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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
静かさとは無縁の病室
22/122

20.人払いも鮮やかに

「しっかし、いざ着せ替えのチャンス!って思うと目移りしちゃうよね。中途半端に試合数分だけかと思うと……アレもコレも着せたいなぁって欲望がうずうずしちゃうよ」

「……頼むから、そのアレとコレは選ばないでくれることを天………………幸運の女神に祈ろう」

 うぅんと悩ましげな溜息を溢しつく苦悩に眉を寄せるヨシュアンさん。

 そんな彼を前に、勇者様は今日も絶好調に目が死んでいます。

 もうかれこれ15分、衣装について検討中。

 その間の会話の節々で抗議を叫んだり苦悩したりのたうちまわったら地に伏したり……まあ、勇者様にも色々ありました。

 うん、いつものことかもしれない。

 ちょっとフルコース気味な、リアクションオンパレードという感じでした。

「でもやっぱり俺とリアンカちゃんだけじゃデザインも偏るよねぇ。ここは一つ、別視点から新鮮な解釈なり、切り口の違う意見なりが欲しいところ、だ・け・ど……」

 頭を抱える勇者様を少しも気にかけない、画伯。

 意味ありげな視線がさりげなく走った先は……


 そこには三人の男女……の内、画伯の視線が向いている相手は明らか。

 ベッドに倒れ伏す騎士Bに、含み笑いを注ぐ騎士C。

 ヨシュアンさん、貴方の言いたいことはわかります。


 私達がわいのわいのと勇者様の意思を軽く受け流しながら衣装をああでもない、こうでもないと相談している頃合いで。

 部屋の向こう側……騎士Bのベッド周辺で動きがありました。

 動いたのは、騎士C。

 私達の方をちろりとさり気無く眺め、サイさんと画伯の視線が交わったのは一瞬のこと。

 え、なに?

 なに、今の目配せ。

 画伯と騎士Cって、目配せ一つで意思が通じ合うような仲だっけ?

 私達が不在にしている半年の間に、そこまで通じ合っちゃった?

 謎の目配せで何が通じ合ったのかはよくわからないんですけれど。

 サイさんは、私達の知るサイさんとはまた違った様子で。

 ……まるで、紳士の様な仕草で。

 彼は隣にいたエルティナさんを、立ちあがる様にそっと促しました。

「サイ?」

 エルティナさんが、困惑の混じった顔でサイさんを見上げます。

 それに対してサイさんは、そっと私達の方へ視線を流しながら言いました。

「先程から……女性に対してあまり好ましいとは言えない話題が展開されているようだから。この環境に君を置いておくのは、少し憚られるかと思って」

「う……確かにちょっと気まずいけど、でも私達とは関係のない話だし」

「でもこれからますます過激な話題が聞こえてくるかも知れない。年頃の女性が、そんな環境に身を置くものじゃないよ」

 こ、これは……!

 さりげなくサイさん達の会話に耳を傾けていた私は、はっと悟りました。

 相手のことを思いやっている素振りで、さり気無く追い出しにかかってませんか!?

 追い出すというと言葉が悪いかもしれませんが、退室する流れに持って行こうとしているのは明らかなような。

 相手はサイさんが好意を寄せている女性(この半年の間に夢破れていなければの話)。

 そんな相手には、騎士Cといえども見せたくない姿はあるでしょう。

 そして私達と悪ふざけに興じ、悪ノリする姿は……まあ間違いなく、十中八九見せたくない姿なのでしょう。

 自分が病室から遠ざけられる本当の理由など知らないエルティナさんにしてみれば、言葉通りに婦女子としての立場を慮って問題の多い環境から遠ざけようとしてもらっているとしか思えないでしょうけれど。

 でもエルティナさんも何を気にしているのか……ああ、うん、騎士Bを気にした様子で、躊躇いがちにうろうろと視線を彷徨わせています。

 未練の残る様子を隠そうともしない彼女に、騎士Cは真摯に語り掛けました。

「ベルガのことなら、ちゃんと僕が見ておきますから。後は此方に任せて。エルティナは他にもすることがあるよね?」

「う……確かに、アディオン様からお使いを頼まれているけれど」

「だったらそちらを果たしに行ったらどうかな? 今夜は僕が病室に泊まり込むので、明日はよろしくお願い」

「……ひとりで?」

「そう、ひとりで」

「…………………………わかったわ。後をお願いね?」

「はい、もちろん」

 二人の間で、折り合いがついたのでしょう。

 どのポイントで纏まったのか謎の交渉でしたが。

 でもエルティナさんは、この場をサイさんに任せて撤退を決意した様子。

 ……うん、それが今の状況の全てだよね!

 会話の中になんか気になる単語が混ざっていたような気がしないでもないけど、きっとそれは私の気のせいか幻聴か錯覚でしょう!


 ……この後、知ったことなのですが。

 ハテノ村を訪れた『勇者御一行』の為に建てられた、勇者様ハウス。

 それは当然、受け入れ人員に『勇者の仲間』も含まれている訳で。

 お国から正式に勇者様の従者に選ばれた、エルティナさん。

 そして故国から勇者様に仕えるよう言い含められた上で派遣されてきた、騎士ABC……

 その滞在先なんて、よく考えたらわかったはずですよね?


