけど毎年内容は違うんだろう?」

「同じですよー。不穏分子の潜む界隈に行って、空の上からまぁちゃんが地上を睥睨。人差し指をくいっと上げると、その年の対象に含まれる全生物が強制的に50m空の上までご招待です」

「リアンカ? 楽しい感じに言っているけれど、それって異様な光景だよな?」

「殲滅対象だけ見事に寄り分け…それから一気に、ボンッです」

「……………それが何の効果音なのか、知りたいような知りたくないような」

「それで殲滅対象は多い時は全部、少ない時は9割がた滅びます。生き残ったのは骨がある奴だということで、まぁちゃん自らの手で抹殺です」

「元から不穏だったけど、一気に表現が物騒に! 血みどろ祭の詳細は説明しなくて良いからな…!?」

「勇者様がそう言うならここでやめますけど、まあそんな感じで。毎年似たようなことばっかりだったから三年で飽きたんですよ」

「そんな光景に見飽きる子供……………嫌だな」

「私の偽らざる真実です」

「リアンカ………偽らなくてもいいから、時々で良い。不穏当な発言をオブラートに包んではくれないか…?」

「済みません、勇者様。オブラートは品切れなんです」

「一体なにに使い果たした…?」

「薬の苦いの嫌だっていうお子さんへの風邪薬に」

本物(そっち)じゃないんだ、本物の方(そっち)じゃ…!」

 やりきれなさを拳に込めて殺しきれぬ衝動のまま、勇者様は側に生えていた木に懐いて拳を打ちつけました。

 あー………手加減しないと、勇者様。

 思いの丈が込められた拳は、見事!

 ………樹齢五百年ちょっとの木を殴り倒しちゃったよ。

 わざとじゃなかったようで、勇者様が多いに慌てています。

 青い顔で泡食ってます。

 だけど既に殴り折られた木は無事では済みません。

 元に戻すことなど、出来る筈もなく。

 木が倒れることを防ぐのは、不可能でした。

 重い音が、響きます。

 ………最後まで木を支えようとした、勇者様を下敷きにして。

 あーあ、勇者様ドンマイ…。

 怪我していないと良いのですけど。


 …え、私?

 私は大丈夫かって?

 心配は御無用です。

 だって木が倒れ始めた段階で、さっさと超人(笑)で死にそうにない勇者様のことは見捨ててちゃっちゃと退避していましたから!


 良い笑顔で笑う、私の足下。

 勇者様の呻き声が聞こえます。

 うん、やっぱり生きてる。

 死ぬはずがないと信じていました。


 どことなく恨めしげな勇者様の声に生存確認を済ませ、私はどうやって彼を引張りだしたものかと思案するのでした。





「勇者様、他に痛いところはないですか?」

「ないよ。ありがとう」

「わあ! あんな大きな木に押し潰されといて、目立った怪我は木を支えていた両手の手首を捻っただけとか! 勇者様、本格的に化け物ですね☆」

「堂々と人のことを化け物呼ばわりするのは止めてくれないか!?」

「さりげなくなら良いんですか?」

「………取り敢えず、化け物は止めてくれ。化け物は」

 地面と木に熱烈に挟まれてジタバタしていた勇者様

 あの後そんな勇者様を、何とか引きずり出しまして。

 …というか勇者様が半分くらい自力で脱出なさいまして。

 しかし無傷という訳にはいかないだろうと思った次第。

 一先ず治療の為に、ハテノ村の薬師房まで連れて来たんですけど………

 

 勇者様の身体のこと、私もまだ舐めていたようです。

 五百年物の大木に押し潰されてもなんのその。

 ぴんぴんしてるよ、この人。

 

 勇者様の肉体強度は、私が思う以上に人間を超越していました。


「取り敢えず湿布薬ですよね。湿布、湿布…」

 いくら職場で、日頃からコツコツ作った薬を溜めているとは言え、それは半年前のこと。前に作り溜めた湿布も、とっくに効能がヤバいことになってるでしょう。

 後の管理を任せていためぇちゃんが、きちんと整理してくれていたんだろうな。

 ずっと村を開けていた私とむぅちゃんの棚は、すっかり綺麗に………

 つまりは、ストックが空っぽになっていました。

 ………これから武闘大会も始まりますし、薬は例年よりも入用です。

 私達は薬を作り、人を手当てする薬師です。

 当然ながら、怪我人大盛況な期間にぼやっとしておく訳にはいきません。

 薬の提供や簡単な手当の為に、大会の間は忙しく立ち働くのが毎度のこと。

 数日以内に、大急ぎで薬を補充させないと…。

「リアンカ? ぼうっとしてどうしたんだ…?」

「ああ、いえ。此処も半年ぶりなんだなぁ…って」

 帰ってきたなぁって、そう思います。

 考えてみれば、まだ私は家にも帰っていません。

 村に戻って一番に行ったのが魔王城で、次が職場の薬師房。

 ようやっとしみじみしはじめて、胸に感傷が満ち溢れそう。


 ――ただいま、ハテノ村。


 胸の内でそっと囁いて、深く息をして。

 私は、本当にようやっと帰ってきたなぁと、そんな気持ちで。

 懐かしい職場の中、私は自分でも驚くくらいに心が落ち着くのを感じました。

 

 そのことを特に口に出して言った訳でもなかったんだけど…

 気が付いたら、ほぅっと息をついてぼんやりしている私を、勇者様が優しい眼差しで…というか微笑ましそうな顔で見守っていて。

 一緒にいるのに自分の世界に入り込んじゃうなんて、失礼だと思うんですけど。

 私が何をどう思っているのか、まるで勇者様は見通しているみたいで。

 私が黙りこんでも、ぼんやりしても何も行動は起こさず。

 そっとしておいてくれたのは、嬉しいです。うん。

 だけど、その寝付いたばかりの赤ちゃんでも見るような優しい眼差しは止めてくれませんか…?


