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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
30/122

28.予選1日目:全部門合同蹴り落とし障害レース

(裏タイトル:受難の前振り)


 今回は不憫様の不憫祭りと予告していましたが、前振りのみで収まってしまいました。

 不憫祭り本番は次回以降に回します! お楽しみに!←始まる前に次回予告



 戦闘狂(バトルマニア)で愉快犯(気質)な魔族の大祭『武闘大会』。

 魔族の武闘大会と銘打って置きながら、広く色々な種族にも門戸を開く、武闘大会。

 いよいよその予選……武闘大会に参加したい他種族さん用の予選が今日から始まります。

 だけどねぇ、うん。

 先にも言いましたけど、魔族は愉快犯気質の強い戦闘種族です。

 その気質が、予選会にも思いっきり反映されています。

 わあ、厄介☆

 何と言っても予選の初日は、多すぎる参加者の最低基準値を下回る有象無象を(ふる)い落とす為の試練……

 実はあんまり戦闘とか関係な……いや、あるのかな?

 とりあえず、戦おうと思わなければ戦わないでも良い日です。


 何故かって、今日の種目は『魔族風(・・・)障害物レース』だから。


 種目の頭三文字が中々不穏ですね☆

 それも理由を説明いただければ、中々納得?の理屈があるんだけれど。

 

 魔族は言うに及ばず、その身体能力は普通に化け物級です。

 小さな子供でもオタマの投げ比べでkm単位の記録を弾き出します。

 そんな、種族がですよ?

 全力を賭して命がけで殴り合うような大会なんですよ?

 しかも笑顔で。

 人間さんだったら本気で命がけの参加も珍しくありません。

 未だ不幸な事故の件数は……えーと、何件だったかな。

 ……まあ、たいしたことありませんけれど。

 覚悟が足りない、基礎能力の足りない人には早々に諦めていただいて、さっさとお帰りいただいた方が得策です。

 命は大事に、これは本当に大事です。

 開会式という名の説明会でも、魔族の偉いの二人が言っていたじゃないですか。死ぬな、とか。生きろ、とか。

 それでなくとも、武闘大会に参加しようって他種族で人間は少数派の部類です。

 いや、それでも中々の数はいますけどね?

 どちらかといえば、魔境に根を下ろした他種族……獣人や妖精さんやエルフの方が多数派を占めます。

 そんな彼らと予選とは言え戦う訳ですが。

 実力の足りないへにゃへにゃした方々の為にわざわざ時間を割いて試合を組むのが面倒、とのことで。

 一応既にトーナメント表は出来上がっていますけどね?

 時間をより短縮する為、最初にいましたが今日は(ふる)い落としの障害物レースが執り行われる訳です。

 単純に体力や時の運、技に頭脳にやっぱり時の運と凶運が足りない方は大体ここで脱落します。

 別にただ走っているだけでも何とかなる……とはいかないのが魔族風。

 さて、一体どうなるでしょうね?


 このレースにも、特にルールはありません。

 ただ規定の時間より早くゴールしろってだけです。

 規定の時間は……例年、変わるんですけどね?

 


 あ、それから。

 どうせだから私達が……私やせっちゃんが出場するってことをギリギリまで勇者様には内密にしようと思っています。

 だってその方が面白いじゃないですか。

 その為に、本戦の方を弄るのは無理ですが予選会でのトーナメント表には細工を施させていただきました。

 むぅちゃんが一時的に家に帰るという交換条件で。

 予選説明会の最後に、くぅ小父さんも会場の挑戦者の皆さんに向けて「――ああ、そう言えば今回は俺の息子が参加するんだわ。変なちょっかい掛けて怪我でもさせてみろ? てめぇら燃やしてやっからな」……と、本気のお声で述べていたくらいです。

 滅多に帰ってこない息子の帰りを、小父さんは指折り数えて待っていたらしい。

 久しぶりに息子と夕飯を取れるって、小父さん滅茶苦茶うきうきしてましたよ……不憫な。

 むぅちゃんも本当、時々は家に帰ってあげれば良いのに。

 家が嫌いな訳じゃないんだから、言われなくても自発的にさ。

 いくら調薬・研究に専念できる環境が整っているからって、連日連夜職場に棲み付いている少年の健やかな成長が若干心配になります。

 ……今度、職場にひっそり設置されてるむぅちゃんのベッド際の壁にでも、『家庭円満』とか『一家団欒』とか標語を貼り付けておくべきかな。

 そんな訳で、同僚を武闘大会の運営委員長に売った結果、予選会でのトーナメント表を弄らせていただくことに成功しました。

 身近に取引材料があって、やったね☆

 そうは言っても、大したことをした訳じゃありません。


 ただ、悉く私達の試合と勇者様の試合の時間を合わせただけです。


 残念ながら私達も勇者様の雄姿を目にすることが出来なくなりますが……後のどっきり☆の為なら、予選の一部門くらいは捨てて惜しくありません。

 まぁちゃんに記録頼むし。

 まぁちゃんに、記録頼むし……っ!

