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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
静かさとは無縁の病室
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17.神々の刻印



 魔王城の医療棟には、入院設備もばっちり完備されています。

 でも肉体強度:やたら頑健な、鋼の生命力を誇る魔族の方が入院するなんて余程のことで、そうはない筈なんですけれど。

 その中でも指折りの実力者(実は)であるヨシュアンさん。

 いくら酷使されようと、どれだけの激務であろうと。

 果ては一日で魔境の端から端まで飛びまわるという無茶ぶりをさせられようとも。

 おいたがバレたとかで、りっちゃんに吊るされた時くらいでもなければ、どんな苦境にもぴんぴんしているヨシュアンさんが。

 軽くひょいひょいとそれらの任務をこなした上、趣味の副業を鼻歌交じりに計画以上のペースで進めるだけの余裕を有したヨシュアンさんが……!

 そんな彼が入院する事態って……何があったの?

 また、りっちゃんに吊るされたんでしょうか。

 前にりっちゃんからシメられた時も、軽く入院していたけれど。

 その時はちゃんと怪我の程度までまぁちゃんに報告が行っていて、私もまぁちゃんから説明を受けたお陰か動揺はさしてなく。

 なのに今回は、隣でまぁちゃんも驚いています。

 え、なに? まぁちゃん、知らなかったの?

 それともまぁちゃんが驚くくらい、画伯酷いの……?

 ……えっと、今回はどれだけの危機ですか?

「ま、まぁちゃん……っ!? 私、聞いてないんですけど!」

「俺も今初めて聞いたわ。ここんとこハテノ村に泊まり込んでたしなぁ……」

 まぁちゃんは極めて悠長に、心配する素振りも見せずに頷いています。

 いや、直属の武官さんですよね。

 入院したってお知らせ、まず真っ先に直属の上司(魔王)であるまぁちゃんに走っていてもおかしくないと思うんですけど。

 のんびりしたまぁちゃんの態度に若干呆れつつ。

 私達は容態を確かめる為、ヨシュアンさんが入院したという医療棟へと足を向けることにしました。


 あ、ちなみに勇者様もちゃんと一緒ですよ!

 壁に激突した時、本当に物凄い音がしたんで、どこか傷めたりしていないかとも思ったんですけどね。

 そんな心配なんて無駄なくらいに 無 傷 でした。

 ぶつけた額をちょっと擦っていましたけれど、掠り傷一つありませんでしたよ。魔王城の強靭な壁と正面からぶつかっておいて無傷って、勇者様のお体は超合金製なんでしょうか。

「勇者様の身体って、オリハルコンとかヒヒイロカネとか、その辺の金属を混ぜ合わせた合金で補強されてるって言われた方が信憑性ある気がします」

「俺もそう思って勇者が寝てる隙に色々調べてみたんだけどなぁ……こいつの身体、まるっきりの生体でやんの。金属反応は一切ナシだ」

「待て。色々言いたいが、酷い物言いはいつものことだが、待て。人が寝てる隙に何をやったんだ、まぁ殿!?」

「ん? まあ、好奇心を満たす為にな。色々面白かったぞ?」

「何をやった! 人の身体に何をやったんだ!?」

「リアンカー、勇者(こいつ)の背中、加護を刻んだ神々の刻印が刻んであんだぜ?」

「なに!?」

 あれ、勇者様がぎょっと目を剥きましたよ。

 どうやら当人も知らなかったらしい、背中の秘密。

 今が初耳って顔で、顔面引き攣らせながら背中を気にしています。

 うん、手を伸ばしても見えないなら、どの辺りにあるかわからないと思いますよ?

「え、まぁちゃん本当? だったら背中が露出する衣装は考えた方が良いかなぁ……ちなみにどんな刻印(マーク)だったの?」

「ん、基本は神の署名捺印って感じか? 名前と一緒にシンボルマークが刻んであってな?」

「勇者様に加護を与えている神様って言うと……」

「陽光・美・愛・幸運……それから一応、勇者選定の際に後付けで刻まれたんだろうが選定の女神の刻印だな」

「へぇ……何だか纏まりがなさそうだし、碌な刻印じゃなさそうですね!」

「ひ、他人事だと思って……! リアンカ、爽やかな顔で言っているが、俺の背中だからな!?」

「ちなみにシンボルマークは☀とか❤とかな……」

「あははははは……っ まとまりなさそうっ!」

「く……っ 俺の背中はどうなってるんだ!?」

 想像したらおかしいんですけれど!

