41.予選1日目:障害物と書いて妨害役と読む
勇者様、かつてない危機の予感。
若干名モザイク必至の姿となりながらも、駆け抜けた男三匹。
勇者様と、ある意味勇者な軽業師と、男達にとっては勇者・真打ちの若竜。
色々な意味で誰も寄り付かない(獣含む)彼らが、同じ挑戦者達の妨害も何のその走り向かったのは、コースの先。
見えてきた『わくわく☆動物ふれあいコーナー』の出口。
彼らをそこで待ち構えていたモノは……
じゃり、と砂を踏み躙る音がしました。
「く……っ」
モザイクを纏いながら走って走って、見えてきたモノのせいですね。
どこかで見たソレに、勇者様はやり切れなさと苦渋の混じった顔で思わずと足を止めてしまわれました。
「また、またなのか……!?」
彼らの前に立ちふさがっているのは……うん、見覚えのある巨体です(笑)
勇者様が、叫びましたよ!
「またお前達か巨豚三兄弟ぃぃ―――――!!」
勇者様の前に三度立ち塞がる、三匹の巨豚。
まさかまさかの、ここでの再登場(笑)
さりげなく勇者様が彼らと戦うのも三度目ですね。
本当に、勇者様がやりきれない表情をしていました。
そんな勇者様を前に、ますます肥大化したような印象を受けるポーク三兄弟がびしっと格好良いポーズを決めました。
どうやらますます芸達者になっちゃったようで。
「なんで! なんでここに巨豚三兄弟がいるんだ……!」
「それはこの動物コーナーの動物が全て貸借品だからだろう」
「……って、副団長殿!?」
「お先に失礼している、勇者殿」
あ、副団長さんが先に来ていたようです。
どうやら勇者様よりも先に来て、三匹の巨豚と対峙していたらしい大柄な姿……って、いつもより更に大柄な様な?
「ふ、副団長殿? そのトーテムポールは一体……」
「ああ。このコーナーを乗り切る為のアイテムだ」
「ということは……」
「ボックスに手を突っ込んだら、トーテムポールが出てきた」
「真剣にどうなってるんだあの謎箱!?」
「重量的にも長さ的にも丁度良かったので、槍の代わりに使っている」
「って、副団長殿も平然とし過ぎだろう! あんな箱からそんな箱の容量的におかしい物体が出てきたっていうのに、なんでそう順応しているんだ!」
「此処が、魔境だからだ」
「真理を突かれた……!」
「未だ最後の砦で無駄な抵抗を続ける勇者殿の常識に、この言葉を贈ろう。『習うより慣れろ』、『何でもアリ』、『住めば都』だ」
「しかも三段重ねだと!?」
「無駄な思考は放棄した方が楽になれるぞ、勇者さん」
勇者様の常識をここでも苦しめる、ブラックなボックス。
そしてトーテムポール(全長五m)を背負った副団長さん。
相変わらずあの人、凄い体力と筋力ですよねー。
豚も襲いかからずに勇者様が落ち着くのを待っている辺り、凄い空気を読んできますね。
位置的に、ポーク三兄弟がコーナーの出口を背負ってるんですが。
これは状況を見るに、ポーク三兄弟がふれあいコーナー最後の難関……というか関門の番人的なナニかなのでしょうか。
でもアイテム(笑)を持っていれば襲われないんじゃ……?
私は解説を求めて、ちらりとプロキオンさんを見ました。
私の求めに快く、プロキオンさんも説明してくれます。
「ハテノ村の自警団副団長が言っていたように、実はあのコーナーの動物は貸借品となります」
「えー……あの動物って、もしかして魔獣?」
「しかり。躾が行き届いてでもいなければ、ああも複雑に此方の意図を組んではくれないと思わないか? アイテムの有無で襲うか否かON/OFFするあたりなど」
「言われてみればそうですね! ということは、あのアニマル達って……」
「お察しの通り、でしょう。そして借受ける際にコーナーボスの任も負ってもらった訳で」
「わー……あれ、もしかして飼い主達もいる?」
「勿論。あれだけたくさんの魔獣に複雑な命令を下すとなると、『魔獣使い』に居て貰った方が楽でしょう」
「無作為に襲えーって訳じゃないもんね」
じゃ、あの二人が出ますね!
