37.予選1日目:勇者様の飛び蹴りサービスDAY
勇者様、危機連発(笑)
窮地に陥った勇者様の頭上から、蜘蛛の糸よろしく垂れ下がって来た男・サルファ。
奴はいつものように軽薄な笑みを浮かべたまま、自分の用意したらしい鎖を勇者様のすぐ近くまで垂らしてチャラチャラ鳴らしています。
「ほらほら勇者の兄さーん、登んないの? 俺はいつだってウェルカム☆だよ!」
「ありがとうノーサンキュー」
「淀みなく迷惑そうな顔☆された! え、え、勇者の兄さん、俺の申し出断ってどうすんの!?」
「どうするかと聞かれたらすぐに明確な答えを出せる訳じゃない。だけどお前に借りを作ることだけは何故か生理的に受け付けない、我慢できないんだ。済まない」
「真摯な顔しといて、言ってることちょい酷くね!?」
わあ、切羽詰まってるはずなのに!
勇者様のあんな能面みたいな顔、初めて見ますよ……?
まあ何となく、気持ちはわかりますけれど。
……うん、サルファに助けられたくないんですね。勇者様。
「そうは言ってもさぁ、勇者の兄さん? けっこーどうしようもない状況じゃね?」
「サルファの力を借りずとも、このくらい乗り越えてみせる……!!」
→ 勇者様は強がった!
気力が30上がった!
胆力が15上がった!
精神的圧迫が80上がった!
精神的に追い詰められて火事場の馬鹿力が発動した!
あ、あれ?
いま何かいきなり勇者様の気迫が増したような……。
なんだかちょっと雰囲気に変化の訪れた勇者様。
私は首を傾げながら、そんな勇者様を見守ることしかできません。
「うおぉおおおおおおっ!」
まるで雄叫びみたいに荒々しい声が、空気を震わせます。
どうやらサルファの存在が、勇者様を奮い立たせたようです。
そんなにサルファには助けられたくないんだね、勇者様!
「く……っこんなところで、人間として終わって堪るか!!」
「勇者の兄さん、それって俺に助けられたらお終いってイミー?」
「そうは言っていないが気持ちの問題だ!」
う、うわぁ……勇者様が強引に引き千切りましたよ!?
物凄く太くて頑丈そうなマンイーターの触手が、ぶつぶつびちっと!!
肩で荒く息をつきながら、勇者様はギラリと迫力満点な眼差しを強くマンイーターへと向けて……
「これだけは……本当に、これだけはやりたくなかった!」
そんな恨めしげな感情の籠ったお声とともに、取り出したのは……
「ぶふっ」
まぁちゃんが、噴き出しました。
耐えきれないといった様子で、そのまま座っていた椅子にしがみ付いて笑いだします。
しがみついた先が、ちょっとぎしぎし不吉な音を立ててきしみました。
目元に涙が浮いてるよ、まぁちゃん!
私も人のことは言えないけどね……!
まぁちゃんを笑わせたモノ。
そして私を笑わせたモノ。
勇者様の手に握られていた、それは……
ハ リ セ ン でした。
「さ、さんだーはりせーんっ……!!」
「あいつまだアレ持ってたのかよ! っつぅか嫌がってたくせに持ち歩いてんのか、おいっ」
「ふふふ……っふはっあはははははははっ」
「なにあれなにあれ! 勇者君どうしちゃったのっ」
「勇者さん、とうとう自分の本質と真っ向から向き合って……?」
「いや、ここぞとばかりにハリセン取り出してどうすんだよ、あいつ。それが本質って……その意見もどうなんだ」
まぁちゃんはもうお腹を抱えて笑っています。
というか、みんな腹を抱えて呼吸困難状態に陥っています。
もちろん、笑いで。
魔族さん達の麗しく整った表情筋が、全力で働いている模様です。
これもう、慈母の如く微笑みながら見守るしかありませんよね!
