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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
静かさとは無縁の病室
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19.最悪の危機(だけ)回避



 とりあえずお仕事を頼むにしても、事前情報を伝達した方が良いですよね!

 そんな訳で、私はベッドに仰臥するヨシュアンさんと、それから騎士Cにも聞こえるように大きな声で言いました。

「ヨシュアンさん! 実は私、さっき勇者様に武闘大会で好きな衣装を着せる権利ゲットしまして!」

「え、マジで? ……何部門参加?」

「全部です! 何しろまぁちゃんへの挑戦権はより多く勇者様に得て欲しいですし☆」

「リアンカちゃん流石ー! でも団体戦の部は陛下への挑戦権ないよね?」

「あれ?」

 え、無かったっけ?

 全部門、優勝者はまぁちゃんに挑戦できるって思ってたんだけど、違うの?

「六百年前だっけ? なんか陛下の曾ばあ様……三代前の陛下が団体戦で勝ち上がってきた勇者パーティに酷い目に合わされたとかで。用意周到に罠を仕掛けられたらどうにもならんとか何とか? なんかあって、団体戦での挑戦権は消滅したらしーよ☆」

「え、まぁちゃん本当!?」

 六百年前なんて大昔、人間には及びもつきません。

 そんな大昔に、一体何があったというのでしょう。

 私が知っている『勇者』の実例は目の前にいる、ライオット・ベルツ様だけなんですけど。

 六百年前には、魔王に一矢報いられるような凄い勇者がいたというんでしょうか。

 魔王の実力を……まぁちゃんの力を間近に見てきただけに、にわかに信じられません。

 ここ数百年で一番の実力者だといわれるまぁちゃんの力に比べて、六百年前の魔王さんがどの程度の実力を有していたのかは知りませんけれど。

 でも魔王という時点で、生半可な存在じゃなかったはずなのに。

 六百年前の勇者は、一体どれだけの猛者だったというのでしょうか。

 私はちょっぴりの期待と、好奇心と。

 それから疑心を込めて、まぁちゃんを見上げました。

 私の隣で、偉大なる先達(仮)の偉業を知った勇者様も似たような顔で、まぁちゃんの答えを待ちます。

 誰かが唾を飲み込む音が、やけに響いて聞こえた。

 そんな私達に、まぁちゃんは一つ頷き言いました。


「なんか最終的に結婚させられたらしい」


 ちなみにそれが、俺の曾ばあさんと曾じいさんな、と。

 まぁちゃんがそう言ったんだけど……あれ?

「え! 酷い目ってそっち!?」

「何かが凄まじく間違ってないか!?」

 私と勇者様は素直に驚き、六百年前にどんな珍事が起きたのかと口を大きく開いてしまいました。あんぐり。

 なんとなく。

 なんとなく、ですが……うっすら、まぁちゃんの曾お祖母様に勇者様と似たような臭いを……苦労人臭さを感じたのは気のせいでしょうか?

 いや……いやいや、まさか。まっさかぁ。

 まさか、まぁちゃんの曾おばあちゃんがそんな訳ないよね!

 そんな訳ないよね、うん!

「何があったんだ六百年前……!!」

「何があったんだろうなぁ……詳細、聞きてぇか?」

「あ、知りたい! まぁちゃん教えて!」

「待て、リアンカ! こっちの覚悟はまだ決まってないから! そこはかとなく嫌な予感がするというか、俺は聞きたくない!」

 私は知りたいのにな。

 勇者様が強固に反対するのと、今は別の目的があるのにうっかり流されそうな自分に気付いたこと。

 その二つの理由で以て、今回は追及を諦めました。

 でもまぁちゃんが、なんと後で私達に見せてくれるそうです!


 魔王家に代々伝わる、歴代魔王の黒歴史ノートを。


 やったね☆

 これで詳細も一発でばっちりです。

 魔王家のお子さん方の教本と化している、歴代魔王の黒歴史について綴った本。

 現時点で一体何冊……何千、何万冊あるのか知らないけれど。

 あまりにも情報が膨大すぎて、敢えて手を出そうって気に中々なれないんですよね。

 気になるエピソードが出て来た時、関連する部分を読ませてもらうのが精々でしょうか。

 というか毎回毎回書くネタが尽きないのか、魔王の黒歴史膨大すぎませんか? そんなに代々何かしら黒い歴史が発生しているんでしょうか。やっぱり業の深い家系なので、何か変な呪いでも付きまとっているのかもしれません。