 ……本当は結構惜しいんですけど、我慢です。


 ちなみに、まぁちゃんにも計画に対する賛同は既に得ています。

 試合に参加すると打ち明けた時に、あっさりとまぁちゃんは言いました。

「まあ、好きにすれば良んじゃねーの? ただし、危険な行為と大怪我は絶対にするなよ」

「中々難しいこと言うね、まぁちゃん」

「……まあ、一人で戦う訳じゃなさそうだし、別に大丈夫か」

 まぁちゃんが普段からとっても過保護に見えるので、それを見ていたモモさんは拍子抜けしたって顔をしていましたけれどね?

 確かにまぁちゃんは方向性によってはとっても、かなり、物凄く過保護です。

 でも昔っから一緒にヤンチャしていたからでしょうか?

 挑戦(チャレンジ)系の無茶だったら、結構どっしり構えて見守っていてくれるんですよね。

 一人でやる訳じゃないってところも大きいと思います。

 これが私一人の挑戦だったら、問答無用で止められていたかもしれません。

 私もまぁちゃんの過保護スイッチ、全部を把握している訳じゃありませんけれど。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 予選の初日。

 説明会の帰りに張り出された日程表には、注意事項が三点のみ。


 ・動きやすい格好を心がける

 ・武器必携

 ・ドーピングは事前に済ませておくこと。

 

 ……個人的に。個人的に、だが。

 ああ、物凄く三点目に物申したい……っ!

 なんでドーピングが前向きに受け入れられているんだ!!

 俺は納得のいかないモノを抱えながらも、常と同じ恰好のまま、武器を携えて指定の場所へ足を向けた。


 ぽん、ぽぽん、と……何かの弾ける音。

 何故、こんな昼間から花火を上げているんだ……。

 首を傾げながら辿り着いた、指定の場所。

 そこには俺以外に参加を希望する屈強な戦士達……多種多様な種族の猛者。

 そこは良い。

 ああ、そこは良いだろう。

 良くないのは、他の点だ。

 ……何故、集合場所に大きな横断幕が張られているんだろうか。

 俺の目がおかしくなったのでなければ、変な文言が書かれているんだが。


 ――『ドキドキ☆はらはら☆わくわく蹴り落とし障害レース』


 ……蹴り落としって、何だ。蹴り落としって。

 いや、他にも言いたいことはある。

 言いたいことは、あるんだが……

 自然と引き攣る表情筋。

 俺は複雑な気持ちで横断幕を見上げていた。

 

 俺の意識は横断幕に向けられていて。

 周囲には種々様々な威圧感と迫力を伴った戦士達。

 その気配に紛れて、近付いてくる影。

 だけど異様な場の……横断幕の空気に呑まれていた俺は、一瞬反応が遅れた。


「勇者のに~ぃさん♪」

 

 横合いから俺の肩を叩いてきたのは、馴れ馴れしい声。

 それは、不本意ながら聞き覚えのある声で。

 うっかりきょとんとした顔で振り向いた先には、半ば予想のついた蒼黒い髪。

「――サルファ?」

「そそ☆ 半年ぶりだねぃ、勇者の兄さん♪」

 俺よりも年上の癖に俺を兄さんと呼ぶ、目の前の軽佻浮薄な男。

 ただしその身のこなしも、本人の人間性に比例するかのように軽い。

 軽い癖に物凄く濃い人間。

 ある意味で、魔境に物凄く馴染んでいる。

 ……だからまた、いつかどこかで、魔境で会うことになるだろうとは思っていた。

 思っていたが、この場で会うのは完全に予想外だ。

 意表を突かれた思いで、俺はサルファに疑わしい目を向ける。

「サルファ、ここは武闘大会の予選会場だぞ?」

「うん、その疑惑の眼差し久しぶりー……なんか南の海で波乗り雪男発見!みたいな目で見られてる感が半端ない」

「あながち間違ってないな。半年前、実家から逃げてどこかに行ったのはわかってるんだが……今までどうしてたんだ? 同行していた以上、俺達に一言あってしかるべきだったんじゃないか」