 勇者様の背中の、どの程度の面積を占めているのかは存じませんけれど。

 今まで真正面から半裸とかは見たことありましたけど、考えてみれば背中を見た覚えはありません。

 勇者様がステージで衣服を消滅させられて全裸になった(『ここは人類最前線3』)時は正面からだったし、遠かったし。

 勇者様に滑稽な獅子仮面(マスク)を被せた時(『ここは人類最前線5』)は、上半身裸でも大きなマントで背中を覆い隠していましたし。

 朝から意図せず勇者様のお部屋バーンしちゃって着替え見ちゃった時も、やっぱり正面からだったし。

 そんなことになってるって知ってれば、一度は見ておいたのに!

 我ながら、惜しいことをしたものです。

 

 しかし勇者様、お国では複雑な衣装の着替えとかサディアスさんに手伝ってもらっていましたし、今までも身分上衣装の着脱は使用人が手伝っていたでしょうに……なんで知らないんでしょう?


 まさかあまりにもあんまりな背中の刻印だったから、使用人の人達も言い出せなかったとか……?


 今現在、衝撃から口を押さえて俯いている勇者様を見ていると、その予想は何だか当たっているような気がしました。

 勇者様……どんまい。

 どうせ背中なんて合わせ鏡でもしなければ自分では見難い場所だし、生きているのに支障はないと思います。

 知らなければ良かった事実かもしれませんが……どうか、お心強くお持ちください。


「取り敢えず、まぁちゃん」

「ん? なんだ」

「どんな感じなのか気になるから、後で勇者様の背中の惨状(笑)を図にしてほしいな♪」

「おう、まk――」

「絶対にや・め・ろ!!」


 まぁちゃんの言葉を食い気味に、勇者様は必死で止めてきました。

 現実を受け入れるの、いつもながらに早いですよね。迅速です。

 もう衝撃から立ち直ったらしく、忌々しそうな顔で溢しておいででした。

「………………刺青でもしたら、抹消できるだろうか」

「やめとけやめとけ。神の刻印だぞ? 潰しても、何やっても、どうせ刺青の上から浮き出てくるだろーよ」

「それもう呪いの刻印じゃないか……っ」

「それより勇者様は、必要とあれば背中に刺青するのも止むを得ないと思ってるんですか? 変なところで思い切り良いですよね!」

 背中に大胆に彫り物を入れた勇者様……。

 そんな大国の王子様がいても良いんでしょうか(笑)

 捨て身となったらとことん捨て身になる人です。

 形振り構わないその姿に、本当に嫌なんだなぁとしみじみ。

 私に対してはここまで本気で拒否を入れないのに、神様方はどれだけ忌み嫌われているのでしょうか。主に美と愛。

「ちなみに幸運の女神様はどんな刻印なんですか?」

「あー、幸運……? ………………………どんまい、勇者。世の中には知らない方が心に優しいこともある」

「まぁ殿に同情された!? 一体どんな刻印なんだ……っ」

 まさか幸運の女神が最も酷いのでしょうか?

 色々と興味が尽きません。

 ……やっぱり、一着くらいはガバッと背中の開いた衣装を用意すべきでしょうか。

 



 やって来ました、医療棟!

 医療系の技量を有した方々が管理する、近隣最大の医療機関です。

 ハテノ村には入院設備なんてないので、村人で大過を患う人は大体ここに入院します。

 魔王城関係者じゃなくっても医療の恩恵に与ることが出来るのが、とっても良心的で素晴らしいですよね。

 まあ、ハテノ村の住民は大なり小なり魔王城と関わりを持ってますけど。

 過去には何代か前の勇者の人が入院したこともあるんだとか。

 ……患者を選ばないのは素敵だけど、それで良いのでしょうか(笑)

 そんな魔王城、こんな魔王城。

 それで良いのか、魔王城。


 ちなみに私達ハテノ村の薬師も、ここに薬を卸しています。

 医薬品に関しては、魔王城の趣味人が作った怪しげなブツから、ハテノ村で生産された怪しげなブツまで取り揃えられております。

 魔境アルフヘイムの錬金術師が作った奇怪な喋る薬を見た時は、ちょっと感動しました。

 同じ台詞しか喋らないんですけど、「お前を内側から侵食するぞ……」って喋るんです! 誰がその台詞考えたの?