「――~♪」
ぴゅるりらぴゅるり、と笛の音。
鳴り響くのは私も知っている民謡です。
出たぞ、出たぞ、とわくわくする私。
期待に反することなく、彼らは現れました!
その姿を視認して、副団長さんが叫びます。
「出たな! ハテノ村のお騒がせハーメルン……!」
声に応じるように、片方がばちこーんと片目を瞑りました。
「いえい☆」
「………………」
まるで一揃いの人形の様な……それでいて奇抜な姿。
猫耳帽子とうさ耳フードの二人組。
魔獣愛護を掲げる、魔獣使いのカーラスティン双子。
そう、巨豚を筆頭とした魔獣達の飼い主でした。
勇者様の顔が、先程より三割増し引き攣りました。
でも対峙した野郎共の反応などお構いなし!
カーラスティン双子は、張り切って行動を開始しました。
行動というか……掛声?
「折角のお客様の期待に応じないとね! ご期待にお応えして、可愛い豚ちゃん達がバトルしちゃうよ☆」
「期待してない! 別に期待なんてしてないから……!」
「それじゃあ良い子のみんな! 一緒に応援してね☆ いっくよぉー……トップバッターは三兄弟の頼れる長男!」
弟さんが笛を吹く中、お姉さんの方が相変わらずキャラの行方不明ぶり甚だしい無理気味なマイクパフォーマンスを披露してくれます。
喋るのが苦手なのに無理して喋るから……
カーラスティン双子のお姉さんが、無理して大きな声で場を盛り上げようと頑張っています。
その一環で、既に勇者様達は御存知の豚達の名前を読み上げました。
「いちばん兄ちゃん……トンカツ君!」
「ぶー!」
「にばん兄ちゃん、トンチキ君!」
「ぶひっ」
「そして影の黒幕! 弟のチキンカツ略してチキン君!!」
「ぶおぉぉおおおおおおおおお……っ」
最後の豚だけ、なんだか大魔神風味に進化してる気がします。外見が。
変貌を遂げた豚を前に、勇者様が双子を指さして喚きました。
「だ・か・ら……っ! その名前! 絶対に豚達に愛着ないだろう実は!! 次男は罵倒で長男・三男なんか名前が既に調理済みじゃないか……!!」
「ペットの名前は基本フィーリング!」
「フィーリングにしても直接的過ぎるだろう……!? 少しは踏み留まって愛情を確認してくれ!」
相変わらず納得がいかないと、勇者様は文句ありげな様子でした。
それにしても、みんな楽しそうですね……。
勇者様には後々、バレる時まで隠しておこうと思ったからこそ、見咎められる前に速攻で終わらせたんですけど。
あんなに楽しそうなことになっているんだったら、タナカさんに頼むのは待った方が良かったかもしれません。
レースを自力で走破したかったとかではなく、近くで見物したかったと思ってしまいます。
「…………ん? あれ?」
……待って下さい?
「………………」
「ん? リアンカ、どうした」
「あ、まぁちゃん……勇者様の雄姿(笑)を近くで見たかったなぁとか思ってたんだけど。良く考えてみたら、近くで見るだけなら別にレースに参戦なんてしなくっても良いよね」
「……ん?」
どういうことだと首を傾げるまぁちゃんに、私は満面笑顔で言い放ちました。
「ね、まぁちゃん。……ちょっと、私あそこまで行って良いかな!」
遠くからただ見ているだけなんて、私の性に合いません。
私だったら、やっぱり近くで見て野次を飛ばさないと!