私は生ぬる~く、笑い悶える魔族さん達を微笑みながら眺めます。
うん、勇者様って素敵☆
勇者様は笑いさざめく観覧席など知らず、厳しい顔でマンイーターにハリセンを振り上げて……
「植物の癖に、火を吹くんじゃない――!! 植物は植物らしく、潔く燃えてしまえぇぇえええ!」
渾身の力で、衝撃波を纏った一撃が振り下ろされました。
……うん、私的に、あの武器で繰り出された攻撃は全部『ツッコミ』ってルビ振って良いと思うんですよね。
勇者様の繰り出した一撃は紫電を纏い、真空の刃を引き連れ……阻もうと前に出てきた触手を勢いも殺さぬままに、焼き切り、衝撃波で引き裂きながら、狙いから逸れることなく前へ、前へと。
攻撃の後が、まるで道の様に拓かれていきます。
凄まじい勢いが、床を削って巻き上げて。
一直線に。
「《SYAGALALAAAAAYAAALAAA……ッ!!》」
マンイーターの肉厚な唇から、苦しみに満ちた絶叫が上がりました。
それは確実な痛みを与えた証拠。
勇者様の攻撃が通った証明。
のたうちまわり、苦しむマンイーター。
怪物花の、その身は……抉られたように、撃ち抜かれたように、全体の四割程が消滅していました。
わあ、勇者様ったら殺ったね☆
ですが勇者様は勇者様で、一体何に衝撃を受けたものか。
何故か攻撃した姿勢のままに立ちつくし、口元を引き攣らせて暗い顔。
そのままがっくりと肩を落とし、両手で顔を覆ってしまいました。
「現状を打開する決定打がハリセンってどうなんだ、俺……っ!!」
何やら受け入れ難い現実と理想の挟間を彷徨っておいでのようです。
葛藤してる、葛藤してる! 滅茶苦茶に苦悩してますね!
自分でしてしまったことに精神的打撃を喰らっているようです。
現実を受け入れた方が楽になれるよ、勇者様!
苦迷・苦悩の時間はさほど大きく取ることはできません。
だって身体を損耗したことで、マンイーターがマジになっちゃったから。
邪悪にして禍々しい鋸刀を苛立ち紛れに叩き折り、その破損した刀をすら武器にして。
高速で射出される、錆の浮いた金属片。
ある程度以上大きな刃の欠片をナイフ代りに触手が握り、勇者様へ突き立てようと襲いかかっていきます。
それら、全てを。
勇者様のハリセンが、弾き返して行きました。
間近でそれを見ちゃったサルファが、鎖にぶら下がったまま腹部を押さえて悶絶。
「ふぐっ……ぷはっははっ ゆ、勇者の兄さん強っ☆」
「笑うな、サルファ」
「いやいやいやいや、無理だって☆ 笑うって☆ も、なーんか勇者の兄さんってばハリセン装備最強じゃね?」
「そんなにさらっと言わないでくれ……! 例えそうだったとしても俺に認められるはずがないだろう!?」
そう言っている時点で、半ば認めているような気がするのは私だけでしょうか。
思い悩む勇者様。
だけどその手は止まらない! 立ち止まらない!
全身を的確に動かして、一歩一歩確実にマンイーターに肉薄していきます。
体の大部分を損壊したことが原因か、マンイーターの再生能力が落ちているようでした。
先程までの様に『むしろ増殖』系の結果に陥らなくなったことで、勇者様も安心して攻撃を加えられるようになったのでしょう。
見ていて気付いたのですが、どうやらサンダー☆ハリセーン(爆)で潰した触手は再生できないようです。
あのハリセン……本当にどんだけ高性能なんでしょう?
謎の深まるハリセンは、どう考えても魔境向きの装備ですね!
ぐいぐいと火事場の馬鹿力の後押しで攻め立てる勇者様。
ついには高く跳躍し、マンイーターの花本体に痛烈な一撃を見舞うことに成功しました!