「まあ、色々と吃驚したけど。でもうん、出場登録はもうしちゃったんだよね」

「へえ☆ もう登録が済んでるんなら別に良いんだけど」

「良くない。ちっとも良くない……が、リアンカがそう言うんなら本当にもう登録されているんだろうな」

「…………勇者君ってば超☆素直だよね」

「それが勇者様ですから!」

 どうやらヨシュアンさんも気付いたようです。

 嫌なら出場登録の取り消しに行けば良いのに、勇者様がそれに思い至っていないこと。

 ふふふ、と含み笑いが怪しい雰囲気。

 まあ、画伯の顔は美少女さながらなので、傍目にはとても可愛いんだけど。

 私達的には美味しい展開なので、親切に言いだす者は皆無です。

「そこでね、画伯!」

「予想は付くけどなんだい、リアンカちゃん!」

「私一人で考えるのは勿体ないし、ここは画伯のお力を……というかむしろその磨き抜かれた才気輝くセンスをお借りしたいなって!」

「YES! そういうことならどうぞ☆ どうぞどうぞ、喜んで☆」

 画伯も楽しくなって、うきうきして、ワクワクですよね?

 過労でぶっ倒れた直後とは思えないほど活き活きと、いつの間にやらテンションMAX!

 今にも跳び上がりそうなほど、溢れんばかりに全身で表現しています。

 ――やったぁ!という、歓喜を。

「それで、どういう方面からアプローチしていくかもう決まってるの? テーマは? 公序良俗レベルは!?」

「待ちましょう、画伯。落ち着くのです(笑)。折角各部門に分かれてるんだから、ここはより楽しむ為にも部門ごとにテーマを設置しようかな☆と思っている訳で」

「あっはは♪ 半分……いや、三部門は女装だね!」

「望むところです! 金髪ヅラを各種ご用意しちゃいますよ!」

 画伯も色々とイマジネーション(笑)の翼がばっさばっさと羽ばたいているのでしょう。

 実際、現実的に興奮からか画伯の顔の横に生えている緑の翼がパタパタ楽しそうに動いています。

 瞳はキラキラ☆ 頬は赤く染まって林檎みたい。

 ああ、これで女の子だったら完璧な美少女なのにね。

 最早、勇者様の基本的人権を尊重する様子はどこにもなく吹っ飛んでしまっています。(そもそも最初からなかったとも言う)

 この絶好の機会をどう欲求の赴くまま、愉快な糧にしてやろうかと逸る心に支配されている様子です。

 ええ、勇者様にとっては堪ったものじゃありませんね。


「ちょっと待てーっ!! 人に拒否権がないのを良いことに、突っ走り過ぎだろう!? 暴走し過ぎだろう!? 理性はどこに投げてきた!」


 案の定、勇者様が頭を抱えて詰め寄って来ました。

 最初はヨシュアンさんに何かしようとしたみたいですが、寸前で相手が倒れたばかりだと思いだしたのでしょう。

 はっと息を呑み、ですが激情を押さえることも出来ず。

 次善の相手として、勇者様は私の肩を前後に優しく揺さぶって来ました。

 ……勇者様、私は画伯の二の次ですか?

 だけどこの期に及んで、私が相手だと力加減を『対淑女レベル』まで落とすあたりが凄く勇者様らしいと思いました。

 こんな状況で優しく揺さぶるって何なんでしょう。

 普通、こういう状況下だったら、物凄く激しく揺さぶりません?

 相手がまぁちゃんとか画伯とかサルファだったら、容赦しませんよね。

 勇者様、実は冷静なんですか?

 それとも『女性には優しく』という言葉が魂の根底にまで刻まれているのでしょうか。

 どちらにしろ、勇者様の身に染みついた紳士ぶりに目頭が熱くなりそうです。 

 本当、愉快な人ですよねー……

 口元が、自然と笑みを刻みます。

 画伯も口元がにんまりと三日月みたいに吊り上がりました。

「理性? そんなもの、18年くらい前にはお空の彼方だよ☆」

「勇者様、画伯に理性なんて求めても無意味ですよ。副業がアレな時点から鑑みても、到底望めそうにはないお言葉じゃないですか」

「色々な意味でアウトだ、君達は……っ」

 打ちひしがれた勇者様は、雨に打たれた子犬並に哀れに見えました。

 けどまあ、こんなのまだまだまだまだ序の口だよね?

「公衆の面前で女装って、そんなに問題なんですか?」

「リアンカ……その問いは、本気か? どう考えても俺にとって不名誉な汚点が残るだろう。真っ当な男が、その状況を喜ぶとでも?」

「うーん……勇者様なら喜びはしないでしょうけど。でも画伯とか、平然と凄まじい完成度の女装をご披露してくれますよ?」

「ヨシュアン殿と一緒にしないでくれ!」

「あっはっはー。リアンカちゃん、俺のこと女装癖っぽく思ってたー? 俺だってただ、色モノの格好する時にだって俺自身に似合う範囲で選択してるだけだよ☆ なんか俺に似合う色モノの格好ってなると、どうしても女装になっちゃうんだよね」