 彼らは、『勇者様ハウス』にて同居しているそうです。


 アディオンさんと、緑の物体(アスパラ)と。


 緑の館……思った以上に人口(・・)密度高かったんですね。

 若干一名(騎士B)、居留先を決めたモノのほとんど……というか全く足を運べていないそうですが。

 共同生活の当然として、助けあい、作業分担して生活を共にしているそうです。

 でも魔境育ちでとんでもない事態やら摩訶不思議な事態やら奇想天外な事態に慣れている訳でもない、人間の国育ちの人間さんばっかりの生活で。

 そこにアスパラという異物が混入している訳ですが。

 それって並の人間に耐えられる苦行なのでしょうか。

 あんな非常識な野菜(アスパラ)と生活を共にして、エルティナさん達は大丈夫なのかな? 主に、精神的苦痛とかが。


 でも特にやつれた様子や、思いつめてるようにも見えません。

 思ったよりも、エルティナさんってメンタル面図太いのかな?

 それは魔境で生活する上で何より大事なことだと思います。

 うん、精神が頑丈なのは良いこと……ですよね?


「――さて」


 にこやかな笑顔で、手なんか振りながら。

 何事もないかのようにエルティナさんを見送って、振り返った騎士C。

 こちらに向けられたその顔は、一瞬前とは随分と違って。

 何だかきりりとした……ああ、うん。


 無駄に凛々しい、『職人』の顔になっていました。


 何を察知したのか、騎士Bがベッドの上で見悶えています。

 何かを言いたいようで、騎士Cに向けて飛び交う謎のジェスチャー。

 しかし何を言いたいのか、ちっとも察することが出来ません。

 ええ、付き合いの浅い私にはさっぱりです。

 だって騎士Bの口は、開くことが出来ないように固定されてますから。

「……ベルガ、何か言いたいことがあるんなら喉の調子が戻ってからにしよう? 何が言いたいのかさっぱり意味不明です」

「~~~……っ!!」

 そしてどうやら、付き合いの長い騎士Cにもさっぱりだったようです。

 

 騎士Cはすっぱり鮮やかに騎士Bの声なき訴えを受け流し(スルー)の上、改めて私達にきりっとした顔を向けました。


「こんな楽しそうな事態に乗り遅れるなんて、布地屋(息子)の名折れ! 小道具、装飾、型の流行り廃りはこの僕にお任せあれ!」


 堂々と、とても立派に素敵に、楽しそうに。

 布地屋の息子(本職:騎士)のサイさんが参入を表明しました。

 今では戦闘職に就いておられる方ですが、生家の影響か服飾関係に強い関心とセンスをお持ちの騎士Cです。

 実際、以前のどっきりで一緒に衣装を手がけていただいた時の手際は見事なものでした。

 そんな彼も、我慢する様子すら見せず躊躇いもなく身を乗り出しておいでです。

 わあ、心強い☆


 勇者様の試合でのお衣装が、ますますとんでもないことになりそうな予感がしました。


「………………凝った衣装じゃなくて良い。いっそ腰ミノだけとかでも良いから、誰か彼らの暴走を止めてくれ……」


 自分の近い未来に何か絶望を覚えたのでしょうか。

 勇者様がいっそ潔いのかどうなのかよくわからない、どことなく他力本願な魂の呟きを深く吐きだしました。

 そんな勇者様の肩を、まぁちゃんがぽんと軽く叩きます。

「勇者、よく考えろ? 無理だ」

「……世は無情」

 勇者様は頭を抱えてしまわれました。

 後少しでアルマジロ並に丸まりそうなくらい、深く、深く。


「試合は五つの部門。それぞれ毎にテーマを設定して……」

「勇者様は人間だから、飛び入り予選からの参加ですよね? 予選と本選で違いを出すのも良くありませんか?」

「それだったら――」


 顔を突き付け合わせて語り合う、私達。

 そんな私達を眺める勇者様の眼差しは、砂漠の砂のように乾いていました。

 ドライアイになっちゃう!

 水分! 勇者様、水分補給して!

 

 ……勇者様の乾いた目を見て、ふと頭の端っこで思いました。

 今度、目薬の研究改良でもしようかな?


 

 


「うぐむぐぅ、ふぐぅ……!」

「あ、あれ……っ? ベルガさ、ん……そんな身を乗り出して、どうしたの?」

 病室に備えつけていた備品の補充から帰ってきたラヴェラーラが見たのは、和気藹々と話の弾むリアンカちゃん達。

 そして彼らからポツンと離れたベッドの上で、懸命にもがいている騎士B。

 患者に苦しい思いをさせる訳にはいかない。

 そんな看護師魂に背を押され、ラヴェラーラはベルガのベッドに近づいた。

 何か不備でもあっただろうか?

 現在、ベルガは喉を痛めて喋ることが出来ない。

 だから言いたいことがあるのなら、管理責任者である自分が汲み取らなくては。

 ラヴェラーラさんはそう思ったらしく、そろりとベルガの側に近づいた。


 その時だった。


  

 ――ガドンッ


 謎の衝撃音。

 横合いからいきなり襲ってきた、音の襲撃。

 病室内の皆々様がちょっと目を見張って、音の発生源へと思わず目を向ける。

 そこには……



 それは、赤みを帯びた朱金の鬣の。

 見上げるように大きく、威風堂々とした威容の。

 くねる大蛇の尾と、視界いっぱいに広がる大きい黒い皮膜を翼に広げた。


 一頭の、獅子の化け物。


 そうとしか形容できない、異形の生物。

 

 病室から空へと向けて開放されていた、大きな窓に張付くような形で。

 何故か大きな口に、これまた大きな兎をくわえて。

 理性を宿し、奇妙な人臭さを感じさせる大きな瞳が、病室の中を炯々と見据えていた。







番外編置き場に何度か出てきたあの人が、とうとう本編に……!?

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