それでもなお食いつこうとするマンイーターの強靭過ぎる生命力にちょっと興味が湧いてきちゃいますが。
「まぁちゃん、あのお花ほしぃ」
「あ゛?」
「え、リアンカちゃん正気?」
「戦闘能力のないリアンカ嬢ちゃんじゃ手に負えねぇんじゃねーの……?」
「だって、あの強い生命力には純粋に興味があるの。あの生命力を他の何かに利用できないかなぁ」
「駄目です、駄目! あの怪物花は僕のお嫁さんが可愛がってるんですから、余所には差し上げられません」
「それこそハリドシエルの嫁さん正気!? あれ可愛がってるって!」
「妻は、花が好きなんです」
「アレはもう花なんて可愛い範疇に留まらないよ……?」
「うぅ……ん、可愛がっている人がいるなら、無理に貰っちゃう訳にもいかないかぁ……」
「そうですね。代わりに株分けをお約束しますから。多分、春頃になったら目覚める邪悪な力が蟲と共に蠢きだす筈です。その力を借りれば弱体化しますが株分けできると思いますよ」
「ハリちゃん、本当!? 劣化しちゃってても十分だよ! 約束! 約束ね!」
「え、ちょ……ハリドシエル、そんな危険物渡しちゃって良いのかな!?」
「あ、そうですね……ちゃんと人間に害のある呪いは解除しておきますね?」
「そっちじゃない! 気づかいの方向性、そっちじゃないよ!?」
ヨシュアンさんが何かわたわたしていました。
けど喜びが溢れそうな私は、正直ヨシュアンさんに構ってはいられません。
わあ、栽培の準備整えておかなくっちゃ……!
私はうきうきと、育てる為の算段を立てるのに夢中。
あれだけ生命力と能力が特異な個体を研究出来たら……夢が広がります。
「ああ、でも株分けするなら成るべく生命力を減らされない方が良いね。本体の元気がないと、株分けしても根付かずに死んじゃうから」
「くぅ小父さん! 今すぐあのマンイーター回収してください! 勇者様に滅ぼされる前に……!!」
「あぁ? 面倒臭ぇな……第一、あのトラップは罠作成班に全部任せきってんだよ。頼むんならそこのベテルギウスに頼みな」
「ベテルギウスさーん!」
「そういう面白そうなことするってんなら即効回収だね! ついでに俺にも株分けしてよ、ハリドシエル殿」
「ベテルギウスさんも呪われ系お好きですよねー……」
「ふへへ……あのマンイーターを呪われ武器に改良出来ないかなぁ。腕が鳴っちゃうね、ベキボキに!」
ベテルギウスさんは流石に話が早い魔族さんです。
あのマンイーターの強化に繋がっているのは『特殊な滋養』として養分にされた呪われたイキモノ達ですからね。
呪われた武器マニアのベテルギウスさんも興味は抑えきれない様子です。
借り受けた時は壺に籠りっきりで、全力で分析できなかったとか言っていますし、一度失敗している分だけ熱意が湧くのでしょう。
私も熱意が湧き立ちそうです。
さあ、どんな育成計画を立てましょうか。
折角だから、むぅちゃんとめぇちゃんにも手伝ってもらいましょう!
きっと二人も喜ぶはずです。
「…………あ、でも。リアンカちゃんが譲り受けてハテノ村で育てるんなら、近場で触手植物観察し放題……?」
なにやら深く考えに没入しようとするヨシュアンさんの呟きが聞こえたような気がしましたが、私は聞こえてきた声を頭で認識する前にすっぱりと忘れてしまっていたのでした。
「邪悪を打ち砕き、封印せよ! 【白光――】」
攻撃している途中で、勇者様はどうやらあのマンイーターは炎属性よりも光属性に弱いことに気付いてしまったようです。
まあ、実際に呪いの力で強化されたマンイーターですからねー……
普通、植物系の魔物や魔獣は光の力を取り込んでよりいきいき元気になってしまうものなのですが(光合成)。
勇者様の陽光神の加護が途中で偶然、マンイーターにぶっすり突き刺さりまして。
攻撃を喰らって痛みに悶えても、怯むという姿を見せなかったマンイーター。
それが、その時はしっかりと怯える姿を見せたんですから、光に弱いことに勇者様が気付いてもおかしくありません。
本当に、ほんの小さな光の欠片でしたからね……具体的に言うと金平糖サイズ。
そんな小さな光に怯えるんですから、勇者様が光属性の攻撃に踏み切るのも当然です。
それで今、なんか大技っぽいモノを放つ挙動に移ったようなのですが……そんなモノを、放たれる訳にはいきません。
だって光の力で消滅させられちゃったら、株分けしてもらえない!