「それ以前に、さも当然の如く色モノの格好をしていることに疑問を持たないのか!? なんだそれ、日常なのか!」

「まあ勇者君の心情も男として理解できなくはないけど。芸の為に身を削ってこそ、更なる高みに飛躍できるってもんだろ☆」

「俺は芸を磨くつもりは一切ない!! せめて少しは名誉を守ってくれないか!?」

 勇者様の必死な叫びに、思わず私達はきょとんとしてしまいました。

 勇者様の名誉? うん、いまさらいまさら。

「勇者様だって魔境に来て以来、衆人環視の前で肉体美(マッパ)披露から始まって、色々な格好してきたじゃないですか。今更女装くらい、大したことありませんって」

「く……っ そんな訳ないだろうと言いたいのに、そう言われると確かに今更な気がしてくるから止めて下さい!」

 嫌がる勇者様。

 乗り気な私達。

 やがて埒の明かない状況下、実は選択権のない勇者様の意向に耳を傾ける気を失くしたのでしょうか。

 ヨシュアンさんが、勇者様の抗議を聞き流して行動に移りました。


「こんなこともあろうかと! 日頃描き溜めておいたデザイン画OPEN~!」

 

 ばっさーと翼を広げる勢いで。

 画伯が、手近な場所に置いていたスケッチブックを多重展開させました。

 両手が包帯ぐるぐるなこともお構いなしに、ぶわさっと。

 スケッチブックから千切り取られたデザインは、ふわりと空中に投げ出され……それぞれが重ならない位置で、ぴたりと落下する動きを止めます。

 私に見やすいよう、こちら側にデザイン面を向けて。

 相変わらず、ヨシュアンさんってば器用ですねー。

 細かい魔力操作は確実にまぁちゃんより上手です。

 まあ、まぁちゃんは魔力が強すぎて制御の難易度が段違いに難しいので仕方ないんでしょうけれど。

 空中、丁度私から見やすい高さで多重展開されたデザイン画の数々。

 そこに描かれた衣装は…………私の口からは、詳細なんてとてもとても……っ

 センスは光るどころか竹に入っていた姫の如く輝きまくっていますけれども!

 これらの衣装を着用するモデルさんが勇者様かと思うと腹筋が弾け飛びそうです。 

 な、なんとか、我慢……っ

「環お4位エアあをあtあ……!!?」


 あ、勇者様が壊れた。


 まあ壊れちゃっても仕方ないかな!

 正しい意味で、視覚の暴力です。

「ぶふ……っ」

「お、おいこらヨシュアン……? てめぇ、なんて目の毒をリアンカの前で」

「えぇっ これでも刺激の少ないのを頑張って厳選したのにー……って、あ。ごめんごめん、陛下、リアンカちゃん。四枚もぶっ飛んだヤツが混ざっちゃってたね!」

「お、お前……アレ、素面で考えたのか? 変なのしかいねぇ魔境の有象無象やら紳士会の馬鹿野郎共やら淫魔の阿呆どもやらでも気にしねぇ俺が、正気を疑うレベルだぞ……? 正直、お前が入院中の病人だろうと今すぐ窓から吊るしたくて仕方ねぇんだけど」

「あっはっは☆ 陛下、勘弁して」

「真顔で言うくらいなら最初っから混ぜんな!」

「ちょっとした事故! ちょっとした事故だから!」

「事故だろうと、故意じゃなかったんだろうと、殴りたくて仕方ねぇ」

「これはちょっとコアなファン層にしかうけないヤツだしね☆ 目の毒だったね、ホントごめん、リアンカちゃん」

「画伯……一瞬、アレでソレなこのデザイン通りの衣装を身にまとった勇者様を想像しちゃったじゃないですか」

「やめてっ! 何考えた!?」

「お、勇者が復活した」

「流石に聞き捨てなら無いって言うか、本当に、真剣に止めて下さい!」

「羞恥系の拷問でも、ここまでは酷くないよねぇ……ごめんネ☆ 勇者君!」

「想像しちゃった私も真剣に目に毒というか、脳が死にそうです……」

「俺の方こそ憤死しそうだよ!!」

「あ、ちなみにリアンカちゃん? 露出度はどこまでOK?」

「……待て、ヨシュアン殿。何故俺ではなくリアンカに尋ねるんだ」

「え、勇者様の衣装の……露出度ですか? 出来れば『いけるとこまで☆』と言って差し上げたいのは山々なんですけれど」

「リアンカさん!? 俺の精神的被害を度外視するのは止めてもらえないだろうか!」

「勇者様もこう言っていますし、それに小さい子達も見物に来ますからねー……」

「ああ、そっか……チビッ子達にショックの強いモノは駄目だよね。幼子はいたわらなきゃ」



 とりあえず誰も勇者様のために、とかは言い出しません。

 ただ小さな子も見るから。

 そのことだけを理由に、こうして勇者様が破廉恥☆系の汚名を被りそうな衣装は回避されることとなりました。

 さっきのショッキングすぎるデザイン画みたいな……酷い格好にならずに済みそうで良かったですね、勇者様。





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