「……レースはもう、走破したよな? 走ってねぇけど」
怪訝な顔を知るくぅ小父さんにも、私を止めることは出来ません。
「あのね、くぅ小父さん。私……一人の観客として、勇者様にちょっかい掛けに行きたいだけなの!」
くぅ小父さんに微妙な顔をされました。
だけど特に反対することなく、小父さんは「まあ良いんじゃねぇの?」と投げ槍です。
大会の運営責任者が投げてくれたんだから、私が止められて止まる謂われはありませんよね?
よし、行こう。
そう志した私に、呼びとめる声。
「だったらこれをして行ったら良い」
プロキオンさんが差し出してくれたのは、臙脂色の腕章。
大きく、くっきりはっきり、『障害物』と書かれています。
「プロキオンさん、これは?」
「大会の罠設置班代々の伝統、障害レースの『妨害役』を示す腕章。これをつけていれば好きに介入しても無問題」
「わあ、ありがとう!」
良い物を貰いました。
早速プロキオンさんに腕章を付けてもらう傍ら、まぁちゃんがすくっと立ち上がって私の正面に寄って来ました。
「俺も行くわ」
「まぁちゃん?」
「余所から来た挑戦者に、リアンカが反撃食らって怪我しねぇとも限らねーしな」
「おお、それもそうだね。まぁちゃんがいてくれるなら心強い!」
「それに……」
「ん?」
まぁちゃんが、凄く穏やかな顔でレースの方を一瞥しました。
その目に宿っているのは、慈愛?
まぁちゃんは画面に映る勇者様達の奮闘ぶりを見ながら、こう言ったんです。
「どうせだから精々思う存分におちょくってやろうぜ」
まぁちゃんの微笑みは、とっても悪魔的な笑みでした(控えめな表現)。
うん、魔王らしいですね。
私も釣られてにっこりと笑顔を浮かべちゃいます。
まぁちゃんが楽しそうに口端を吊上げるから、私も無邪気に童心に返って楽しもうと思います。
画面の奥、豚と戦う勇者様は御存知ないでしょう。
きっと未だ気付くこともなく、悠長に目の前に立ち塞がる障害にのみ手を負われておいでで。
まあ、だけど。
近く勇者様を襲うだろう衝撃に気付いていたとしても、現状、勇者様にできることは何もない訳なのですが。
回避ルート含めて。
だって、魔王のまぁちゃんから生半可な手段で逃げられるとは思えませんし!
そうと決まれば、と。
妨害役に参戦を決定したまぁちゃんは私の隣で準備に余念がありません。
「えーと、カンシャク玉と、六尺花火と……リアンカ、火薬系なにかいるか?」
「まぁちゃん、鼠花火は欠かせないと思うの」
「おー……あと、何があった方が良いかね」
「どうせだから罠設置班の準備室に何か面白い物がないか見つくろって行こうよ」
「それもそーだな。じゃ、花火はまたの機会にしとくか。……勇者なら綺麗に散っただろうにな」
「今日は巻き添え拡大率の高いモノが良いってプロキオンさんが言ってたよ? 他の参加者も被害に遭うような奴」
「んじゃ、やっぱ狙いが絞られる『花火』は今度にしておくか」
「その代り、罠設置班が全力でバックアップしてくれるって!」
本当はただ見物に行くだけのつもりだったんだけど……
お祭り騒ぎは見ているだけじゃつまらないですよね。
やっぱり、自分も参加しないと!
挑戦者側はもうクリアしてしまったので、今度は妨害側での参戦。
別にどうしても妨害したいって訳でもありませんが。
それでも折角こんな素敵な腕章をいただいてしまったんですから。
参加させてもらえるとなったら……ここは全力で挑まないと!
そうじゃないと、機会が勿体無いですよね☆
さあ、予選:障害レースに風雲が立ち込めようとしています。
自分主催の大会予選に置いて、まぁちゃんは何をやってくれるでしょうか。
そして私は何をしようかな……!
まさかのリアンカちゃん、妨害サイドでの参戦表明。まぁちゃん付き。
上級悪魔君臨までのカウントダウン。
さて次回、勇者様の運命は……?
a.爆発する
b.暴発する
c.破裂する
d.膨張する
e.その他
さあ、どーれだ♪