 見られるのは別に、構わないんですけど。

 あんまり優しい目で見るものだから、物凄く気恥ずかしくて。

 何だか物凄く、居た堪れない気持ちになるのですが…


 どうしようかな、と。

 一人自分だけ気まずい空間の中、動きかねていたんだけど。

 そんな私を助けようと思ってのことじゃないと思いますが。

 結果的に私を助けてくれたもの。

 

 それは勢いよく、何も言わずにドアを開けて飛び込んできた。


 ノックもなしに、仕事場(ここ)に入ってくるのは、主である私、むぅちゃん、めぇちゃんの三人。

 むぅちゃんは私や勇者様がまぁちゃんを見送っている間に、無言で先に此処に来ていたみたい。勇者様の手当てに私が此処へやって来た時には既に居て、黙々とモモさんをこき使いながら不足している薬の補充作業を行っていた。


 だから、やって来たのは一人。

 それは留守番をしていてくれた筈なのに、今はいなかった人。

 どうやら一時的に房を出ていたらしい、めぇちゃん。


「リアンカ、ムー、戻ってるの?」

「あ、めぇちゃん!」


 半年ほど顔を合わせていなかった、私の同僚。

 出先から戻ってきた彼女は、私達の気配を察してか弾む様に飛び込んできて。

「やっぱり、帰ってきてたのね! おかえりなさい、二人とも」

 弾けるような笑みを浮かべて、私達目掛けて飛び込んできました。

「めぇちゃん、長く留守にしててごめんね…!」

「全くよ! もう、二人とも自分達だけ楽しんでずるいわ」

「お土産たくさん持ってきたよ。だから許してくれない?」

「ムー、そんな問題じゃないの! 気持の問題よ、気持ちの」

「お土産いらないの? なら僕がもらうけど」

「受け取るわ。二人とも楽しんで来たんだから、お土産くらいは当然でしょう?」

 半年振りにあっためぇちゃんは、私が知ってるめぇちゃんより少しはしゃいでいて、元気で、おしゃべりで、笑顔が輝いていて。

 だけど、どこかに影がある。


「めぇちゃん、寂しかった?」

「そんなの………当然でしょう!」


 薬師の師匠が引退して、私達が三人で一人前の看板を掲げた時から、ずっと。

 ずっと、ずっと。

 時々誰かがいないことはあっても、三人一緒に頑張ってきた。

 それに誰かがいない時でも、仕事場には必ず二人は残る様にしていて。

 半年間、たった一人。

 めぇちゃんだけにずっと仕事場を任せて離れ離れなんて、思えば初めてで。

 私達三人の中では一番大人っぽかった筈のめぇちゃんは、ぷぅっと頬を膨らませて…それから全力で、私とむぅちゃんにしがみ付いてきました。

 うん、抱きしめるというより、しがみつく………。

 全力で回されてくる、腕。

 柔らかなめぇちゃんの体は、覚えている体温より高く感じました。


「めぇちゃん、半年間ありがとう」

「御苦労さま、メディレーナ」

「……………」

「ただいま、めぇちゃん」

「ただいま」

「………おかえりなさい、二人とも」


 私より一つ年上だけど、可愛いめぇちゃん。

 彼女の拗ねたような笑顔は、とても珍しくて。

 私は何だか得したような気分で。

 私はそっと、良い匂いのするめぇちゃんの身体を抱きしめ返しました。








「……………何だか此処にいると場違い感が凄くて、居た堪れないような…」

「半年ぶりの再会なんだ、仕方ない」

「俺達、完全に忘れられてますよね。どっか行っちゃ駄目でしょうか」

「諦めて、待て。黙って消えたらリアンカ達が拗ねるから」

「はあ…」


 蚊帳の外で、居心地悪そうに身を縮めて、二人。

 勇者様とモモさんが完全に置いてきぼりになっていることを私達が思い出したのは、この三十分後のことでした。






リアンカ

「さて、次は誰に遭遇するかなー?」

勇者様

「遭遇………」

リアンカ

「私の予想だと、次のうちの誰かだと思うんですよねー…


 a.変わり果てたアディオンさん

 b.半年間娘にふらふらされた私の両親

 c.修行に明け暮れる鉄の副団長さん

 d.アスパラ

 e.アスパラガス

 f.グリーンアスパラマン

 g.ご近所のお騒がせハーメルン

 h.新婚❤クレイマーミュゼ


勇者様、誰が良いですか?」


勇者様

「選択肢の幅が偏りすぎだろ…っ」

リアンカ

「さあ、早く選んで下さい。さあ」

勇者様

「く…っ」


 さて、気になる結果は…?



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