「わあ☆ 勇者の兄さん、マジ怒りしてね? 目が何か怖いんですけど……」

「そうか、空気は読めるんだったよな。君」

「ごめん、許して! 目に殺気が籠ってるよ☆」

「それが許しを請う態度なのか……!?」

 あれから、半年が経っている。

 実家から逃げ回っているというサルファは、何の言伝もなく俺達の前から姿を消した。

 だからと言って誰も気にも留めず、行方を気にかけていなかったのが何だか印象的だが。そう言いつつも、俺自身がサルファの行方を特に気にしていなかったんだが。

 それでも、一応の礼儀として一言があっても良かったんじゃないか。

 そう思うんだが……

「勇者の兄さん、ごめんって★」

「………………もう良い。何だかお前の顔を見ていたら、気が抜けた」

 言葉の通りに気が抜けて、なんだかどうでも良くなった。

 いま魔境(ここ)にいるということは、恐らくマルエルさんのところへ戻ったか連れ戻されたかして、また(しご)かれていたんだろう。

 ……そう考えて留意してみると、サルファの全身から漂う雰囲気に変化はないものの……また、腕を上げたと。

 そう悟らせる気配も少ないけれど。

 悟らせない(・・・・・)程、半年で鍛えられたことが察せられた。

 思った以上の成長……こののらりくらりとしたサルファを捕獲して叩き上げたマルエルさんは、本当に凄いと思う。

 きっと物凄く苦労したことだろう。

 元々弱い訳ではなかったサルファが、実力面でどれだけ飛躍したか……気にならないといったら、嘘になる。

 だけど気にしたら負けの様な気もする。

 だって、相手はサルファだ。

 深く気にしてはいけない、気にしては……と、そんな気にさせられるのは何故だろう。

「勇者の兄さん、此処にいるってことは兄さんも参加すんだよね。武闘大会」

 勇者の兄さんだから当然だよな、と。

 そう言って笑うサルファの顔を見ていると……なんだろうか、この湧きあがってくる微妙な衝動。

 ああ、一発殴りたい。

「サルファも参加するのか……? こう言ってはなんだけど、サルファは武闘大会ってガラじゃないような」

「だよねー! だよねえ!? けどさ、聞いてよ勇者の兄さん! 婆ちゃんったら酷ぇの! 武闘大会の本戦でそれなりの成績が残せなかったら、今度こそ俺を八つ裂きにするって言うんだよ!?」

「……今度は何をやったんだ、お前」

 確か、半年前は手当たり次第に獣人の女性に声をかけて苦情が来たとかで、丸太に縛り付けられた上で山の坂から転がされたとかなんとか……今度は一体、どんな不祥事を起こしたんだ。

「うっかりさぁー……本当に、うっかり」

「だから、何をやったんだ。他人に迷惑をかけてないだろうな!?」

「あ、その点は大丈夫☆ 迷惑をかけたのは身内だから!」

「全然安心材料がないだろう、それ!」

「婆ちゃんもあんなんで怒るなんて年だよなぁー……ただちょっと、婆ちゃんの服を全部ふりふりピンク☆のミニスカ❤エプロンドレスに改造しただけで」

「それ結構なことをやってると思うのは俺の気のせいか? なあ、気のせいなのか!?」

「だって婆ちゃんの服、せくしぃー系しかないんだもん! たまには違う趣向の格好も見たいじゃん! 目の保養じゃん! 絶対領域とちらちらパンツ素敵じゃんか!!」

「曾祖母を相手に何をやってるんだ、お前は……っ!!」

 ほ、本当に何をやってるんだ此奴は……!

 俺は内心、戦慄した。

 理解不能の謎の生物を前にした気分だ。

 サルファ……お前のその度胸は、一体どこから来るんだ?

 そして本当に、義理とは言え曾祖母を相手に何をやってるんだ、お前は?

 ここが故郷だったら、不埒者として逮捕申請していたかもしれない。

「裁縫もできるんだな、お前……」

「当然☆ 旅芸人一座にいた頃、ひと通りは姐さん達に仕込まれたし。舞台衣装のカスタマイズとか、俺も手伝ってたし☆」

「そ、そうか……」

 本当に多芸だよな、此奴。

 ただ何故だろうか……

 今は物凄く、リアンカ達に会わせたくない。

 ふとそう思う、俺がいた。






 今回こそ、勇者様不憫祭に突入する予定だったんですが……

 前振りに予想以上に使ってしまい、敢え無く次回へ延期となりました。

 でも勇者様がどんな目に遭うか……想像の余地はありますよね?

 何しろ次回から 障 害 物 レ ー ス 、ですから。

 ちなみにレースは全部門共通のプログラムなので、勇者様は仮装を免れています。

 次回からちょっとした修羅場ですが、勇者様がんばれ☆


くぅ小父さん(クウィルフリート)

 魔族には珍しく、比較的露出の少ないローブをまとった青年。

 冷静沈着という言葉を連想する立ち姿の、落ち着いた風貌(外見のみ)。

 真っ白で雪の様な髪と肌で、上品で涼しげ……なのに口が悪い。

 子供に弱い魔族らしく、奥さんと子供を大事にしている。

 外見的に雪とか氷とかと相性が良さそうに見えるが、実は炎の魔人。


マルエル婆

 御歳600オーバーの魔族女性。

 しかし若かりし頃に不老長寿の妙薬(竜の生き血)をぐいっといっている為、今でも若々しいお色気美女。

 ぼんきゅっぼんですが、何か。

 大体いつもの格好は、零れそうな胸を申し分程度に隠す胸元と、健康的ではちきれんばかりの足腰を滑る大胆スリットのロングスカート。あとは生肌。お腹も腕も肩もモロ出し。

 

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