「いけ、ベテルギウスさん……!」
私に躊躇いはありませんでした。
「【――剣bっっっ!?」
なんか技の名前らしきものを口にしようとしていた勇者様。
しかし彼が全てを言い切ることは不可能でした。
だってその前に、勇者様の背中に背後から襲いかかる人がいたから。
「ぐあっ」
「ドローップキィィイイイイック!」
それは勇者様の背中……丁度肩甲骨の間くらいに、吸い込まれるようにして決まりました。
というか突き刺さる勢いで、入りました。
ベテルギウスさんの、膝が。
「……あれ、ドロップキックつーか飛び膝蹴りじゃね?」
「陛下……ベテルギウスはその場のノリと勢いだけで生きてますんで。技名を叫んだとしても、往々にして内容と一致していないことがままあります」
「つまり勢いだけで思いついた名前を深く考えずに口にする……と。まあ魔族にゃそういう奴多いよな」
「根っからの愉快犯気質☆だからね」
背後から不意打ち気味に飛び膝蹴りを喰らった勇者様。
ベテルギウスさんは何気に転移魔法がお得意だそうで、勇者様の背後に転移するとほぼ同時に着弾してましたよ!
可哀想に……勇者様は思ってもみなかった勢いバツグン☆の攻撃を受けて顔面から地面に突っ伏してしまいました。
あ、めりこんでる……。
画面の向こうのベテルギウスさんは、勇者様の背中に馬乗りになった姿勢でびしっと親指を立てました。
「よし、今日も絶好調!!」
わあ、カメラ目線だー……
投影魔法で映像が送られていることをきっちり把握しているからこそですね。ベテルギウスさんは画面の向こうに一連の出来事を見ていた私達へ向けて、ばっちり決まったウィンクまで寄越して下さいました。
凄い余裕だ……!
流石は魔族の精鋭です。(愉快犯的な意味も含めて)
そのままベテルギウスさんは立ち上がると(勇者様の背中に)、両手を肩幅(勇者様の)に広げて姿勢を整え(両足は勇者様の両肩に)ました。
あれ、普通に立てないんじゃありませんか?
というか勇者様、真正面から顔面めりこんでるんですけど……地面に。
どう考えても酸素とは無縁の姿勢です。
ゆ、勇者様ー? 呼吸出来てますかー???
マンイーターは勇者様とベテルギウスさんの一瞬過ぎる接触事故に少しの間びくっと全身を震わせて動きを止めましたが、植物に状況の変化を頓着する気はないようです。
いきなり現れたベテルギウスさんのことは少し警戒気味のようですが……むしろこの好機に勇者様を葬り去ろうとしてか、ゴムの様に弾力豊か過ぎる触手が二人に向けて振るわれました……、が。
「秘儀・【血みどろ男爵】の恋……!!」
ベテルギウスさんの手に、包丁が握られていました。
もしやあれで撃退するのでしょうか、と。
見守っていたんですが……ちょっと考えていたところと違いました。
触手がベテルギウスさんの射程距離内に入った途端のことでした。
ぐわっと。
包丁から、なんか出ました。
それは黒い……暗い暗い、何かの影のように見えました。
影の輪郭は、小太りの中年男性の様に見えなくもありません。
とりあえずシルクハットを被っていることは何となくわかりました。
あれ、何でしょう???
ベテルギウスさんの包丁から伸びて広がって覆い尽くさんばかりに光を蹂躙する影は、触手ごと諸共にマンイーター(本体)へと躍りかかったように思えます。
そして熱烈な……えぇと、ハグですか?