 医療棟の受付で、ヨシュアンさんの受け入れ先を聞きました。

 結構いい加減に運営されているので(所詮魔族)、大体知り合いが管理する病室とかに入院する場合が多いんですけど……


「リアンカちゃん……っ」


 向こうからとてとて小走りにやってくる、素敵なおねえさん。

 半年振りに見る、彼女は――


 揺れる黒髪、立派な山羊角。ぴるっと震えるお耳。

 揺れる立派な巨乳、はちきれんばかりの瑞々しいお身体。

 見事な格闘技を披露する、強靭でしなやかな手足。

 そんな身体能力をちらとも予想させない、情けなく下がった眉。


「――ラーラお姉ちゃん!」


 可憐な黒山羊のお姉さん、ラヴェラーラお姉ちゃんです!

 戦闘狂と愉快犯の温床である魔族に珍しい、内気で小心なラーラお姉ちゃん(保護対象)が希少価値の高いほっこり笑顔を向けてきます。

「ラーラお姉ちゃん、会いたかった!」

「リアンカちゃん、元気にしてた……? その、半年も……いなかったから、私、心配で。怪我は、ない?」

「大丈夫です! まぁちゃんと勇者様がいるのに怪我なんてしませんよ。災いは全て二人に押しつけました! 優秀な身代わり羊のお陰で私はこの通り、ぴんぴんしてるから!」

「……リアンカ、本人が目の前にいるからな? もう少し、発言は憚った方が良いんじゃないかと思うんだが……」

「ちゃんと相手を見て発言してるので、大丈夫です!」

「言いきったよ彼女!?」

 半年ぶりの感動の再会を演じる中、勇者様は腑に落ちないと言う顔で物言いたげに私を見てきます。

 でもそんな物は黙殺しました。

 だってラーラお姉ちゃんが抱擁してくれてるんですもの。

 

 真正面、から。


 ちなみに私とラーラお姉ちゃんだったら、ラーラお姉ちゃんの方が格段に身長高いです。

 ラーラお姉ちゃんって、意外に女性としては身長高い方なんですよね……。

 そんなお姉ちゃんが、私の首の後ろに腕を回す形で抱きよせて下さっている訳なのですが。


 まあ、何が言いたいかというと。


「元気で良かった、リアンカちゃん……」

「ラーラお姉ちゃん……」

「その……陛下への不穏な発言は、ちょっと……びっくり、したけど……変わらないみたいで、ほっとしたの」

「…………むぅ、うぅ~……」


 私の顔は、ラーラお姉ちゃんの素敵な部位に埋まっていました。


 私、今……男の夢を体現している! 

 私おんなのこだけど!

 

 がっちり頭をホールドされている状態で、逃げ場はありません。

 ラーラお姉ちゃん、結構腕力強いんだよね……。

 物理的な力の差により、私は自力脱出を端から諦めている訳で。

 無抵抗ながらに、それでも本当に危険な状態になる前にラーラお姉ちゃんの二の腕をタップしました。


「お、お姉ちゃん……っ窒息する!」

「あ、きゃぁ……っ ご、ごめんなさっ」


 うるり、と。

 ラーラお姉ちゃんの瞳が涙の膜を帯びて潤みを増しました。

 恐る恐ると私の身体を離し、落ち込んだ様子で耳がへにょんとしています。

「り、リアンカちゃん、大丈夫……?」

「そんなに心配しなくっても大丈夫だよ、ラーラお姉ちゃん」

 八の字に歪んだ眉が、とってもおろおろしている感じで。

 びくびくきょどきょどしている姿を見ると、大変和みます。

 更には、未だに勇者様に馴染んでいない為でしょうか。

 困惑混じりの勇者様の眼差しに気付くと、一瞬で硬直してしまいました。

 今更な感じはしますが、びくびくきょどきょどっぷりは増し……ラーラお姉ちゃんはこそっと私の背後に回りました。

 ……うん、隠れきれてないからね。ラーラお姉ちゃん!





 →刺青

 そんな風に思いきっちゃうくらい、神様のマーキングが嫌なんですね勇者様!

 ちなみに陽光→太陽、美→薔薇、愛→はぁと、幸運→わらしべ

 選定の女神→☝



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