影が腕を伸ばしたように見えた次の瞬間にはきつく抱きしめる様にして、マンイーターが陰に拘束されていました。
心なしか、ピンク色の光が舞い散っているような……ハート形の。
「えっと、本当にこれどんな状況……?」
聞いてみたところ、ベテルギウスさんの有する問答無用の拘束術(対象制限:不問)らしいのですが。
無傷で生け捕りにするのに長けた技らしいですけど、絶対に喰らいたくないなぁと思いました。
だってなんか……心なしか影の顔に当たる部分が、マンイーター(本体)にぶちゅぶちゅやってるよぅな……
「まぁちゃん、あれ……」
「しっ 見ちゃいけません! ベテルギウスの野郎、気色悪ぃ術使いやがって……」
「陛下、減棒にしときます?」
「……気色悪ぃって理由で懲罰くれてやれたら楽だよな」
「やっちゃえ、まぁちゃん!」
「魔王だし、そんくらいの理不尽はむしろ推奨もんなんで構いやしねぇけどな……マジでやっちまうか?」
「やめとけ、陛下。あの呪われ武器マニアにゃ、給料さっ引くより呪われた武器コレクション没収する方が有効だ。特にあの包丁は早急に奪っといた方が良いと思うぜ?」
「ああ、言われてみりゃその通りだな。とりあえずあの包丁没収しとくか」
曰くあの包丁はエチカさんに無理言って頼んで譲り受けたモノだそうですが、そう簡単に没収されてくれるでしょうか。
でも精神衛生上、私はまぁちゃんを応援します。
頑張って、まぁちゃん!
そしてあの気持ち悪い包丁を叩き折ったら良いと思います。
やっとの思いで穴倉を這いだした勇者様は、遠い目で呟きました。
「一体、何だったんだアレは……」
それに答えるお声は、どこからもかけられはしませんでした。
でも声とは別のリアクションが勇者様を襲いました。
「勇者、覚悟……!」
「は!?」
それはすごい勢い……というか問答無用の一撃でした。
やっと落とし穴から上がって来て、勇者様が背筋を伸ばした瞬間。
遠くの果てから一直線に、水平に空を突っ切って勇者様に向かってきたモノ。
反応しかけた勇者様でしたが、空中を突っ切ってきたモノの速度は十分な加速がついていた為でしょうか。
直撃しました。
そして飛来したナニかごと、勇者様の身体は地面と丁度水平に吹っ飛びました。
わあ、慣性の法則ってああいうのを言うのかな……?
無学な私にはよくわかりませんが、そんな感想が浮かびました。
「ゆ、勇者の兄さーん!? え、生きてるかなアレ……」
本気でドン引きした、サルファの顔。
勇者様を鎖で引き揚げたのはサルファだったので、彼は間近に一部始終を見てしまいました。
飛ぶ鳥よりも、弩の矢よりも速度を上げて突っ込んできたモノ。
私の目には高速飛行物体と接触した瞬間に、勇者様の姿が掻き消えたように見えました。
姿を捉えきることは出来ず、残像のみがかき消える最中に見えただけ。
覚悟と言っておきながら、覚悟する猶予も与えない容赦の無さ。
それが何だったのか、私には声で察することが出来ました。
翼はない。
尻尾もない。
爪さえもなく、角もない。
だけど私にはわかります。
アレは、竜です。
私があの子を見間違える筈がありません。
だってアレは……
地面から丁度百五十cmばかり上空を、水平に突っ切って飛ぶ。
勇者様を巻き込んで、卑猥なお声が聞こえてくる精神的に気持ち悪いトラップゾーンを抜けた先。
いきなり直角に高度を落とし、勇者様を攻撃した竜は地面に降り立つ。
勇者様を蹴り落とす格好で。
勇者様が顔面から地面に埋まりました。
どうやら竜の本気が混入された飛び蹴りだったらしい、攻撃。
今日は勇者様がよく飛び蹴りかまされる日です。
後で勇者様に余裕があったら言って差し上げましょう。
勇者様、今日は飛び蹴りDAY☆だね、と。
次回、半ズボンを卒業しちゃったあの子が、勇者様と……!?
というか、呼吸は大丈夫か勇者様。
そろそろ皮膚呼吸(笑)をマスターしちゃわないか。